慢性原発閉塞隅角緑内障の治療における水晶体摘出の利益とリスクは?

なぜこの問題が重要なのか?
原発閉塞隅角緑内障(PACG)は、緑内障の一種で、世界的に失明原因の上位に挙げられている。虹彩(目の色の部分)が排水路をふさいでしまい、房水と呼ばれる眼球からの液体の排出に問題がある場合に起こる。閉塞は突然(急性PACG)または徐々に(慢性PACG)起こり、房水が蓄積して眼圧が上昇し、視神経を損傷して視力低下につながることがある。治療法としては、点眼薬、レーザー治療、手術などがある。水晶体摘出術は、天然の水晶体を人工レンズに置き換える手術の一種である。これは、排水路を開く効果もあり、PACGの治療に役立つと思われる。私たちは、慢性的なPACGに対する他の治療法と比較して、水晶体摘出術がどのようなものであるかを調べるために、研究のエビデンスを検討した。

どのようにエビデンスを特定し、評価したか?
慢性PACGに対して水晶体摘出術と他の治療を比較した研究を医学文献で検索し、すべての研究の結果を比較し、エビデンスをまとめ、エビデンスに対する信頼度を評価した。

レビューの結果
その結果、513眼の慢性PACGを対象とした8件の研究が、選択基準を満たした。これらの研究では、参加者を6か月から69か月間追跡調査し、以下の治療を水晶体摘出術と比較した。

- レーザー治療
- 水晶体摘出術と、虹彩が癒着しないように濃い液体を注入し、房水の流出を促す方法(viscogonioplasty, VGP)の併用。
- 水晶体摘出術と虹彩の癒着を機械的にはがす、隅角癒着解離術(GSL)と呼ばれる方法の併用。
- 線維柱帯切除術(房水を排出しやすくするための弁を作ること)、および
- 水晶体摘出術と線維柱帯切除術の併用。

これらは、特に断りのない限り、治療後1年間の結果を中心としたレビューの主な結果である。

1. 水晶体摘出術とレーザー治療との比較(1試験)

レーザー治療と比較した場合、水晶体摘出術はおそらく:

- 視野(眼をまっすぐ前に向けたときに見える範囲)が狭くなることがある。
- 眼圧を下げる点眼薬の必要量を減らすことができる。
- 排水路の角度をより広げる。
- 生活の質(QOL)、視界の明瞭さ、眼圧にほとんど、あるいは全く影響を与えない。

水晶体摘出術で治療した1人、レーザー治療で治療した3人が、治療後3年間でEDTRSチャート(訳者注:視力検査の一種)で10文字以上に相当する不可逆的な視力低下を経験した。

2. 水晶体摘出術と水晶体摘出術+VGPの比較(1試験)

水晶体摘出術+VGPと比較した場合、水晶体摘出術はおそらく:

- 眼圧を下げる点眼薬の必要量を減らすことができる。
- 排水路の角度をより広げる。
- 視界の明瞭さにほとんど影響を与えない。

この2つの治療法が眼圧に異なる影響を与えるかどうかについては、不確かなエビデンスしかない。なお、本試験では視野欠損やQOLへの影響については調査していない。

水晶体摘出術で2人、水晶体摘出術+VGPで4人に眼の炎症が認められた。水晶体摘出術+VGPの治療を受けた3人が前房出血(角膜と虹彩の間の出血)を経験した。

3. 水晶体摘出術と水晶体摘出術+GSLの比較(2試験)

水晶体摘出術+GSLと比較した場合、水晶体摘出術は:

- おそらく、眼圧を下げる点眼薬の必要量を減らすことはできない。
- 眼圧にほとんど影響を与えないかもしれない。

これらの研究では、視野欠損、排水路の角度、視界の明瞭さ、QOLへの影響については調査していない。

水晶体摘出術+GSLで治療した3眼に眼球前面の出血が認められた。

4. 水晶体摘出術と線維柱帯切除術の比較(3試験)

水晶体摘出術と線維柱帯切除術を比較した場合、1件の研究からのエビデンスは、水晶体摘出術は以下の項目に関してほとんど差がない可能性を示唆している:

- 眼圧、および
- 眼圧を下げる点眼薬の必要量、および
- 視界の明瞭さ。

一方の治療法が他方の治療法よりも望ましくない影響をもたらすかどうかについては、不確かなエビデンスしかない。これらの研究では、視野欠損、排水路の角度、QOLへの影響については調査していない。

結果が意味すること
エビデンスとして分かったことは以下の通りである:

- 慢性的なPACGに対しては、レーザー治療よりも水晶体摘出術の方が良い治療法であると思われる。
- 水晶体摘出術とVGPまたはGSLを組み合わせても、水晶体摘出術単独より効果が高いとは言えない可能性がある。
- 水晶体摘出術と線維柱帯切除術を併用することで違いが出るかどうかについては、不確かなエビデンスしかない。

このレビューの更新状況
このコクラン・レビューに掲載されているエビデンスは、2019年12月13日までのものである。

訳注: 

《実施組織》 阪野正大、杉山伸子 翻訳[2022.03.27]《注意》この日本語訳は、臨床医、疫学研究者などによる翻訳のチェックを受けて公開していますが、訳語の間違いなどお気づきの点がございましたら、コクランジャパンまでご連絡ください。なお、2013年6月からコクラン・ライブラリーのNew review, Updated reviewとも日単位で更新されています。最新版の日本語訳を掲載するよう努めておりますが、タイム・ラグが生じている場合もあります。ご利用に際しては、最新版(英語版)の内容をご確認ください。 《CD005555.pub3》

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