ANCA関連血管炎に対する抗サイトカイン薬の利点とリスクは何か?

この疑問が重要である理由

体の防御(免疫)システムは、白血球を送って患部を取り囲み保護することで、怪我や感染に対抗する。これにより、炎症と呼ばれる赤みや腫れが生じる。

血管炎は、血管の炎症である。血管炎では、害に反応するのではなく、免疫系が健康な血管を攻撃する。この反応の原因は、不明であることが多い。

稀な血管炎の一つに、抗好中球細胞質抗体(ANCA)関連血管炎(AAV)がある。AAVは3つの異なる疾患を対象としているが、いずれも細い血管に影響を与えるため、グループ化されている:

- MPA:顕微鏡的多発血管炎;

- GPA:多発血管炎性肉芽腫症;

- EPGA:好酸球性多発血管炎性肉芽腫症。

腎臓、肺、関節、耳、鼻、神経などの部位に影響が出ることが多い。AAVを早期に治療して、これらの臓器に深刻なダメージを与えないようにすることが重要である。

現在、AAVの治療として推奨されているのは、免疫系をコントロールする薬と炎症を抑える薬(ステロイド)の使用である。しかし、この治療法は重篤な副作用を引き起こす。サイトカイン(免疫系の反応に影響を与える小分子)を標的とした薬は、別の選択肢となる。抗サイトカイン薬の利点とリスクを評価するために、研究のエビデンスを検討した。

エビデンスの検索・評価方法

まず初めに、医学論文の中から関連する全ての研究を検索した。すべての研究の結果を比較し、エビデンスをまとめた。最後に、エビデンスがどれぐらい確かなものであるかを評価した。研究の実施方法や規模、研究間の結果の一貫性といった要素を考慮した。評価基準をもとに、エビデンスの確実性を「非常に低い」、「低い」、「中等度」、「高い」に分類した。

わかったこと

アメリカとヨーロッパの成人440人を対象とした4つの研究が特定された。参加者の平均年齢は48歳から56歳であった。参加者は2ヶ月から25ヶ月間治療を受け、その後8週間から4年間の追跡調査を受けた。3つの研究では、抗サイトカイン薬(メポリズマブ、ベリムマブ、エタネルセプト)とプラセボ(偽薬)を比較し、1つの研究では2種類の抗サイトカイン薬(リツキシマブとインフリキシマブ)を比較した。3つの研究が、少なくとも部分的に製薬会社からの資金提供を受けていた。

初期治療後に再発した、または初期治療に反応しなかったEGPA患者におけるメポリズマブとプラセボの比較

中程度の確実性のあるエビデンスによると、メポリズマブは治療後1年以内に病気が再発する可能性を減少させる可能性がある。

確実性の低いエビデンスによると、メポリズマブは以下のことが示唆された:

- 死亡率にほとんど、あるいは全く影響しない可能性がある;

- 少なくとも24週間、疾患が部分的または完全に消失する可能性を高め、さらにこの消失が少なくとも6ヶ月間持続する可能性を高める可能性がある;

- 望ましくない事象、重篤な望ましくない事象、望ましくない事象による試験からの離脱に対して、ほとんど、あるいは全く違いがない可能性がある。

メポリズマブが疾患の再燃(悪化)に与える影響については、測定されていないため不明である。

GPAおよびMPAにおけるエタネルセプトまたはベリムマブとプラセボの比較

中程度の確実性を持つエビデンスによると、エタネルセプトは疾患の再燃にほとんど、あるいは全く影響を与えないと考えられる。

確実性の低いエビデンスによると、エタネルセプトやベリムマブは、ほとんど、あるいは全く違いがないことが示唆されており、下記の通りである:

- 死亡率が高い;

- 疾患が24週間以上完全に消失する、または消失がその後6ヶ月以上継続する;

- 症状が強く再燃する;

- 望ましくない事象または深刻な望ましくない事象の出現。

確実性の低いエビデンスによると、エタネルセプトまたはベリムマブは、望ましくない事象のために試験から離脱する可能性をわずかに増加させるおそれがある。

他の治療法が奏功しなかったGPA患者を対象に、インフリキシマブとリツキシマブに加え、ステロイドおよび細胞障害性薬剤(細胞を殺す物質)を併用する治療法

特定した1つの研究は、治療法間の違いを評価するには小さかった(非常に低い確実性のエビデンス)。

これが意味するもの

メポリズマブはおそらく、治療後1年以内に病気が再発する可能性を低減し、エタネルセプトはおそらく、病気の再燃にほとんど差がないと考えられる。抗サイトカイン薬のその他の潜在的な利点やリスクについては、エビデンスの確実性が低い、または非常に低いため、確信が持てない。さらなる研究により、このレビューの結論が変わる可能性がある。

このレビューの更新状況

このコクラン・レビューのエビデンスは2019年8月時点のものである。

訳注: 

《実施組織》冨成麻帆、 阪野正大 翻訳[2021.05.06]《注意》この日本語訳は、臨床医、疫学研究者などによる翻訳のチェックを受けて公開していますが、訳語の間違いなどお気づきの点がございましたら、コクランジャパンまでご連絡ください。なお、2013年6月からコクラン・ライブラリーのNew review, Updated reviewとも日単位で更新されています。最新版の日本語訳を掲載するよう努めておりますが、タイム・ラグが生じている場合もあります。ご利用に際しては、最新版(英語版)の内容をご確認ください。 《CD008333.pub2》

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