要点
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小児の肺結核を見つける上で、喀痰(咳によって肺から排出される粘液)、胃の吸引物(胃から吸引された粘液や唾液)、排泄物(ふん便)サンプルのXpert Ultra検査は正確である。
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肺結核を見逃すリスクはあるが、肺結核にかかっていると誤診するリスクは低い。
なぜ結核の診断精度を高めることが重要なのか?
2023年には推定130万人の小児が Mycobacterium tuberculosis という細菌(結核菌)によって引き起こされる病気である結核にかかった。結核と判定されない(偽陰性)と、診断が遅れ、病気が悪化して死に至る可能性がある。他方、誤って結核と診断される(偽陽性)と、患者は不必要な治療を受ける可能性がある。
このレビューの目的は何か?
結核の症状がある10歳未満の小児において、肺を侵す結核(肺結核)、中枢神経と脳を侵す結核(結核性髄膜炎)、リンパ節を侵す結核について診断を下し、またリファンピシン(結核治療に用いられる抗生剤)耐性を検出するXpert Ultra検査の精度を評価することである。
このレビューでは何を調べたのか?
Xpert Ultra検査は 結核菌 とリファンピシン耐性を同時に検出する。 結核菌 の検出については、培養(菌を増殖させるために用いる方法)と、症状、胸部X線画像および培養に基づく病気の複合的な定義付けという2つの基準に照らして結果を評価した。リファンピシン耐性については、薬剤感受性試験またはゲノム配列決定(薬剤耐性化をもたらす遺伝子変異を同定する方法)に照らして結果を評価した。
レビューの主な結果
合計23件の研究がレビュー対象に含められた。大半の研究は肺結核に関するものだった(9,223人の小児を対象とする21件の研究)。リファンピシン耐性を調べた研究は3件、結核性髄膜炎について調べた研究は3件、リンパ節結核について調べた研究は2件あった。
1,000人のうち100人が肺結核に罹患している(培養検査の結果)小児の集団では、
喀痰サンプルのXpert Ultra検査:
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112人が陽性判定を受け、うち75人は肺結核である(真陽性)が、37人は肺結核ではない(偽陽性)。
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888人が陰性判定を受け、うち863人は肺結核ではない(真陰性)が、25人は肺結核である(偽陰性)。
胃の吸引物サンプルのXpert Ultra検査:
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151人が陽性判定を受け、うち70人は肺結核である(真陽性)が、81人は肺結核ではない(偽陽性)。
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849人が陰性判定を受け、うち819人は肺結核ではない(真陰性)が、30人は肺結核である(偽陰性)。
排泄物サンプルのXpert Ultra検査:
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85人が陽性判定を受け、うち68人は肺結核である(真陽性)が、17人は肺結核ではない(偽陽性)。
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915人が陰性判定を受け、うち883人は肺結核ではない(真陰性)が、32人は肺結核である(偽陰性)。
鼻咽頭吸引物サンプルのXpert Ultra検査:
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68人が陽性判定を受け、うち46人は肺結核である(真陽性)が、22人は肺結核ではない(偽陽性)。
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932人が陰性判定を受け、うち878人は肺結核ではない(真陰性)が、54人は肺結核である(偽陰性)。
リファンピシン耐性を調べた3件の研究(対象となった小児は76人)では、リファンピシン耐性があった小児は2人だけだった。
3件の研究において、結核性髄膜炎がXpert Ultra検査により検出された小児の割合は67%と100%の間である(合計215人の小児のうち培養検査で結核性髄膜炎と確定したのは13人)。2件の研究において、培養検査でリンパ節結核が確定された小児の100%につき、Xpert Ultra検査により診断が裏付けられた(合計58人の小児のうち培養検査でリンパ節結核と確定したのは21人)。
エビデンスの限界
肺結核については、レビューの結果の信頼性は中等度である。本レビューにはさまざまな国からの研究が含められ、2つの異なる参照基準が用いられたが、いずれの基準も完璧ではない。リファンピシン耐性に関する結果は、この側面を調べた研究が3件しかなく、リファンピシン耐性を示した小児が3人(原文まま)しかいなかったため、信頼性はより低い。リンパ節結核や結核性髄膜炎について調べた研究が少なかったため、これらの種類の結核に関しては、さまざまな研究の結果を統合することができなかった。
このレビューの結果は誰に適用できるか?
このレビューは、HIV感染者またはHIV陰性で、肺結核、結核性髄膜炎またはリンパ節結核の徴候または症状のある小児(生後から9歳まで)に適用される。これらの結果はまた重度の栄養失調で結核の症状がある小児にも適用される。これらの結果は主に、世界で結核の罹患率または結核とHIVの罹患率が高い諸地域に住む小児に適用される。
このレビューが意味すること
レビューの結果は10歳未満の小児において、喀痰、胃の吸引物、排泄物のサンプルから肺結核を見つける上で、Xpert Ultra検査の精度は中等度であることを示している。鼻咽頭吸引物サンプルの検査精度はこれより低い。
Xpert Ultra検査を用いても、(培養検査で確認された)肺結核が診断されないリスクが残るため、臨床医はXpert Ultra検査のみに依存するべきではないことを示唆している。
本レビューの更新状況
このレビューは、前回のレビューを更新し、2023年10月6日までに発表されたエビデンスを含む。
《実施組織》橋本早苗 翻訳、小林絵里子 監訳[2025.11.22]《注意》この日本語訳は、臨床医、疫学研究者などによる翻訳のチェックを受けて公開していますが、訳語の間違いなどお気づきの点がございましたら、コクランジャパンまでご連絡ください。なお、2013年6月からコクラン・ライブラリーのNew review, Updated reviewとも日単位で更新されています。最新版の日本語訳を掲載するよう努めておりますが、タイム・ラグが生じている場合もあります。ご利用に際しては、最新版(英語版)の内容をご確認ください。 《CD013359》