要点
- 骨盤臓器脱(POP)および腹圧性尿失禁(SUI)を持つ女性において、POP手術と同時に尿失禁手術を行うことで、術後のSUI改善率が向上する可能性が高い。尿失禁のない骨盤臓器脱の女性の場合、追加の尿失禁治療は必要ない可能性がある。
- 尿失禁のない骨盤臓器脱の女性において、手術後の腹式尿失禁(SUI)に対しては、経腟的メッシュ(訳注:人工の医療材料)修復術よりも、腟前壁の自家組織による修復術の方が優れている可能性がある。一方、手術から1年~7年後の診察時の骨盤臓器脱再発がより多くなる可能性がある。
骨盤臓器脱とは?
骨盤臓器脱は、特に出産後や閉経後の女性によくみられる状態である。これには子宮、膀胱、腸、腟などの骨盤臓器が、腟口の内側ないし外側に下がる(脱出する)状態が含まれる。しばしば、咳やスポーツなど運動時の尿漏れを併発する。これを「腹圧性尿失禁(SUI)」と呼ぶ。その一方、臓器脱が尿道を圧迫するために、腹圧性尿失禁が骨盤臓器脱の修復を受けるまで気づかれない場合がある。これを「潜在性」(隠れ)SUIと呼ぶ。腹圧性尿失禁が骨盤臓器脱の術後に初めて発症することもあり、「新規発症SUI」と呼ぶ。POPは女性のQOL(生活の質)に深刻な影響を及ぼしうる。臓器脱の程度や合併する排尿・排便の症状によって不快感が増大することが多い。
骨盤臓器脱はどう治療するか?
骨盤臓器脱の手術療法には経腟的、または腹腔鏡(「キーホール」手術)やロボット支援下といった経腹的な方法の選択肢がある。女性自身の結合組織を使用する(native tissue repair, 自家組織修復)ことも、結合組織の代替または補強のためにメッシュを使用することもできる。腹圧性尿失禁の手術を骨盤臓器脱の手術と同時に行うこともできる。治療には尿道を支えるメッシュスリング(中部尿道スリング)や骨盤から尿道両側の組織を引き上げる方法(バーチ手術)がある。
知りたかったこと
骨盤臓器脱の手術を受ける、尿失禁のある女性とない女性にとって、もっともよい治療を知りたかった。尿失禁手術の有無を問わず、骨盤臓器脱手術が術後の尿失禁を減少させるかに関心があった。また、骨盤臓器脱の再発、過活動膀胱症状(突然の尿意)、排尿機能障害(膀胱が上手く空にならないこと)、追加手術の必要性について調査した。
実施したこと
至適治療法を同定するために、研究を検索し、適切なデータを収集、要約、分析した。
わかったこと
尿失禁の有無にかかわらず、また同時尿失禁手術の有無にかかわらず、骨盤臓器脱の手術を受けた3095人の女性を対象とした22件の研究を同定した。
骨盤臓器脱と腹圧性尿失禁の女性に対する手術
骨盤臓器脱の手術中に中部尿道スリングを挿入すると、腹圧性尿失禁が減少する可能性(2研究、319女性)と追加の尿失禁手術を減少させる可能性(1研究、134女性)がある。尿失禁手術を骨盤臓器脱の術後3か月まで延期しても、同様の成功率が得られる。この状況では、尿失禁がないために追加の尿失禁手術を避ける女性がいるかもしれない。
経腹的子宮脱修復(仙骨腟固定術または仙骨子宮固定術)に経腹的尿失禁手術(バーチ手術)を追加することで、腹圧性尿失禁を改善されるかは不明である(1研究、47女性)。別の研究(113女性)はバーチ手術と中部尿道手術の仙骨腟固定術同時実施を術後2年の時点で比較しており、バーチ手術よりも中部尿道スリングの方が腹圧性尿失禁を減少させる可能性があった。
骨盤臓器脱に対する経腟的アーム付きメッシュ留置術と、腹圧性尿失禁に対する中部尿道スリングおよび経腟的native tissue repair(自家組織修復)の比較では、術後の腹圧性尿失禁やその他のアウトカムについて有意差を認めなかった。
骨盤臓器脱および潜在性尿失禁の女性を対象とした手術
中部尿道スリングを併用する経腟的骨盤臓器脱手術は、併用しない場合に比べて腹圧性尿失禁や追加手術率を減少させる可能性が高い(5研究、369女性)。しかし骨盤臓器脱の再発、過活動膀胱、新規発症の過活動膀胱や排尿障害についてはほとんどあるいは全く差がない可能性がある。
腹圧性尿失禁を伴わない骨盤臓器脱の女性を対象とした手術
経腟的骨盤臓器脱の手術に中部尿道スリングを併用する場合を併用しない場合と比べて、新規発症の腹圧性尿失禁には差を認めない可能性がある(1研究、220女性)。
経腹的仙骨腟固定術にバーチ手術を併用する場合と併用しない場合をくらべて、腹圧性尿失禁が改善するかどうかは不明である(2研究、364女性)。
3~7年のフォローアップ期間において、メッシュ手術に比べnative tissue repair(自家組織修復)の経腟的骨盤臓器脱手術は腹圧性尿失禁をわずかに減少させる可能性がある(3件、417女性)。一方、経腟的メッシュ留置は骨盤臓器脱の再発を減少させる可能性がある(3研究、458女性)。
エビデンスの限界
エビデンスの質は中等度から低であった。主な限界として、手術のアウトカム評価に手術の種類が盲検化されていない研究があること、関心を持ったアウトカム全てを網羅していないこと、ほとんどの研究で参加者が少ないことがある。
エビデンスの更新状況
エビデンスは2025年7月現在のものである。
《実施組織》内藤未帆、小林絵里子 翻訳[2026.04.08]《注意》この日本語訳は、臨床医、疫学研究者などによる翻訳のチェックを受けて公開していますが、訳語の間違いなどお気づきの点がございましたら、コクランジャパンまでご連絡ください。なお、2013年6月からコクラン・ライブラリーのNew review, Updated reviewとも日単位で更新されています。最新版の日本語訳を掲載するよう努めておりますが、タイム・ラグが生じている場合もあります。ご利用に際しては、最新版(英語版)の内容をご確認ください。 《CD013108.pub2》
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