分娩時の会陰損傷による疼痛緩和のための局所冷却

分娩中に膣と肛門の間に生じる傷、すなわち「会陰損傷」による痛みを抑えるのに、局所冷却法がどの程度効果的であるかに関する科学的根拠(エビデンス)を求めてランダム化比較試験を検索した。

論点は何か

会陰裂傷は分娩時によく発生する。さらに、医療者は生まれてくる子どものために、会陰を切開して空間を広げることがある(会陰切開術)。

このように裂けて生じた傷や切り傷は痛みを生じることが多く、母親は歩くことや楽に座ることが困難になったり、生まれた子どもの授乳や世話が苦痛になったりすることがある。

重要である理由

会陰裂傷や切開による痛みは、母親が動き回る能力を低下させる、排尿時または排便時に不快感を生じさせる可能性がある。それが母親の精神的安定に悪い影響を与えることがある。持続する会陰痛が、性交痛や排便・排尿時の問題など長期的な影響を及ぼす可能性がある。女性は痛みを和らげるために、アイスパックや冷却ジェルパッドなどの冷却法の使用を含め、さまざまな方法を試すことが奨励されている。冷却に効果があるかどうか、また冷却によって切り傷や裂けた傷の治癒を遅らせるようなことがないかを知ることは重要である。

本レビューは2007年に初版が発表され、2012年に更新されたレビューのアップデート版である。

明らかになったエビデンス

2019年10月にエビデンスの検索を新たに行った。現時点で、選択基準を満たすランダム化比較試験を10件同定した。そのうち9件に、本レビューで使用可能な参加者998例に関する情報があった。

出産後の最初の2日間、アイスパックまたは冷却ジェルパッドを会陰に1回10~20分間あてた。比較対照は、無処置(5試験、612例)、ジェルパッドのプラセボ処置(1研究)またはウォーターバック(1研究)であり、後者二つはいずれも室温であった。3件の研究(参加者338例)では、アイスパックを冷却ジェルパッドと比較していた。

結果の妥当性に関する懸念、各処置群の参加者数の少なさ、処置の効果に関する大きなばらつき、参加者がどの処置を使用するのか(または無処置か)をあらかじめ知っていたなどの点から、研究のほとんどが非常に質の低いものであった。同じ処置を比較した試験は少なく、各試験がさまざまな評価ツールまたは異なるアウトカムを評価していた。ほとんどの知見は単一の研究から得られたものである。

出産後6時間以内に冷却パッドを使用した後の会陰痛に関する女性の自己評価は、処置を受けなかった女性よりも軽度であったと考えられる(1研究、100例)。出産後24時間以内または最長48時間までの自己報告による痛み(1研究、316例)、または会陰の治癒には、明らかな差はなかった。

冷却ジェルパッドで圧迫した場合、プラセボと比較して、出産後24~48時間の痛みがごくわずかに軽減する可能性がある(1研究、250例)。冷却による会陰創傷の治癒への悪影響はないと考えられる。アイスパックまたは室温のウォーターパックを使用した女性では、出産後24時間以内に痛みを報告した人はいなかった(1研究、63例)。創傷治癒への有害作用の報告はなかった。

冷却ジェルパッドとアイスパックの比較では、いずれの評価時点でも会陰痛の自己評価に差がなかったと考えられる(3研究、338例)。1件の試験が、アイスパックを使用した女性のほうが5日目に傷の縁に隙間があった人数が少なかったが、10日目にはなくなったことを報告している(215例)。複数の単一の研究によれば、処置を受けた女性の出産後5日目(49例)および10日目(208例)の評価では、アイスパックの方が冷却ジェルパッドよりも治療に対する評価が低かった。

結果の意味

出産後の会陰痛の緩和に冷却処置が役立つ可能性を示唆するエビデンスとしては、複数の小規模試験による質が低いか非常に低いものがわずかにあるのみである。冷却が裂傷や切傷の治癒に影響を及ぼすかどうかを検討するには、さらに研究が必要である。高所得国では氷はすぐに手に入るが、低~中所得国では必ずしもそうではない。ジェルパッドは冷却のために冷凍庫に入れる必要があり、これも低~中所得地域ではすぐに手に入らないこともある。

訳注: 

《実施組織》厚生労働省「「統合医療」に係る情報発信等推進事業」(eJIM:http://www.ejim.ncgg.go.jp/)[2020.12.28] 《注意》この日本語訳は、臨床医、疫学研究者などによる翻訳のチェックを受けて公開していますが、訳語の間違いなどお気づきの点がございましたら、eJIM事務局までご連絡ください。なお、2013年6月からコクラン・ライブラリーのNew review, Updated reviewとも日単位で更新されています。eJIMでは最新版の日本語訳を掲載するよう努めておりますが、タイム・ラグが生じている場合もあります。ご利用に際しては、最新版(英語版)の内容をご確認ください。《CD006304.pub4》

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