要点
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多発性硬化症の患者は、作業療法を行った直後に日常の生活機能と精神的健康関連の生活の質(QOL)が少し改善する可能性があるが、身体的健康関連QOLや社会参加の面では、作業療法はほとんどまたはまったく効果がないかもしれない。
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作業療法を行うと、治療から3~6ヵ月後の精神的健康関連QOLも少し改善する可能性があるが、日常の活動や身体的健康関連QOLにはほとんど影響がないかもしれない。通常の手当てと比べて、作業療法は日常の生活機能と身体的および精神的健康関連QOLをある程度改善する可能性がある。
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作業療法の長期的な利益または害については、情報が不足しており、はっきりしたことは言えない。
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このレビューの結果では、作業療法の実際の効果が過小評価されているかもしれない。なぜなら、研究ごとにさまざまな異なる作業療法介入を調べており、作業療法と他の療法の組合せを評価した研究は、作業療法のみの効果を測定していない限り、対象に含めなかったからである。
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今後の研究では、どの要素がどの患者にいかなる状況で最も有効であるか特定することを目指すべきである。
多発性硬化症とは何か?
多発性硬化症(MS)はよくある中枢神経系の病気で、世界全体で約290万人の患者がいる。多発性硬化症になると、免疫系が脳内や脊髄の神経線維保護層を誤って攻撃してしまう。そのせいで脳と身体の他の部分の間で情報伝達がうまくいかず、疲労感、筋力低下、平衡感覚の異常などの症状が起きる。多発性硬化症により、服を着る、食事の支度をする、歩くといった日常の作業が困難になることもある。また、記憶や集中力にも影響し、仕事や社会関係に支障を来すこともある。
多発性硬化症にはどのような治療が行われるか?
多発性硬化症の治療薬の目的は、急性増悪(急激な悪化)を抑えて病気の進行を遅らせ、症状を緩和することである。リハビリテーション療法は、多発性硬化症の患者が自分の症状を管理し、日常の生活機能を改善して、社会参加を維持する助けとなりうる。
作業療法はリハビリテーション療法の一つである。作業療法は、患者が着替えや料理、入浴、仕事などの日常の作業を行うのに役立つ。作業療法士は、こうした活動をより楽に行う方法を患者に教え、症状の管理に役立つ道具を提供する。また、日常生活における困難に対処しやすくするために、筋力や協調運動能力の強化を図る。
知りたかったこと
作業療法が多発性硬化症の患者にどのような利益をもたらすか、特に、日常の生活機能、身体的・精神的健康関連QOL、そして社会参加にどのような影響を与えるかを調べたかった。また、作業療法による望ましくない影響があるかも知りたかった。
実施したこと
多発性硬化症の患者に対する作業療法を他の介入、通常の手当て、または無治療と比較した研究を探した。集学的な研究(複数の異なるタイプの医療従事者が並行して治療を提供する研究)は、作業療法の貢献が個別に報告されていない限り除外した。関心があったのは、治療の直後、治療から3~6ヵ月後(中期)、そして治療から1年後(長期)の効果である。研究の結果を統合し、研究方法や研究の数などの要因に基づいてエビデンスの信頼性を評価した。
わかったこと
多発性硬化症患者1,628人を対象に行われた20件の作業療法介入の研究が見つかった。そのうち10件は多発性硬化症患者の疲労感の管理に役立つ方法を調べたもの、9件は着替えや料理など日常の活動の改善に的を絞ったもの、1件は社会的活動への参加拡大を支援することを目指す研究だった。これらの研究は主に高所得国で行われた。研究に参加したのは、多発性硬化症が原因で軽度から中等度の障害を負う18~70歳の成人である。
レビューの結果
作業療法は、短期的には他の治療と比べて日常の生活機能をやや改善する可能性があり、通常の手当てや無介入よりも利益が大きいかもしれないが、エビデンス(科学的根拠)の確実性が低い研究が多い。中期的・長期的な効果は不明である。
作業療法により、短期的には精神的健康関連QOLがやや改善しうるが、身体的健康関連QOLへの影響は僅かまたは皆無かもしれない。通常の手当てや無介入の場合との比較の結果は非常に不確かであるほか、中期的・長期的な影響はよくわからない。
作業療法は、短期的に社会参加にはほとんどまたは全く影響しない可能性があるが、エビデンスは非常に限定的である。
どの研究も作業療法の害について体系的に報告していないため、これらは不明のままである。
エビデンスの限界
作業療法が多発性硬化症患者の身体的健康関連QOLに及ぼす影響に関するエビデンスは限定的である。作業療法が通常の手当てや無治療と比べてどうであるかは、確証をもって結論を下すのに十分な研究がないため、よくわからない。作業療法がもたらしうる有害な影響に関するエビデンスは皆無で、多発性硬化症が原因の重度の障害がある人に関するエビデンスも限られている。
もう一つの限界は、非常に異なる作業療法の介入をまとめたために、結果の確実性が低く、解釈が難しいことである。作業療法の取り組み方は一つだけではなく、多種多様である。また、作業療法の役割について明確な記載がない限り、チーム医療に基づく研究の多くを除外したため、重要なエビデンスを見逃した可能性がある。
多発性硬化症患者に対する作業療法の影響を十分に理解するには、より多くの研究が必要である。
このエビデンスの更新状況
エビデンスは2024年11月に行った検索に基づくものである。
《実施組織》橋本早苗 翻訳、杉山伸子 監訳[2026.03.30]《注意》この日本語訳は、臨床医、疫学研究者などによる翻訳のチェックを受けて公開していますが、訳語の間違いなどお気づきの点がございましたら、コクランジャパンまでご連絡ください。なお、2013年6月からコクラン・ライブラリーのNew review, Updated reviewとも日単位で更新されています。最新版の日本語訳を掲載するよう努めておりますが、タイム・ラグが生じている場合もあります。ご利用に際しては、最新版(英語版)の内容をご確認ください。 《CD015371.pub2》
このコクランレビューは、元々は英語で作成されました。翻訳の正確性は、当該翻訳を担当した翻訳チームが責任を負います。質の高い翻訳を保証するため、この翻訳は細心の注意を払って作成され、標準的なプロセスに従って行われています。ただし、不一致、不明確または不適切な翻訳の場合、英語の原文が優先されます。