要点
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プラセボ(偽薬)と比較して、チルゼパチドは中期的(最長2年)に肥満の成人の体重を減らす可能性が高く、この体重減少は長期的(2年以上)に維持される可能性が高い。チルゼパチドは、中長期的には非重篤な望ましくない作用のリスクを高める可能性があるが、チルゼパチドの服用を中止する原因となるような重篤な望ましくない作用にはほとんど影響を与えない可能性がある。生活の質(QOL)、主要心血管系イベント、死亡率にはほとんど影響しないかもしれない。
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チルゼパチドの製造元は、対象となった9試験すべての資金提供、デザイン、実施、報告に関与した。これは、結果に影響を与えるかもしれない利益相反についての懸念を引き起こす。独立した研究がさらに必要である。
肥満とは何か?
肥満とは、体脂肪が多すぎる状態のことで、2型糖尿病、心臓病、ある種のがんなどの健康問題のリスクを高める可能性がある。肥満の治療には、より健康的な食事や、より積極的に体を動かすなど、ライフスタイルを変えることが必要である。場合によっては、医師が減量をサポートする薬を処方することもある。
チルゼパチドとは何か?
チルゼパチドは、肥満症や体重に関連した健康問題を抱える人々の治療のために開発された薬剤である。チルゼパチドは、食欲、空腹感、満腹感、血糖値、代謝を調整する2種類のホルモンを模倣することで作用する。チルゼパチドは、週1回の注射で投与される。チルゼパチドを服用している人の中には、消化不良、気分不良、下痢、便秘などの望ましくない作用を経験する人もいる。他の類似薬としては、リラグルチドとセマグルチドがある。
知りたかったこと
成人の肥満症患者において、チルゼパチドが中期的(2年まで)および長期的(2年以上)にどの程度有効であるかを知りたかった。体重減少、肥満に伴う健康問題、望ましくない作用、生活の質、死亡リスクに対する効果を調べた。チルゼパチドの服用を中止した後のことは調べていない。
実施したこと
チルゼパチドとプラセボ(偽治療)、無治療、ライフスタイルの変更、または他の体重減少薬を比較した研究を検索した。チルゼパチドとプラセボを比較した研究に焦点を当てた。参加者を少なくとも6か月間追跡した研究を対象とした。結果を分析し、エビデンスに対する信頼度を評価した。
わかったこと
主に中・高所得国の36歳~65歳の肥満症成人7,111人を対象とした、9件の研究をレビューに含めた。チルゼパチドとプラセボを比較した研究は8件、チルゼパチドとセマグルチドを比較した研究が1件であった。チルゼパチドは週1回、5mgから15mgの用量で注射された。プラセボとの主な比較(8試験、6,361人)では、次のような結果が得られている。
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チルゼパチドは中期的(約1.5年まで)に有意な体重減少をもたらし、長期的(約3.5年)にはおそらくこの効果を維持すると思われる。
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チルゼパチドを服用している人は、重篤でない望ましくない作用を経験する可能性があるが、プラセボを服用している人と比べて、このような作用のために治療を中止する可能性は高くも低くもない。重篤な副作用にはほとんど、あるいはまったく差がないかもしれない。
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チチゼパチドは心血管イベントにほとんど差をもたらさないかもしれないが、QOLの改善や死亡率の減少をもたらさないかもしれない。
エビデンスの限界は?
いくつかの研究の実施方法に懸念があるため、エビデンスに対する信頼性は限定的である。長期的な結果は、たった1件の研究に基づくものである。チルゼパチドの製造元がすべての研究に資金を提供しているため、結果の信頼性に懸念がある。独立した研究がさらに必要である。
エビデンスの更新状況
本エビデンスは2024年12月時点のものである。
《実施組織》阪野正大、杉山伸子 翻訳[2025.12.01]《注意》この日本語訳は、臨床医、疫学研究者などによる翻訳のチェックを受けて公開していますが、訳語の間違いなどお気づきの点がございましたら、コクランジャパンまでご連絡ください。なお、2013年6月からコクラン・ライブラリーのNew review, Updated reviewとも日単位で更新されています。最新版の日本語訳を掲載するよう努めておりますが、タイム・ラグが生じている場合もあります。ご利用に際しては、最新版(英語版)の内容をご確認ください。 《CD016018》