妊娠糖尿病の発症を予防するための介入策:コクランレビューのオーバービューレビュー

レビューの論点

妊娠糖尿病(GDM)は、妊娠中に初めて発見される高い血糖値(高血糖)と定義されている。GDMは女性や赤ちゃんの健康に影響を与える可能性がある。

妊娠中の女性の体は、赤ちゃんに十分な栄養を与えるために、食事からの栄養を処理する方法を変えている。最初の3ヶ月は、母体のインスリンに対する感受性が高まっている。第2、第3妊娠期にはインスリン感受性が低下する。GDMの女性は、初期の感受性の上昇が少なく、妊娠後期になるとインスリン感受性が正常以上に低下し、結果として母体が高血糖を起こすことになる。また、血中脂肪も正常値より高いため、赤ちゃんが妊娠期間に比して大きくなる危険性がある。

重要性

GDMの女性は、妊娠中に高血圧などの合併症を起こしやすく、陣痛の誘発が必要になることがある。後に2型糖尿病を発症するリスクが高くなる。GDMの女性から生まれた赤ちゃんは、大きく生まれる可能性が高く、そのため出生時に外傷を負う可能性がある。生まれてきた赤ちゃんは、呼吸困難、黄疸、血糖値の低下などを経験し、後に肥満や糖尿病になるリスクが高くなる。

GDMには多くの危険因子があり、妊娠前/妊娠中の介入により、GDM発症のリスクを低減できる可能性がある。このオーバービューレビューは、GDM を予防する可能性のある介入策に関する無作為化対照試験のコクランレビューからのエビデンスをまとめたものである。

明らかになったエビデンス

コクランライブラリー(2019年8月)を検索し、妊娠中の介入を評価し、GDMについて報告した11件のコクランレビューを確認した。今回のレビューは、23,154例の妊婦を対象とした71件のランダム化比較試験を対象とした。食事、運動、食事と運動の組み合わせ、栄養補助食品、薬物、他の健康問題の管理などの介入を行っていた。エビデンスの質は非常に低いものから高いものまであった。さらに、今後このテーマについてより多くの情報を提供する可能性のある10件のレビューを確認した。

食事と運動

食事と運動の併用は、標準治療と比較して、GDM発症リスクを減少させる可能性がある(19試験、女性6,633人、中等度レベルのエビデンス)。

食事に関する助言のみ(5件の試験;女性1,279人;きわめて低度の質のエビデンス)および低GI(血糖指数)食と中から高GI(血糖指数)食との比較(4件の試験;女性912人;低度の質のエビデンス)は、GDMのリスクに対する効果が不明確であった。運動のみのGDMのリスクに対する効果は不明であった(3試験、女性826人、低度の質のエビデンス)。

健康補助食品

妊娠中のオメガ-3脂肪酸の補充は効果がなかった(12試験;5235人の女性;高度な質のエビデンス)。

妊娠中のミオイノシトール補充は、GDMのリスクを減少させる可能性がある(502人の女性を対象とした3つの試験、低度の質のエビデンス)。

妊娠中のビタミンD補充はGDM発症リスク低減に有効である可能性がある(446人の女性を対象とした4つの試験、低度の質のエビデンス)。これらの試験はすべてアジアの国々で行われたもので、補充前の女性のビタミンDレベルはほぼ不明であった。

ビタミンDはカルシウムの補充と同時に、あるいはカルシウムと他のミネラルの補充と同時に投与されたが、その効果は不明であった。

食事介入を伴うプロバイオティクスの、GDM発症リスクに対する効果は不明であった。

薬物治療

メトホルミンは、肥満の妊婦に投与した場合、GDM発症リスクの低減に役立つ可能性があった(3試験、892人、中等度のエビデンス)。

8件の小規模試験から得られた低度~超低度のエビデンスでは、死産を経験したことのある女性へのヘパリン、アスピリン、白血球免疫療法、免疫グロブリン(IgG)の投与によるGDMリスクへの影響は不明であった。

その他の健康問題の管理

甲状腺の疾患に対する普遍的なスクリーニングとリスク因子に基づくスクリーニングの比較では、GDMのリスクに影響を及ぼさなかった(1件の試験;4,516人の女性;中等度の質のエビデンス)。母親の喘息管理に対する2つの異なる介入では、効果が不明であった(低度の質のエビデンス)。

結果が意味すること

運動と食事の組み合わせ、ミオイノシトールの補充、ビタミンDの補充は、GDM発症リスクの低減に有益である可能性が示された。これらの結果を確認し、メトホルミンの使用についてさらに検討するためには、ランダム化比較試験によるさらなる高度な質のエビデンスが必要である。妊娠前の介入を評価した試験はなかった。

訳注: 

《実施組織》熊田晴香、 山本依志子 翻訳[2022.03.26]《注意》この日本語訳は、臨床医、疫学研究者などによる翻訳のチェックを受けて公開していますが、訳語の間違いなどお気づきの点がございましたら、コクランジャパンまでご連絡ください。なお、2013年6月からコクラン・ライブラリーのNew review, Updated reviewとも日単位で更新されています。最新版の日本語訳を掲載するよう努めておりますが、タイム・ラグが生じている場合もあります。ご利用に際しては、最新版(英語版)の内容をご確認ください。 《CD012394.pub3》

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