要点
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プラセボ(偽薬)と比較したリラグルチドは、体重を少なくとも5%減少させる人の数を増加させる可能性が高い。一方、望ましくない影響、生活の質(QOL)、主要な心血管イベントに対する影響は、中期(6~24か月)および長期(24か月以上)のいずれにおいても小さいか、不確実であると思われる。
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研究の方法や情報の欠落により、エビデンスに対する信頼性は限られている。リラグルチドの製造元が、24件の研究のうち22件に関与しており、結果の信頼性に懸念がある。
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今後の研究では、さまざまなタイプの人々における長期的な結果を調べ、リラグルチドの製造元に依存しないようにすべきである。
肥満症とは何か?
肥満症は、長期的に体脂肪が多すぎる状態である。2型糖尿病、心臓や血管の病気(心血管系疾患)、ある種の癌などの健康問題のリスクを高める可能性がある。肥満症は世界的に増加しており、医療制度に大きな負荷をかけている。肥満症の治療には通常、より健康的な食事や運動量を増やすなど、ライフスタイルを変えることが必要である。しかし、多くの人はこのような改善を維持するのが難しいと感じ、医師は減量をサポートする薬を処方することがある。
リラグルチドとは何か?
リラグルチドは、満腹感を早く感じるようにする薬のひとつで、食事の量を減らすことができる。もともとは2型糖尿病の治療薬として開発されたが、多くの国で減量補助薬として承認されている。リラグルチドは、毎日の注射で投与される。リラグルチドを服用している人の中には、気分が悪くなったり、下痢や便秘など望ましくない影響を経験する人もいる。リラグルチドは「GLP-1受容体作動薬」(GLP-1RA)である。類似薬にはセマグルチドやチルゼパチドがある。
知りたかったこと
成人の肥満症患者において、リラグルチドが中期(6〜24か月)および長期(24か月以上)においてどの程度有効であるかを知りたかった。体重、望ましくない影響、肥満に関連した健康問題、QOL、死亡リスクへの影響を調べた。リラグルチドの服用を中止した後のことは調べていない。
実施したこと
肥満症の成人患者を対象としたリラグルチドに関する研究を検索した。リラグルチド(投与量は問わない)をプラセボ(偽薬)、無治療、生活習慣の変更、他の減量薬と比較する研究を対象とした。リラグルチドを6か月以上服用した研究を選択した。結果を比較・分析し、エビデンスに対する信頼性を評価した。
わかったこと
31歳から64歳の肥満の男女9,937人を対象とした24件の研究が見つかった。糖尿病や肝臓病など、体重に関連した疾患を持つ人もいた。ほとんどの研究はリラグルチドとプラセボを比較していた。主に高所得国と中所得国で行われた。
リラグルチドをプラセボと比較
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体重減少: リラグルチドを服用した人は、中期(18試験、6,651人)および長期(2試験、1,262人)において、プラセボを服用した人よりも体重が5%以上減少する可能性が高かった。しかし、リラグルチドの試験開始から中期までの全体での体重変化率(16試験、6,050人)に対する影響については不明であり、長期的には体重変化率にほとんど差がないかもしれない(2試験、1,262人)。
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望ましくない影響: 中期的には、リラグルチドを服用している人は、プラセボを服用している人よりも、何らかの望ましくない影響(16試験、8,147人)および重篤な望ましくない影響(20試験、8,487人)を経験する可能性がある。軽度から中等度の望ましくない影響(17試験、7,440人)、あるいは望ましくない影響のために治療を中止したかどうか(19試験、8628人)については不明である。長期投与(2試験、2,640人)では、リラグルチドは望ましくない影響を増加させる可能性があり、そのために治療を中止する可能性が高い。全体的な望ましくない事象や軽度から中等度の望ましくない影響については不明である。
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QOL :リラグルチドは、中期(6試験、3,733人)、長期(1試験、863人)ともに、QOLにほとんど影響を与えない。
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その他の結果: リラグルチドは中期的には主要な心血管イベントにほとんど、あるいは全く影響を及ぼさない(6試験、5,762人)。長期的な主要心血管系イベントや中長期的な死亡に対する影響については不明である。
エビデンスの限界
リラグルチドを服用した人がプラセボを服用した人よりも体重を減らすことに中等度の確信を持っている。しかし、その他のエビデンスについては、研究の進め方の問題や情報不足のために、信頼性は限定的である。長期的な影響を調査した研究や、さまざまな場所のさまざまな人々を対象とした研究はほとんどないため、この結果がすべての人に当てはまるとは限らない。リラグルチドの製造元が、24試験中22試験のデザイン、実施、解析に関与しており、結果の信頼性には限界がある。独立した研究がさらに必要である。
エビデンスの更新状況
2024年12月時点におけるエビデンスである。
《実施組織》阪野正大、杉山伸子 翻訳[2025.12.05]《注意》この日本語訳は、臨床医、疫学研究者などによる翻訳のチェックを受けて公開していますが、訳語の間違いなどお気づきの点がございましたら、コクランジャパンまでご連絡ください。なお、2013年6月からコクラン・ライブラリーのNew review, Updated reviewとも日単位で更新されています。最新版の日本語訳を掲載するよう努めておりますが、タイム・ラグが生じている場合もあります。ご利用に際しては、最新版(英語版)の内容をご確認ください。 《CD016017》