要点
インフリキシマブを用いると、臨床的寛解(目立った症状がなくなること)および内視鏡的寛解(大腸の検査で炎症が認められなくなること)に向かう可能性が従来の治療薬と比べて僅かに高くなるかもしれない。
クローン病を患う小児において寛解を目指す療法として腫瘍壊死因子α阻害薬(抗TNF製剤)の使用を支持する限定的なエビデンス(科学的根拠)がある。
抗TNF製剤と他の治療薬を比較し、同製剤に関して、投与するタイミング、用量、その他の詳細な情報を調べるために、適切なデザインに基づくより多くの研究が必要である。
小児のクローン病にはどのような治療法があるか
小児のクローン病の初期治療の選択肢としては、ステロイド剤、経腸栄養剤(必要な栄養を含む特別な流動食)、免疫調整薬(免疫系の活動を変える物質)また場合によっては抗TNF製剤のような生物製剤(生物から作られる薬剤)がある。
小児のクローン病は重症化しやすく、炎症が広がることもあるため、抗TNF製剤を使用することが多い。
何を調べようとしたのか?
調べたかったことは、小児クローン病の寛解導入療法に用いられる抗TNF製剤が安全で有効かどうかである。寛解導入療法とは初期段階で炎症とそれに伴う諸症状を抑え、寛解(病気の症状が軽減または完全に消失した状態)に向かわせるために用いられる投薬治療を指す。
実施したこと
クローン病を患う小児を対象として、寛解導入療法に用いる抗TNF製剤を従来の治療(ステロイド剤または経腸栄養療法)、プラセボ(疑似薬)、または無治療と比較して調べた研究を探した。研究の結果をまとめ、研究方法や規模などの要素に基づいてエビデンス(科学的根拠)の信頼性を評価した。
わかったこと
見つかった研究は1件のみで、クローン病の第一選択薬(病気を管理する上で最初に使う薬)としてインフリキシマブ(抗TNF製剤)による治療を受けた(50人)、または従来の治療法(ステロイド剤[経口プレドニゾロン]または完全経腸栄養療法)を処方された(50人)3~17歳の小児合計100人を対象としたものである。この研究は欧州の3ヵ国で実施された。対象となった小児は一年間追跡調査を受けた。
その結果、インフリキシマブを用いると、臨床的寛解(目立った症状がなくなること)と内視鏡的寛解(大腸検査で炎症が見られなくなること)に向かう可能性が従来の治療法より僅かに高くなるかもしれないことが示された。本レビューに含められたこの研究では、クローン病に関連したいかなる原因による併存疾患や死亡についても、重いまたは軽い副作用についても調査していない。
エビデンスの限界は何か?
研究に参加した人はどの治療を受けていたか知っていた可能性があること、レビューの対象に含められた研究が小規模であること、また結果について確信を得るのに十分な数の研究がないことから、エビデンスの信頼性は非常に低い。
活動期クローン病(クローン病の症状が出ている)の小児を対象に抗TNF製剤による治療の利益と害を従来型の治療と比較して調査する、より規模の大きい研究が複数必要である。こうした研究には、重要な評価項目として、併存疾患、死亡例、重い副作用を含めるべきである。
本レビューの更新状況
エビデンスは、2024年6月現在のものである。
《実施組織》橋本早苗 翻訳、小林絵里子 監訳[2025.09.22]《注意》この日本語訳は、臨床医、疫学研究者などによる翻訳のチェックを受けて公開していますが、訳語の間違いなどお気づきの点がございましたら、コクランジャパンまでご連絡ください。なお、2013年6月からコクラン・ライブラリーのNew review, Updated reviewとも日単位で更新されています。最新版の日本語訳を掲載するよう努めておりますが、タイム・ラグが生じている場合もあります。ご利用に際しては、最新版(英語版)の内容をご確認ください。 《CD014497.pub2》