要点
-
腸に重度の炎症や穴が開いた超低出生体重児の未熟児の治療として、腹腔(腹膜)ドレナージは、腹部手術(開腹手術)ほど優れていない可能性がある。
-
腹腔ドレナージを受けている未熟児の多くは、いずれにせよ腹腔手術が必要になる。
-
腹腔ドレナージを受けた未熟児は、腹腔手術を受けた赤ちゃんと比べて脳性麻痺を発症する可能性が高い。
腸の問題とは
腸は食物を消化し、栄養を吸収する。食べ物が消化され、栄養素が吸収されると、腸は(便によって)食べ物の老廃物を体外に排出する。未熟児の腸の問題には壊死性腸炎や自然腸穿孔がある。壊死性腸炎は、腸が炎症を起こし、時に穴が開く疾患である。自然腸穿孔でも、腸に穴が開くが、炎症は起きない。
壊死性腸炎と腸穿孔の治療法
治療法の一つは開腹手術(お腹を切開する手術)で、腸の不健康な部分や死んだ部分を取り除くことである。腸の死んだ部分や傷ついた部分が取り除かれれば、腸は回復して健康になるはずである。
もう一つの治療法は、壊死性腸炎や自然腸穿孔のために溜まった空気や液体を除去するために、腹部にドレナージ(訳注:空気や廃液を除去する)チューブを挿入すること(腹膜ドレナージ)である。腹腔内の空気と体液が排出されれば、腸は回復し、穴は自然にふさがると期待されている。
壊死性腸炎や自然腸穿孔の外科的な治療が重要なのはなぜか
このような状態になると、細菌が腸から腹腔や血流に移動し、重度の感染症を引き起こすため、乳児が危険にさらされることになる。また、母乳や人工乳の栄養素を消化して吸収する腸の能力も著しく低下しかねない。
知りたかったこと
壊死性腸炎または自然腸穿孔を伴う超低出生体重児(1500g未満)の早産児(妊娠37週以前に出生)に対して、腹膜ドレナージと開腹手術のどちらの方が治療後の悪影響を抑えることに優れているかを明らかにしたかった。生後18カ月から24カ月になるまでに治療の悪影響が認められるかどうかを知りたかった。治療の悪影響には次のものがある:
-
全般的な神経発達障害(学習障害、脳性麻痺、運動障害(身体的協調運動障害)、視覚障害、聴覚障害)
-
特定の神経発達障害(精神または身体)
-
その後の手術(開腹手術)の必要性
-
死亡
また、乳児が退院前に死亡する可能性が高いかどうかも知りたかった。
実施したこと
出生体重が1500g未満の未熟児を対象に、腹膜ドレナージと開腹手術を比較して、そのどちらかがもう一方よりも治療後の悪影響が少ないかどうかを検討した研究を検索した。研究結果を要約し、研究方法や研究対象となった乳児の数などの要因に基づいて、エビデンスに対する信頼性を評価した。
わかったこと
乳児496人を対象とした3つの研究が見つかった。いずれの研究も、穿孔を伴う壊死性腸炎または自然腸穿孔の乳児、またはその症状が認められる乳児を対象として、腹膜ドレナージと開腹手術を比較していた。
主な結果
外科的壊死性腸炎または自然腸穿孔の治療を受けた乳児では、腹腔ドレナージは開腹手術と比較して:
-
生後18カ月から24カ月までの死亡(研究1件、乳児308人)や生存者の精神障害(研究1件、乳児206人)には、ほとんど差がない可能性が高い
-
中等度から重度の脳性麻痺の診断が増加する可能性が高い(研究1件、乳児210人)
-
退院前の死亡率にほとんど差がない可能性が高い(研究2件、乳児378人)
-
腹膜ドレナージ群の乳児は、最初の入院中にその後の開腹手術を必要とする可能性が高い
エビデンスの限界
わずか3件の研究しか見つからず、研究対象となった乳児の数も少なかった。したがって、上記の結果に対する信頼性は中等度である。
本レビューの更新状況
2024年12月17日までの研究を検索した。
《実施組織》小林絵里子、ギボンズ京子 翻訳[2025.12.04]《注意》この日本語訳は、臨床医、疫学研究者などによる翻訳のチェックを受けて公開していますが、訳語の間違いなどお気づきの点がございましたら、コクランジャパンまでご連絡ください。なお、2013年6月からコクラン・ライブラリーのNew review, Updated reviewとも日単位で更新されています。最新版の日本語訳を掲載するよう努めておりますが、タイム・ラグが生じている場合もあります。ご利用に際しては、最新版(英語版)の内容をご確認ください。 《CD006182.pub3》