脳卒中後の日常生活、バランス、歩行能力の改善に向けた身体的リハビリテーション

知りたかったこと

脳卒中患者の日常生活と移動能力の改善に身体的リハビリテーションが効果的であるかどうか、そして身体的リハビリテーションのある一つの方法が他の方法よりも効果的であるかどうかについて知りたかった。

今までにわかっていること

脳卒中により、身体の一部が麻痺したり、日常生活を送るうえで身体を動かしにくくなったりすることがある。身体的リハビリテーションは、脳卒中後のリハビリテーションにおいて重要である。脳卒中後の人々がどのように回復するかについてはさまざまな考えがあり、長年にわたり身体的リハビリテーションのさまざまな方法が開発されてきた。理学療法士は、他の方法を除外してある特定の方法を行うが、この実践は一般的に科学的根拠に基づくのではなく個人的な好みに基づいて行われていることが多い。様々な方法の相対的な有益性について、理学療法士の間で多くの議論が続いている。そのため、研究のエビデンスをまとめ、これらの異なる方法を選択する際に、どのようなベストプラクティスがあるべきかを明らかにすることが重要である。

研究の特徴

2012年12月までの96件の研究を特定し、レビューの対象とした。10,401人の脳卒中患者を対象としたこれらの研究では、臨床的に脳卒中と診断された成人参加者の日常生活や移動能力の改善の促進を目的とした身体的リハビリテーションを行った群を、治療なしの群、通常のケアを行う群またはマッサージや上肢のトレーニングなどを行う対照群(attention placebo control)と比較したり、異なる身体リハビリテーションと比較して検討した。研究の参加者は、1件の研究で1,000人以上、6件の研究で100~250人、10件の研究は20人以下だった。ほとんどの研究(93%)では200人未満で、研究参加者の平均数は105人だった。評価項目は、日常生活動作(ADL)、運動能力、バランス能力、歩行速度、および入院期間であった。研究の半分以上(96件中50件)が中国で実施された。これらの研究では、脳卒中の種類や重症度において対象者間でばらつきが多く、治療についても方法や期間の両方でさまざまな違いがあった。

今回わかったこと

このレビューは、身体的リハビリテーション(理学療法士や、理学療法士またはリハビリテーション技師によって提供される)が脳卒中後の生活能力やバランス能力、歩行能力の改善を確認するエビデンスをまとめている。療法士が利用可能な多くの治療の中から、一人ひとりの患者に合った治療を組み合わせて選択することは、最も有益であると思われる。

身体的リハビリテーション群と治療なし群を比較した27件の研究(3,243人の対象者)の結果をまとめた。27件のうち25件の研究が中国で実施された。結果から、身体的リハビリテーションは生活能力を改善し、その能力は長期間維持する可能性があることが分かった。身体的リハビリテーション群と通常のケア群または身体的リハビリテーション群と対照群(介入なし)を比較した研究では、身体リハビリテーション群で、運動能力(12件の研究、887人)、立位バランス能力(5件の研究、246人)と歩行速度(14件の研究、1,126人)が改善することを示すエビデンスが見つかった。非常に限られたエビデンスから、身体的リハビリテーションと治療なしおよび通常のケアとの比較では、効果的と思われる治療が1日30~60分、週に5日~7日行われたことが示唆されているが、これを確認するにはさらなる研究が必要である。また、脳卒中の発症早期であるほどより大きな効果があるというエビデンスを見出したが、これを確認するためには更なる研究が必要である。

他の方法よりも、効果的な身体的リハビリテーションの方法はないことを示すエビデンスを見出した。この結果が意味することは、理学療法士は利用可能なエビデンスに基づいて、一人ひとりの患者のリハビリテーションを選択するべきであり、決して「名前つきの」方法に限定すべきではないということである。

エビデンスの質

情報についての内容が不十分、不完全、または簡潔であったため、エビデンスの質を判断することは困難であった。質の高い研究は50%未満であり、ほとんどの研究は、提供された情報のみではエビデンスの質が不明であると判断した。

訳注: 

《実施組織》中本優介 菊井将太 翻訳[2021.12.18]《注意》この日本語訳は、臨床医、疫学研究者などによる翻訳のチェックを受けて公開していますが、訳語の間違いなどお気づきの点がございましたら、コクランジャパンまでご連絡ください。なお、2013年6月からコクラン・ライブラリーのNew review, Updated reviewとも日単位で更新されています。最新版の日本語訳を掲載するよう努めておりますが、タイム・ラグが生じている場合もあります。ご利用に際しては、最新版(英語版)の内容をご確認ください。 《CD001920.pub3》

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