要点
‐ 損傷した歯に対し、標準的なレジン系複合材料(RBC:Resin‐based composite、日本では一般的にコンポジットレジンと呼ばれる)を用いてバルクフィル(材料を一度に大きな一層で充填する方法)または積層充填(材料を複数層に分けて充填する方法)で修復した場合、修復物の失敗に関しては、おそらくほとんど、あるいは全く差がない。
‐ 過去のエビデンスでは、歯科用アマルガム(銀色の充填材)はRBCよりも失敗が少ない可能性が示されていた。しかし、この結果は古い研究に基づくものである。現在のRBCは性能が向上しており、歯科医師の使用経験も多くなっているため、失敗は以前より少ないと考えられる。
充填材(詰め物)とは何か。またなぜ充填が必要なのか?
歯の組織が損傷を受けると、その結果として歯に穴(う窩)ができることがある。う窩はう蝕(むし歯)によって生じるが、う蝕は多くの場合、適切な口腔衛生を実践し、糖分を多く含む飲食物を控えることで予防できる疾患である。
う蝕によって歯に永久的な損傷が生じた場合、歯科医師は失われた歯の形態や機能を回復するために、しばしば充填材による修復を行う。
充填材にはどのような材料が使われているか?
従来、う蝕の多くは歯科用アマルガムで治療されてきた。この銀色の充填材(主にスズ、銀、および銅で構成され、液体水銀と混合して使用される)は、低コストかつ取り扱いが容易な材料である。しかし現在では、水銀は人の健康や環境に対して有害となる可能性があることが知られており、「水銀に関する水俣条約」において、歯科用充填材を含めた水銀の使用に関して段階的削減(phase-down)、あるいは中止していくことで国際的な合意がなされた。1回で終了可能な治療に使用される水銀を含まない充填材料には、以下のようなものがある。
‐ RBC:標準的に使用されている白色または歯冠色の材料で、バルクフィルまたは積層充填で使用される。
‐ グラスアイオノマーセメント(GIC:Glass ionomer cement):使用部位の状態によっては強度が不足するため、仮の詰め物として使用されることがある。また、臼歯の噛み合わせ面(咬合面)には適していない。
‐ レジン添加型グラスアイオノマーセメント(RMGIC:Resin‐Modified GIC):GICを改良した複合材料で、GICより強度は高いものの、RBCほどの強度はない。
‐ コンポマー(Compomers):RMGICの代替材料であるが、GICよりもRBCに近い性質を持つ。
RBC、RMGIC、およびコンポマーの場合、材料を歯に接着するために接着システムを使用し、さらに材料を硬化させるために光照射を行う必要があるが、GICではこれらは不要である。
知りたかったこと
以下の点について明らかにすることを試みた:
‐ ある充填材料と他の材料とを比べた場合、歯の喪失(修復物の失敗によるもの)、修復物の失敗(充填材が本来の機能を果たさなくなること)、失敗までの期間、および処置後の歯の知覚過敏を減少させる点でどのような利点があるか。
‐ ある充填材料が他の充填材料よりも費用対効果に優れているかどうか。
実施したこと
永久歯の臼歯の充填に用いられる材料を評価したシステマティックレビューについて検索を行った。これらのレビューは、公表されている利用可能なすべての研究結果を収集し、その結果を解析したものである。レビューで報告されたエビデンスについて、結果を要約し、レビューや研究の方法、研究規模などの要素に基づいて信頼性を評価した。
また、これらの材料の費用対効果について評価した経済学的研究についても検索を行った。
何を見つけたのか?
57件の研究を含む14件のレビューが見つかった。レビューに含まれた研究は1980年から2023年の間に実施されていた。1件の研究では10年間の追跡が行われていたが、多くの研究では追跡期間はこれより大幅に短かった。一部のレビューでは、主要アウトカムについての結果が報告されておらず、また同じ研究が複数のレビューに含まれている場合もあった。そのため、25件の重複しない研究を含む6件のレビューから得られたエビデンスを優先して評価した。
また、費用対効果に関する研究は7件見つかった。
主な結果
歯の喪失や失敗までの期間に関するエビデンスを報告したレビューは見つからなかった。
‐ アマルガム修復はRBC修復よりも失敗が少ない可能性がある(3,486症例を含む8件の研究より)。しかし、これらの研究は1990年代後半に開始されたものであり、現在はRBCの性能および歯科医師の使用経験がより向上している。そのため現在では、RBCの失敗率は約5%程度と考えられ(古い研究では約15%)、アマルガムとRBCを比較した古いエビデンスは実情に則さなくなっている。
‐ バルクフィルのRBCと積層充填のRBCとでは、修復物の失敗において差はないと思われる(511症例を含む7件の研究より)。また、どちらの場合でも、術後に歯の知覚過敏が生じることは少ないと考えられる(510症例を含む5件の研究より)。
‐ 標準的なRBCとGICでは、修復物の失敗(60症例を含む1件の研究より)や歯の知覚過敏の発生(311症例を含む4件の研究より)に差はない可能性がある。一方、RMGICはGICよりも修復物の失敗が少ない可能性がある(50または38症例を含む1件の研究より)。GICとアマルガム、あるいはGICとコンポマーを比較したレビューも見つかったが、修復物の失敗や術後知覚過敏についての報告はなかった。
‐ 経済学的研究の多くは、どの材料が費用対効果に優れるかについての全体的な結論を示していなかった。1件の経済学的研究では、アマルガム修復はRBC修復よりも長期間機能し、費用対効果にも優れる可能性が示されたが、これは1990年代後半の古い研究に基づく結果であった。
エビデンスの限界は何か?
ほとんどのレビューは、最高水準の基準を満たしていなかった。適切に実施されていると判断したレビューは、わずか2件のみであった。しかし、レビューに含まれる研究が異なる場合でも、ほとんどのレビューで非常によく似た結果が報告されていた。
GICおよびRMGICに関するエビデンスについては、研究規模が小さく、参加者数も少ないことが多かったため、確信度は低かった。
本エビデンスはいつのものか?
2025年4月時点におけるエビデンスである。
《実施組織》小泉悠、小林絵里子 翻訳[2026.08.03]《注意》この日本語訳は、臨床医、疫学研究者などによる翻訳のチェックを受けて公開していますが、訳語の間違いなどお気づきの点がございましたら、コクランジャパンまでご連絡ください。なお、2013年6月からコクラン・ライブラリーのNew review, Updated reviewとも日単位で更新されています。最新版の日本語訳を掲載するよう努めておりますが、タイム・ラグが生じている場合もあります。ご利用に際しては、最新版(英語版)の内容をご確認ください。 《CD016279》
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