要点
歯科インプラント埋入手術の1時間前における抗菌薬の予防投与は、通常の条件下において早期のインプラント体の失敗のリスクを減少させる可能性がある。この結果は主として、術前にアモキシシリンを単回投与した研究に基づいており、多くはインプラント埋入手術の1時間前にアモキシシリン2gが投与されていた。利用可能なエビデンスに基づくと、約19人に抗菌薬を予防投与した場合、1人の早期のインプラント体の失敗を予防できる。
抗菌薬をより長期間投与した方がよいか、手術前または手術後のどちらに投与するのがよいか、あるいはアモキシシリン以外の抗菌薬を使用した方がより効果的かどうかについては不明である。有害作用に関するエビデンスは、それらの発生がまれであり、報告されている研究が非常に限られていたため、不確実である。
歯科インプラント手術の前後に抗菌薬を投与することの効果、特に抜歯直後にインプラントを埋入する場合における効果をより理解するためには、さらなる研究が必要である。手術前における単回投与と、より長期間または反復して行う投与との比較も必要である。また、アモキシシリンに対するクリンダマイシンなど、一般的に使用されている抗菌薬同士を比較することも重要である。
歯科インプラントとは何か、また、インプラント埋入手術時に抗菌薬を投与することの目的は何か?
歯科インプラントは、欠損した歯を補い、クラウン(被せもの)、ブリッジ、または義歯の支持体とするために使用される。インプラント埋入手術時に手術部位に細菌が侵入する可能性があるが、インプラント体の周囲に感染を起こした場合、その治療は困難であり、インプラント体の撤去が必要となることが少なくない。
そのため、感染リスクを減少させることを目的として、手術前または手術後に抗菌薬が投与されることがある。しかし、抗菌薬は、軽い症状から重篤なアレルギー反応のような有害作用を引き起こす可能性もある。また、抗菌薬の広範な使用は抗菌薬耐性菌発生の一因となる。抗菌薬耐性とは、細菌が変異を起こして増殖することにより、それまでその細菌の治療に有効であった抗菌薬が効かなくなることである。これらの理由から、歯科インプラント埋入手術時における抗菌薬の習慣的使用については、依然として議論がある。
何を明らかにしようとしたのか?
歯科インプラント埋入手術の前後に抗菌薬を投与することが、以下のような影響を及ぼすかどうかについて明らかにしようとした:
インプラント体の失敗および補綴装置(訳注:クラウン・ブリッジ・義歯などの人工の歯のこと)の失敗を減少させるか
術後感染を減少させるか
有害作用を引き起こすか
また、抗菌薬の効果の違いについて、以下の比較によって明らかにしようとした:
抗菌薬とプラセボ(偽薬)または抗菌薬非投与との比較
同一の抗菌薬について、異なる用量または異なる投与期間での比較
同一の抗菌薬を同一用量で、異なる時点(術前または術後)において投与した場合の比較
異なる抗菌薬との比較
何を行ったのか?
骨組織の追加(骨増生処置)を伴わない歯科インプラント治療を受ける成人に対し、抗菌薬を投与する群、抗菌薬を投与しない群、あるいは異なる抗菌薬を投与する群のいずれかに無作為に割り付けた研究について検索を行った。研究結果を比較、要約し、研究方法や研究規模などの要因に基づいて、エビデンスに対する確信度を評価した。
何を見つけたのか?
合計2,874人が参加した15件の研究が見つかった。これらの研究は、欧州(イタリア、スペイン、ベルギー、アイルランド、スウェーデン)、米国、カナダ、ブラジル、イラン、およびサウジアラビアで実施され、2008年から2024年に発表されていた。
抗菌薬とプラセボまたは抗菌薬非投与との比較
インプラント埋入手術の1時間前に抗菌薬が投与された場合、プラセボまたは抗菌薬非投与の場合と比較して、早期のインプラント体における失敗発生率が低くなる可能性がある(合計1,919人が参加した10件の研究)。これは、抗菌薬非投与の場合は、1,000人中約80人にインプラント体の失敗が生じるのに対し、抗菌薬が投与された場合は、1,000人中約27人の失敗にとどまることを意味する。
抗菌薬の投与は、補綴装置の失敗(合計1,864人が参加した9件の研究)および術後感染(合計1,919人が参加した10件の研究)を減少させる可能性がある。
抗菌薬の単回投与と複数回投与との比較
インプラント体の失敗(合計760人が参加した5件の研究)または術後感染(合計760人が参加した5件の研究)について、抗菌薬の単回投与と複数回投与との間には、ほとんどまたは全く差がない可能性がある。
補綴装置の失敗に関するエビデンスは非常に不確実である。
手術前における抗菌薬投与と手術後における抗菌薬投与との比較
インプラント体の失敗、補綴装置の失敗、および術後感染に関するエビデンスは非常に不確実である。
異なる抗菌薬どうしの比較
アモキシシリンとクリンダマイシンとの比較では、インプラント体の失敗、補綴装置の失敗、および術後感染について、ほとんどまたは全く差がない可能性がある(合計81人が参加した1件の研究)。
有害作用
有害作用の発生はまれであり、報告に一貫性がなかった。大部分は下痢などの軽度なものであったが、入院を必要とする重篤なアレルギー反応が1件報告されていた。有害作用の経験者数が少なかったため、まれではあるが重篤な有害作用が生じる可能性を確実に否定することはできない。
エビデンスの限界は何か?
一部の研究には方法上の問題があり、多くのエビデンスが少数のイベントに基づいていたため、エビデンスに対する確信度は「中等度」から「非常に低い」までの範囲であった。
本エビデンスはいつのものか?
本レビューは2025年11月19日時点のデータに基づいている。
《実施組織》小泉悠、杉山伸子 翻訳[2026.10.14]《注意》この日本語訳は、臨床医、疫学研究者などによる翻訳のチェックを受けて公開していますが、訳語の間違いなどお気づきの点がございましたら、コクランジャパンまでご連絡ください。なお、2013年6月からコクラン・ライブラリーのNew review, Updated reviewとも日単位で更新されています。最新版の日本語訳を掲載するよう努めておりますが、タイム・ラグが生じている場合もあります。ご利用に際しては、最新版(英語版)の内容をご確認ください。 《CD004152.pub5》
このコクランレビューは、元々は英語で作成されました。翻訳の正確性は、当該翻訳を担当した翻訳チームが責任を負います。質の高い翻訳を保証するため、この翻訳は細心の注意を払って作成され、標準的なプロセスに従って行われています。ただし、不一致、不明確または不適切な翻訳の場合、英語の原文が優先されます。




