要点
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明らかな病変の広がりがなければ、骨盤リンパ節(下腹部にある、免疫系組織の一部)を切除しなくても、これらをすべて切除した場合と比べて、恐らく生存期間に影響しないばかりか、再発リスクが軽減される可能性がある。
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骨盤リンパ節をまったく切除しないか、あるいはセンチネル(見張り番)と呼ばれる所属リンパ節(がんの発生部位からのリンパ液が最初に流れ込むリンパ節)のみを切除するに留めると、骨盤リンパ節または骨盤・大動脈周囲リンパ節(上腹部にある)をすべて切除した場合と比べて、手術後に下肢の浮腫が起こるリスクは恐らく大幅に軽減される。
子宮内膜がんとはどういう病気で、どのように治療するか?
子宮内膜がんは、子宮内膜と呼ばれる子宮の内壁を侵す。これは全世界の女性の間で6番目に多いがんである。2022年には世界全体で420,242人の子宮がん患者がおり、97,704人が死亡した。
子宮内膜がんを発症した女性の多くは、病気の初期(がんが子宮内に留まっている段階)に診断を受ける。治療には、手術で子宮と卵管(卵子を卵巣から子宮へと運ぶ臓器)、卵巣(卵子を産生する臓器)の摘出が必要となる。また、再発リスクを減らす目的で化学療法(抗がん剤)や放射線療法(高線量のX線照射)による追加の治療をした方がいいかどうかを調べるために、骨盤内(下腹部)や大動脈周囲(上腹部)のリンパ節の郭清(リンパ節を取り除くこと)が行われる。
このことが子宮内膜がんを発症した女性にとって重要なのはなぜか?
病気の初期におけるリンパ節転移率は低く、摘出した子宮の顕微鏡検査と手術の後の追加検査によって予測できる可能性がある。他方、リンパ節郭清は長期的なリンパ浮腫(下半身のむくみ)のリスクを伴う。子宮の両側にある所属リンパ節のみを検出して切除する新しい手法(センチネルリンパ節生検)によって、リンパ節郭清を行わずに、転移のあるリンパ節を正確に検出できる。しかし、このセンチネルリンパ節生検は、広く利用されているにもかかわらず、女性にとって有益であるかはわかっていない。
知りたかったこと
初期と思われる子宮内膜がんのある女性にとって、骨盤・大動脈周囲領域から骨盤リンパ節をすべて切除すること、センチネルリンパ節のみを切除すること、または正常な外観のリンパ節は切除しないことが有益か、また望ましくない影響があるかどうかを知りたかった。
実施したこと
初期と思われる子宮内膜がんのある女性を対象に、骨盤リンパ節をすべて切除した場合、センチネルリンパ節のみを切除した場合、または骨盤・大動脈周辺の正常な外観のリンパ節は切除しなかった場合を比較した研究を探した。研究結果を比較して要約し、研究の方法と参加者数などの要素に基づいてエビデンス(科学的根拠)の信頼性を評価した。
わかったこと
2008年から2023年までに英国、南アフリカ、ポーランド、ニュージーランド、チリ、イタリア、エジプト、ブラジルで実施され、子宮内膜がんを発症した女性2,074人が参加した5件の研究(うち1件は進行中)が見つかった。
骨盤リンパ節を郭清する(全部切除する)場合とまったく切除しない場合の比較
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リンパ節を切除しなかった女性も、手術後3年間生存する確率は恐らく同程度である(骨盤リンパ節郭清を行った女性の死亡率は1,000人あたり146人であるのに対し、行わなかった女性は1,000人あたり126人)。
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リンパ節を切除しなかった女性は、3年以内に病気が再発する確率が低い(骨盤リンパ節郭清を行った女性では1,000人あたり205人であるのに対し、切除しなかった女性は1,000人あたり164人)。
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リンパ節を切除しなかった女性は、手術の傷からの合併症が少ない可能性があり(骨盤リンパ節郭清を行った女性では1,000人あたり38人であるのに対し、切除しなかった女性は1,000人あたり26人)、手術自体による合併症(感染症、血栓症など)も恐らく少ない(骨盤リンパ節郭清を行った女性では1,000人あたり13人であるのに対し、切除しなかった女性は1,000人あたり4人)。
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リンパ節を切除しなかった女性は、恐らく、3年以内にリンパ浮腫を発症する率がはるかに低く(骨盤リンパ節郭清を行った女性では1,000人あたり61人であるのに対し、切除しなかった女性は1,000人あたり7人)、リンパ瘤(嚢胞)を発症する確率も低い(骨盤リンパ節郭清を行った女性では1,000人あたり14人であるのに対し、切除しなかった女性は1,000人あたり3人)。
センチネルリンパ節生検と骨盤・大動脈周囲リンパ節郭清の比較
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死亡率、手術の合併症、生活の質(QOL)に関して、1件の研究から得られた予備データは非常に不確かである。
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センチネルリンパ節生検では、恐らく、リンパ浮腫の発症率が低くなる(センチネルリンパ節生検を受けた女性では1,000人あたり92人であるのに対し、骨盤・大動脈周囲リンパ節郭清を行った女性では1,000人あたり306人)。
リンパ節を切除しない場合と骨盤・大動脈周囲リンパ節郭清の比較
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死亡率、手術の合併症、生活の質に関するデータは非常に不確かである。
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骨盤・大動脈周囲リンパ節郭清はリンパ浮腫の発症を大幅に増加させる可能性がある(リンパ節を切除しなかった女性では1,000人あたり18人であるのに対し、骨盤・大動脈周囲リンパ節郭清を行った女性では1,000人あたり250人)。
エビデンスの限界
一部の研究は子宮内膜がんの新しい分類が導入される以前に行われたもので、その対象となった女性の多くは、現在ならば、リンパ節転移の確定診断がなくても化学療法や放射線療法が追加されると思われる。このことは結果に影響を与えた可能性がある。
これらの治療法の有効性の格付けをしたかったが、そうするために十分な研究や結果がなかった。進行中の10件の研究からの追加的なデータが待たれる。
エビデンスの更新状況
レビューは2024年3月22日時点のものである。
《実施組織》橋本早苗 翻訳、杉山伸子 監訳[2025.07.28]《注意》この日本語訳は、臨床医、疫学研究者などによる翻訳のチェックを受けて公開していますが、訳語の間違いなどお気づきの点がございましたら、コクランジャパンまでご連絡ください。なお、2013年6月からコクラン・ライブラリーのNew review, Updated reviewとも日単位で更新されています。最新版の日本語訳を掲載するよう努めておりますが、タイム・ラグが生じている場合もあります。ご利用に際しては、最新版(英語版)の内容をご確認ください。 《CD015786.pub2》