頭部外傷で入院した患者に対して体温を35℃から37.5℃に下げる治療

背景

頭部外傷は、交通事故や高所からの転落等脳に直接衝撃が加わる結果として発生する。頭部外傷は死亡、また後遺症の主な原因となっており、世界中で毎年550万人が直面する。損傷は2段階で起こる:1度目は衝撃を受けた時、2度目は受傷から数時間から数週間後に起こる。頭部外傷の管理の目的は二次的損傷を軽減することである。損傷後に体温が正常である者は、高体温である者よりも転帰が良好であるといくつかのエビデンスが示唆している。

レビューの論点

このレビューでは、体温を35℃から37.5℃に低下させるための薬物、或は薬物を使用しない物理的冷却療法が、頭部外傷で入院している成人もしくは小児の入院患者の転帰に影響を及ぼすかを評価した。

検索期間

2019年11月28日までのランダム化比較試験(RCT)を検索した。RCTは参加者を無作為に治療グループに割り当てるもので、提供するエビデンスの質は最も信頼できるものである。

研究の特徴

頭部外傷後集中治療室に最近入院した41名を対象とした1つの小規模研究のみ見つかった。この研究ではパラセタモールを72時間静脈に投与(静脈に挿入した針もしくはチューブを介して)した効果を、パラセタモール溶液に見せかけ偽装した食塩水を静脈内に投与した場合と比較した。

頭部外傷患者に対して他の薬剤を使用する、ブランケットや扇風機、皮膚を氷で冷やす、冷却した点滴液の投与などといった物理的冷却療法に関した完全な研究報告は見つからなかった。物理的冷却療法に関する1つの非常に小規模な研究に関する短い報告を発見した。この報告ではデータを掲載するには不十分な情報量であったが、将来情報量が増えることで取り上げる可能性がある。

また4件の進行中の研究が見つかったが、これらの研究が完了した際にはより多くのエビデンスを得ることができる可能性がある。研究の中には、別な種類の脳損傷を持つ参加者も含まれている。頭部外傷患者の所見を他の条件の患者と分けて報告することでこれらの研究はレビューに含めることが可能となる。

主要な結果

受傷後28日までの死亡者数に関してパラセタモールが影響しているかは不明である。この研究では関心のある項目であった転帰が悪いかどうか(死亡あるいは依存的状態と定義)、脳内での重篤な出血の増加、脳外の頭部の出血、頭蓋骨内の圧力(頭蓋内圧)の上昇、肺炎やその他の深刻な感染症に関する情報については報告されていない。

エビデンスの確実性

データを用いた研究では概ね良好な手法がとられていると思われたが、研究開始時に研究計画を共有していたにもかかわらず、死亡者数を報告するとあらかじめ計画されていたが報告されていなかったため、バイアスの危険性が高いと判断した。参加者が非常に少ない研究1つのみであることはより多くの人が参加する大規模研究で同じ結果が得られるとは限らないということである。

死亡に関するエビデンスは確実性が非常に低いと判断した。これは今回のレビューの主要な結果に大きな信頼を置くことができないことを意味する。治療の真の効果は報告されている主要な結果と異なる可能性がある。

結論

頭部外傷後に入院した患者に対し体温を35℃から37.5℃まで下げる為の薬物の使用、また他の物理的冷却療法による効果は不明である。この疑問をより評価をするためにはより多くの研究が必要である。今後の更新では吐き気や嘔吐、不快感など治療の副作用を評価する予定であるが、現在進行中の研究、また将来の研究に関してもこうした重要な結果に着目していく予定である。

訳注: 

《実施組織》久保田純平(公立陶生病院)、季律 翻訳[2020.01.15]《注意》この日本語訳は、臨床医、疫学研究者などによる翻訳のチェックを受けて公開していますが、訳語の間違いなどお気づきの点がございましたら、コクランジャパンまでご連絡ください。なお、2013年6月からコクラン・ライブラリーのNew review, Updated reviewとも日単位で更新されています。最新版の日本語訳を掲載するよう努めておりますが、タイム・ラグが生じている場合もあります。ご利用に際しては、最新版(英語版)の内容をご確認ください。 《CD006811.pub4》

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