メインコンテンツに移動

乾癬性関節炎の人に対するTNF阻害薬の利益と有害性は何か?

主要メッセージ

腫瘍壊死因子阻害薬(TNFi)は、炎症を軽減するのに役立つ薬剤群であり、第一選択薬(診断されたら最初に処方される治療薬)である免疫抑制剤(メトトレキサートなど、過剰な免疫反応を抑える薬剤)の治療で効果が得られなかった乾癬性関節炎の人においては、プラセボ(活性成分を含まない薬または「偽」の薬)より効果があるとされる。

TNF阻害薬と第二選択薬(第一選択薬で治療効果不十分な場合に次に使用する薬)の免疫抑制剤を比較する質の高い研究、および第二選択薬の免疫抑制剤治療で効果が得られなかった乾癬性関節炎の人におけるTNFiの効果を評価する研究が必要である。

乾癬性関節炎とは何か?

乾癬性関節炎は、関節に炎症が起こる慢性的(長期にわたる治療、症状コントロール等が必要)な炎症性疾患で、乾癬という炎症性の皮膚疾患がある人の約3分の1にみられる。乾癬性関節炎の原因は完全には解明されていない。関節内および関節周囲の組織の炎症により関節や腱の痛み、腫れ、こわばりの症状を引き起こす。乾癬性関節炎を治療せずに放置すると(症状が進行し)、身体障害を引き起こし、生活の質を低下させる。

乾癬性関節炎はどのように治療されるのか?

乾癬性関節炎は、理学療法、非ステロイド性抗炎症薬 (NSAIDs)、副腎皮質ステロイド(以下,ステロイド)、および疾患修飾性抗炎症薬 (疾患修飾性抗リウマチ薬、DMARDs) と呼ばれる免疫抑制剤で治療され、医師が最も患者 (体) の負担の少ない治療薬から始め、必要に応じて (効果不十分な場合) 徐々により複雑な治療 (異なる種類の治療薬または生物学的製剤への切り替えを行う) に移行する段階的アプローチ (症状、病変部位、症状の進行度に合わせて薬を選択する) に基づき治療を進めていく。DMARDsは、3つに分類される: csDMARDs(例.メトトレキサート)、bDMARDs(例.TNFi、イキセキズマブ)、tsDMARDs(例.ウパダシチニブ)。

TNFiは腫瘍壊死因子(TNF)という(炎症を引き起こす)体内蛋白質を選択的に阻害する。TNFは、乾癬性関節炎における関節や皮膚の長期的(慢性的)な炎症に深く関わっている。したがって、TNFiでTNFを標的とすると炎症を軽減し、関連する症状が改善する可能性がある。

知りたかったこと

成人の乾癬性関節炎の治療において、TNFiがプラセボ、理学療法、NSAIDs、ステロイド、および他の免疫抑制剤よりも優れているかどうかを調べたかった。特に、臨床症状(関節の腫れや痛みなど)の改善、炎症のコントロール(疾患活動性)、身体機能(日常生活における動作)、健康関連の生活の質、画像検査による障害進行度(X線画像上で確認できる骨や関節の変化や損傷)、重篤な副作用、および副作用による治療中断などに関心があった。

実施したこと

TNFi をプラセボまたは他の乾癬性関節炎の治療薬と比較した研究を検索した。研究は以下の研究対象者集団に基づいて分類した: 免疫抑制剤による治療を受けたことがない参加者、csDMARDsによる治療で効果不十分であった参加者、bDMARDsまたはtsDMARDsによる治療で効果不十分であった参加者。

わかったこと

乾癬性関節炎のある7857人の参加者を対象とした25件の研究が見つかった。最も大規模な研究では成人1282人、最も小規模な研究では成人47人が含まれていた。研究は、ヨーロッパ、北米、アジア、オーストラリア、南アフリカ、南米で実施された。ほとんどの研究が、csDMARDsによる治療で効果不十分であった参加者を対象としていた。

プラセボと比較した場合:

1000人あたりでみると359人多く(プラセボ群との差)の参加者が、治療開始後12週目の時点でTNFi治療による臨床的な改善を報告した

• 1000人あたり436人がTNFi治療による臨床的改善を報告した。
• 1000人あたり77人がプラセボ治療による臨床的改善を報告した。

1000人あたりでみると258人多くの参加者が、試験開始後24週目の時点でTNFi治療により症状のコントロールが良好であった

• 1000人あたり351人がTNFi治療で症状のコントロールが良好であった。
• 1000人あたり93人がプラセボ治療で症状のコントロールが良好であった。

試験開始後24週目の時点で身体機能を0から3段階(0が機能障害なし)で測定したところ、TNFi群で0.33ポイント高かった

• TNFi群では身体機能が0.47ポイント改善した。
• プラセボ群では身体機能が0.14ポイント改善した。

試験開始後24週目の時点で生活の質を0から100までのスケール(100が最高スコア)で測定したところ、TNFi群で生活の質が3.29ポイント高かった

• TNFi 群では生活の質が5.7ポイント改善した。
• プラセボ群では生活の質が2.4ポイント改善した。

試験開始後24週目の時点で放射線画像 (X線写真など) 上で確認できる損傷度を0から528までのスケール (0が最高スコア、画像上で損傷なし) で測定したところ、TNFi治療により0.37ポイント改善した

• TNFi 群は放射線画像上で確認できる損傷度が0.12ポイント改善した。
• プラセボ群では放射線画像上で確認できる損傷度が0.25ポイント悪化した。

TNFi治療はプラセボ治療と比較して重篤な副作用を経験した参加者の数に差はなかった

• TNFi およびプラセボの両群で、1000人あたり31人が副作用を経験した。

TNFi治療では、1000人あたりでみると10人多い参加者が副作用により治療を中断した

• 1000人あたり28人がTNFi治療を中止した。
• 1000人あたり18人がプラセボ治療を中止した。

免疫抑制剤による治療を受けたことがない参加者では、TNFiはメトトレキサートと比較して、大きな臨床的改善、より良好な疾患症状のコントロールができた可能性があるが、身体機能に差はなく、放射線画像上で確認できる損傷度をわずかに減少させただけだった。健康関連の生活の質への影響を調査した研究はなかった。TNFiとメトトレキサートの間に有害性の差があるかどうかは不明である。

エビデンスの限界は?

いくつかの研究では、研究がどのように実施されたか、医療従事者(臨床研究担当医師、臨床研究に関わった人)または参加者がどの治療を受けていたかを認識していたかどうか(研究が盲検化されていたかどうか)が明確に報告されておらず、結果の妥当性に影響を与えた(結果に潜在的な偏りが生じている)可能性がある。重篤な副作用など、いくつかの結果に関しては、少数の事象発生件数報告に基づくエビデンスである。

このレビューはいつのものか?
レビューは2024年3月28日時点のものである。

訳注

《実施組織》 バベンコ麻以 翻訳、井上円加 監訳 [2025.09.06] 《注意》 この日本語訳は、臨床医、疫学研究者などによる翻訳のチェックを受けて公開していますが、訳語の間違いなどお気づきの点がございましたら、コクランジャパンまでご連絡ください。なお、2013年6月からコクラン・ライブラリーのNew review, Updated reviewとも日単位で更新されています。最新版の日本語訳を掲載するよう努めておりますが、タイム・ラグが生じている場合もあります。ご利用に際しては、最新版(英語版)の内容をご確認ください。 《CD013614.pub2》

Citation
Cagnotto G, Bruschettini M, Stróżyk A, Scirè CA, Compagno M. Tumor necrosis factor (TNF) inhibitors for psoriatic arthritis. Cochrane Database of Systematic Reviews 2025, Issue 2. Art. No.: CD013614. DOI: 10.1002/14651858.CD013614.pub2.

Cookie の使用について

当サイトでは、当サイトを機能させるために必要なCookie を使用しています。また、任意のアナリティクスCookie を設定して改善に役立てたいと考えています。お客様がCookie を有効にしない限り、任意のCookie を設定することはありません。このツールを使用すると、あなたのデバイスにCookie を設定して、あなたの好みを記憶します。すべてのページのフッターにある「クッキー設定」リンクをクリックすることで、いつでもクッキーの設定を変更することができます。
使用するCookie の詳細については、Cookie のページを覧ください。

すべてを受け入れる
設定