要点
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肥満症の成人では、プラセボ(偽薬)よりもセマグルチドの方が体重が減少する。しかし、24か月後の好ましくない事象がおこるリスクは、おそらくプラセボよりも高いと思われる。セマグルチドは、生活の質(QOL)、主要心血管イベント、死亡に対してほとんど差がないか、あるいは影響が不確実である。
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セマグルチドの製造元が18件の試験のうち17件に関与しており、結果の信頼性に懸念がある。さまざまな背景や場所の人々に焦点を当てた、より独立した研究が必要である。
肥満症とは何か?
肥満症は、長期的に体脂肪が多すぎる状態である。2型糖尿病、心臓や血管の病気(心血管系疾患)、ある種の癌などの健康問題のリスクを高める可能性がある。肥満症は世界的に増えており、医療制度に大きな負荷をかけている。肥満症の治療には、より健康的な食事や、より積極的に体を動かすなど、ライフスタイルを変えることが必要である。しかし、多くの人はこのような変化を維持するのが難しいと感じ、医師は減量をサポートする薬を処方することがある。
セマグルチドとは何か?
セマグルチドは天然の腸管ホルモンを模倣した薬である。セマグルチドは食欲を減退させ、減量を助ける。セマグルチドには注射薬と飲み薬がある。セマグルチドを服用している人の中には、気分が悪くなったり、下痢や消化不良などの好ましくない作用を経験する人もいる。類似薬にはリラグルチドやチルゼパチドがある。
知りたかったこと
成人の肥満症患者において、セマグルチドが中期(6〜24か月)および長期(24か月以上)においてどの程度有効であるかを知りたかった。体重減少、望ましくない影響、肥満症に伴う健康問題、QOL、死亡リスクに対する効果を調べた。
セマグルチドの服用を中止した後のことは調べていない。
実施したこと
肥満症患者を対象に、セマグルチドとプラセボ(偽薬)、生活習慣の改善、他の減量薬を比較した研究を検索した。結果を比較・分析し、エビデンスに対する信頼性を評価した。
わかったこと
セマグルチドを6か月から4年以上服用した41歳から69歳の男女27,949人を対象とした18件の研究を対象とした。これらの研究は主に高中所得国または高所得国で行われ、そのほとんどが白人とアジア人であった。セマグルチドをプラセボ、リラグルチド、チルゼパチドと比較した。プラセボとの主な比較では、次のような結果が得られた。
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中期(16試験、10,041人): セマグルチドはプラセボに比べ、体重の割合でより多くの体重減少をもたらし、より多くの人が体重の5%を減少させた。セマグルチドにより軽度から中等度の副作用を経験する可能性があるが、これらの副作用はおそらく、治療の中止を決定する人々にとってほとんど、あるいはまったく違いのないものであろう。重篤な副作用に対するセマグルチドの効果は不明である。セマグルチドはQOLにほとんど、あるいは全く影響を与えず、主要な心血管イベントや死亡を有意に減少させない可能性がある。
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長期(2試験、17,908人): セマグルチドによる体重減少は、体重に対する割合の観点で、また体重が5%減少した人の数の観点で、おそらく継続する。セマグルチドはおそらく重篤な副作用にはほとんど影響を及ぼさず、軽度から中等度の副作用に対する影響については不明である。しかし、このような好ましくない作用があるために、治療を中止する人が増えるのだろう。セマグルチドはQOL、主要心血管系イベント、死亡にほとんど、あるいは全く影響を与えない可能性が高い。
エビデンスの限界は?
セマグルチドを服用している人がプラセボを服用している人よりも体重を減らすことの信頼性は非常に高い。しかし、セマグルチドのメーカーがほとんどの研究に関与しており、その結果に対する信頼性は限定的である。研究の場所や参加者は非常に類似していたので、異なる背景や場所の人々に対してセマグルチドがどのように作用するかはわからない。
本レビューの更新状況
エビデンスは2024年12月17日現在のものである。
《実施組織》 阪野正大、杉山伸子 翻訳[2025.12.02]《注意》この日本語訳は、臨床医、疫学研究者などによる翻訳のチェックを受けて公開していますが、訳語の間違いなどお気づきの点がございましたら、コクランジャパンまでご連絡ください。なお、2013年6月からコクラン・ライブラリーのNew review, Updated reviewとも日単位で更新されています。最新版の日本語訳を掲載するよう努めておりますが、タイム・ラグが生じている場合もあります。ご利用に際しては、最新版(英語版)の内容をご確認ください。 《CD015092.pub2》