メインコンテンツに移動

集中治療室における混乱(せん妄)を管理するための運動療法にはどのような利益とリスクがあるか

要点

  • せん妄を管理するための運動療法については、信頼性の高いエビデンス(科学的根拠)がないことから、無治療または通常の手当てと比べてどのような利益やリスクがあるかわからない。運動療法を行うとせん妄の持続期間が短縮され、集中治療室滞在期間の短縮につながることがあり、有害な副作用もない可能性がある。しかし、この分野ではさらなる研究が必要である。

  • 今後の研究では、これらの結果を裏付けることを目指すと共に、運動療法により、生活の質 (QOL)を向上させ、せん妄の重症化を抑え、認知機能(情報を学習、記憶、理解する能力)を高めることができるかどうかを調べるべきである。また、運動療法を投薬など他の治療と比較するべきである。

せん妄とは?

せん妄は、多くの患者が集中治療室において経験するありふれた症状である。発症に至る真の原因は完全には解明されていない。集中治療室にいる患者は、平常と異なる精神状態を見せることがあり、注意力が低下したり、思考回路が乱れたり、覚醒のレベルが変わったりする。これらはすべて、通常、集中治療室に入室してから数時間または数日以内に起こり、いずれも医学的な理由もなく、急激に変化したり、悪化したりする。集中治療室でせん妄が起こると、患者の治療や回復に影響することがある。また、患者の家族は、集中治療室でせん妄が起こると、不安、恐怖、無力感を覚えたり、動揺したりするため、せん妄がこの状況ではよくある症状で、一次的なものに過ぎないことを伝え、安心させる必要がある。

集中治療室におけるせん妄の管理方法

集中治療室におけるせん妄は、薬を使わない方法と投薬を併用して管理することができる。薬を使わない方法は、患者の回復を促すような支援的な環境を整えることに重点を置いている。これには、患者が今何時で自分がどこにいるかわかっているか確かめる、家族に面会に訪れるよう働きかける、患者が十分な睡眠を取るよう計らう、痛みがあればこれを管理する、患者の活動量の維持と自立回復に役立つゆるやかな運動を奨励するなどが含まれる。また、症状を悪化させる可能性があるため、身体的拘束を行うことは避け、鎮静剤の使用を制限することも重要である。投薬が必要なとき、医師は激しい興奮や苦痛を抑えるために抗精神病薬を処方することがある。しかし、こうした薬は、慎重に、必要な場合に限って使用される。

知りたかったこと

以下の項目を改善する上で、運動療法が通常の手当て、無治療、または投薬治療より優れているかを調べたかった。

  • 集中治療室でせん妄が続く期間

  • せん妄があって運動療法を受けている患者の生活の質 (QOL)

  • 全入院期間、集中治療室入室期間を短縮し、死亡率を下げるのに役立つかどうか

  • 運動療法による有害な副作用の有無

実施したこと

集中治療室に入室してせん妄が起こった人に対する運動療法と、通常の手当て、無治療、または投薬治療を比較調査した研究を探した。

研究結果を比較してまとめ、研究の方法や規模などの要素に基づいてエビデンス(科学的根拠)の信頼性を評価した。

わかったこと

集中治療室に入室してせん妄が起こった491人を対象とする4件の研究が見つかった。これらの研究は運動療法の利益を通常の手当てまたは無治療の場合と比較したものだった。運動療法と投薬治療を比較した研究はなかった。

運動療法はせん妄の発症期間を短縮する可能性があり、恐らく集中治療室入室期間が短くなる。運動療法には有害な副作用はないかもしれない。しかし、生活の質 (QOL)やせん妄の重症度を調べた研究はなかった。また、レビューの対象に含められた研究の中には運動療法と投薬治療を比較したものはなかった。

エビデンスの限界

すべての研究が本レビューで関心があったすべての事項についてデータを提供したわけではないこと、研究に参加した人がどの治療を受けているか知っていた可能性があること、またエビデンスはごく少数の症例に基づいていることから、運動療法を行うとせん妄の続く期間が短縮され、副作用もないことに関するエビデンスはあまり信頼できない。。

集中治療室入室期間の短縮を目指すせん妄管理において、運動療法の活用を支持するエビデンスの信頼性は中等度に留まる。ここでは、研究に参加した人は自分がどの治療を受けているか知っていたかもしないという懸念が信頼性レベルに影響した。それに加え、すべての研究が本レビューで関心があったすべての側面のデータを提供していたわけではない。

本エビデンスの更新状況

本エビデンスは2024年7月12日現在のものである。

訳注

《実施組織》橋本早苗 翻訳、杉山伸子 監訳[2025.11.01]《注意》この日本語訳は、臨床医、疫学研究者などによる翻訳のチェックを受けて公開していますが、訳語の間違いなどお気づきの点がございましたら、コクランジャパンまでご連絡ください。なお、2013年6月からコクラン・ライブラリーのNew review, Updated reviewとも日単位で更新されています。最新版の日本語訳を掲載するよう努めておりますが、タイム・ラグが生じている場合もあります。ご利用に際しては、最新版(英語版)の内容をご確認ください。 《CD015830;pub2》

Citation
Garegnani L, Ivaldi D, Burgos MA, Varela LB, Díaz Menai S, Rico S, Giménez ML, Escobar Liquitay CM, Franco JVA. Exercise therapy for the treatment of delirium in the intensive care unit. Cochrane Database of Systematic Reviews 2025, Issue 8. Art. No.: CD015830. DOI: 10.1002/14651858.CD015830.pub2.

Cookie の使用について

当サイトでは、当サイトを機能させるために必要なCookie を使用しています。また、任意のアナリティクスCookie を設定して改善に役立てたいと考えています。お客様がCookie を有効にしない限り、任意のCookie を設定することはありません。このツールを使用すると、あなたのデバイスにCookie を設定して、あなたの好みを記憶します。すべてのページのフッターにある「クッキー設定」リンクをクリックすることで、いつでもクッキーの設定を変更することができます。
使用するCookie の詳細については、Cookie のページを覧ください。

すべてを受け入れる
設定