レビューの論点
月経前症候群(PMS)を治療するのに、ゴナドトロピン放出ホルモン(GnRH)作動薬および拮抗薬を使うことの利点とリスクは何か?
要点
- GnRH作動薬はプラセボと比べて、PMSの症状を改善するという信頼できるエビデンスがある。しかし、副作用として更年期障害のような症状がよく出るため、GnRH作動薬を服用している女性はプラセボを服用している女性よりも治療を中止する可能性が高かった。
- アドバック療法を加えたGnRH作動薬はプラセボと比べて、PMS症状が改善する可能性がある(中程度の信頼性)。アドバック療法を加えたGnRH作動薬はGnRH作動薬単独と比べて、PMS症状が改善するかどうか、あるいはアドバック療法で使うホルモンの投与量がPMS症状に影響を与えるかどうかについて判断するには、十分なエビデンスがなかった。
- GnRH作動薬に関して、アドバック療法を加え、長期間追跡した、ランダム化比較試験が必要である。
月経前症候群とは何か?
月経前症候群(PMS)は、卵巣から卵子が排卵された後に始まり、月経が終わるまでに消失する不調で、仕事、学校、社会活動、趣味、対人関係などの日常生活に大きな苦痛や障害をもたらす。さまざまな身体的、心理的、行動に関する症状からなる。GnRHアナログ製剤を使って排卵を止めれば、そのような症状は抑えられるかもしれない。一方、ホットフラッシュなどの更年期障害のような副作用や、長期的には骨粗鬆症を引き起こす可能性があるという欠点がある。これらの副作用を抑えるために、別のホルモン(多くの場合、エストロゲンまたはプロゲストーゲン)を治療に追加することができる。これをアドバック療法という。
知りたかったこと
ゴナドトロピン放出ホルモン(GnRH)アナログ製剤は、GnRHに似た構造を持つペプチドで、排卵を止めるために広く使われている。脳にある視床下部や下垂体に影響を与える薬である。GnRHアナログ製剤には、作動薬と拮抗薬の2種類がある。GnRH作動薬は、初めGnRHの産生を促すが、長く使うとGnRH産生を抑える。GnRH拮抗薬は、GnRH産生をすぐに抑える。これらの薬が効果的で安全かどうかを確かめたかった。ランダム化比較試験(RCT)という種類の研究を検索した。このタイプの試験では、人々は無作為に2つかそれ以上の群のいずれかに割り付けられ、結果のバイアスのリスクが少ない。
研究の特徴
PMSの治療にGnRHアナログ製剤を使った11件の研究(RCT)が見つかった。臨床的にPMSと診断された女性265人が登録されていた。これらのRCTを4つの比較に使った:アドバック療法なしのGnRH作動薬対プラセボ(9件、女性173人)、アドバック療法ありのGnRH作動薬対プラセボ(1件、女性31人)、GnRH作動薬で治療中のアドバック療法追加対プラセボ(2件、女性60人)、異なる用量のアドバック療法の比較(1件、女性15人)。QOLや骨粗鬆症などの長期的リスクを報告した研究はなかった。
主な結果
GnRH作動薬は、プラセボと比べて、PMSの症状全般を改善するという信頼できるエビデンスが得られた。しかし、GnRH作動薬を使った女性は、よくない副作用(更年期障害のような症状など)のために治療を中断する可能性が高い。
アドバック療法を加えたGnRH作動薬は、プラセボと比べて、全般的な症状が改善する可能性があることを示す、信頼度の低いエビデンスが得られた。一方、よくない副作用に関するエビデンスは不十分であった。
GnRH作動薬で治療中のアドバック療法の追加とプラセボとの比較、およびアドバック療法で使うホルモンのさまざまな用量に関するエビデンスは、 、最も効果があるのはどれかを判断するにはあまりにも不確実であった。
QOLや骨粗鬆症などの長期的リスクについて報告した研究はなかった。
エビデンスの限界
エビデンスの主な限界は、ほとんどの研究で対象となった女性の数が少ないことと、いくつかの研究で対象となった女性が自分がどの治療を受けているか分かっていたことである。GnRH作動薬については、アドバック療法なしとプラセボとを比べた結果は信頼できるが、他の3つの比較の結果はほとんど不確実である。
このエビデンスはどれくらい最新のものか?
このエビデンスは、2023年5月までに行われたデータベースの検索に基づいている。
《実施組織》 杉山伸子、内藤未帆 翻訳 [2025.10.10]《注意》この日本語訳は、臨床医、疫学研究者などによる翻訳のチェックを受けて公開していますが、訳語の間違いなどお気づきの点がございましたら、コクランジャパンまでご連絡ください。なお、2013年6月からコクラン・ライブラリーのNew review, Updated reviewとも日単位で更新されています。最新版の日本語訳を掲載するよう努めておりますが、タイム・ラグが生じている場合もあります。ご利用に際しては、最新版(英語版)の内容をご確認ください。 《CD011330.pub2》
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