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成人における歯の根の炎症や感染(根尖性歯周炎および根尖膿瘍)による痛みおよび腫れに対する抗菌薬の効果

要点

- 根管治療の前に抗菌薬を1回投与しても、痛みや腫れにはほとんど、または全く差はないと考えられる。

- デブリードマン(根管内の部分的または全体的な洗浄を含む処置)後に抗菌薬を服用した場合の痛みや腫れに対する効果についてのエビデンスは、非常に不確実である。

- 歯痛の原因となり得る2つの疾患に対して、歯科治療を行わずに抗菌薬単独の効果を検討した研究はない。

根尖性歯周炎や根尖膿瘍はどのようにして起こるのか?

歯の痛みは、う蝕(虫歯)や外傷によって歯の神経(歯髄)が死んでしまった場合にしばしば生じる問題である。歯髄の壊死に続いて歯の根の先端部(根尖部)の周囲の骨に炎症が生じた場合、根尖性歯周炎という病態となる。これが痛みなどの症状を引き起こした場合、症候性根尖性歯周炎と呼ばれる。

治療しなかった場合、歯に感染した細菌の影響によって、根尖部に膿が蓄積し(根尖膿瘍と呼ばれる)、腫れや感染の拡大につながる可能性がある。

根尖性歯周炎や根尖膿瘍による歯痛はどのように治療されているのか?

これらに対して推奨されている治療法は、壊死した歯髄や細菌を除去することである。これは通常、抜歯あるいは根管系の洗浄(化学的および機械的デブリードマン)によって行われる。 治療は一度の来院で完了することもあれば、複数回に渡って行われることもある。

抗菌薬の使用が推奨されるのは、歯根から重度の感染が広がっている場合に限られる。しかし、感染が広がっている徴候がない、あるいは壊死した歯髄や感染した充塡物を除去する治療を行っていない場合においても、抗菌薬を日常的に処方している歯科医師がいる。抗菌薬の使用は、薬剤耐性菌(抗菌薬が効かない細菌)の発生につながる。したがって、抗菌薬はその有益性が高い場合にのみ使用しなければならない。

何を調べようとしたのか?

成人の歯痛を伴う症候性根尖性歯周炎や根尖膿瘍に対して、抗菌薬の投与が痛みおよび腫れを改善するかどうかを明らかにしたいと考えた。また、歯科治療を行った場合と行わなかった場合、鎮痛薬を使用した場合と使用しなかった場合における抗菌薬の効果についても調査したいと考えた。

何を行ったのか?

これらの疾患を有する成人を対象に、抗菌薬を偽の薬(プラセボ)と比較した研究について検索を行った。研究結果を比較、要約し、研究方法や研究規模などの要因に基づいてエビデンスの信頼性を評価した。

何を見つけたのか?

合計134人の参加者を対象とした3件の研究が見つかった(1件は今回の更新で新たに追加された)。 すべての研究は大学の歯学部で実施されていた。局所麻酔(歯肉への注射の麻酔)下で根管内の全体的または部分的な化学的および機械的デブリードマンが行われた後の痛みに対して、抗菌薬の経口投与の効果が評価された。1件の研究では、治療の前に抗菌薬を1回投与されており、2件の研究では、治療後に7日間の抗菌薬投与を受けていた。

根管治療を完了する前に抗菌薬を単回経口投与した場合とプラセボを投与した場合とを比較した研究では、両群に痛みや腫れに関しての差はなかったと報告されている。このエビデンスからは、根管治療の前に抗菌薬を単回投与した場合、痛みや腫れにほとんど、または全く差はないことが示唆されている。

部分的または全体的な化学的および機械的デブリードマン後の抗菌薬投与とプラセボ投与を比較した2件の研究では、疼痛や腫脹に群間差はみられなかったが、エビデンスは非常に不確実であった。

歯科治療を行わずに抗菌薬のみを単独で投与した場合における効果を検討した研究はなかった。

2件の研究において、患者の副作用が報告されていた。プラセボを投与された1人には下痢(軟便)が認められた。歯科治療後に抗菌薬を投与された1人は、治療後に疲労感と気力の低下を経験し、歯科治療前に抗菌薬を投与された別の1人は、めまいを経験していた。

エビデンスの限界は何か?

根管治療を完了する前の抗菌薬単回投与について、群間の差を検出するのに十分な参加者が含まれていなかった可能性があるという非常に深刻な懸念があったため、エビデンスに対する信頼性は低い。しかし、有益な効果の可能性を排除することはできない。

研究が小規模であり、さらに1件の研究では多くの参加者が終了前に脱落していたために、部分的または全体的な化学的および機械的デブリードマンの後に抗菌薬を投与することの効果については、エビデンスが少なく、信頼性が低い。

本エビデンスはいつのものか?

2022年11月25日時点におけるエビデンスである。

訳注

《実施組織》小泉悠、杉山伸子 翻訳[2024.09.09]《注意》この日本語訳は、臨床医、疫学研究者などによる翻訳のチェックを受けて公開していますが、訳語の間違いなどお気づきの点がございましたら、コクランジャパンまでご連絡ください。なお、2013年6月からコクラン・ライブラリーのNew review, Updated reviewとも日単位で更新されています。最新版の日本語訳を掲載するよう努めておりますが、タイム・ラグが生じている場合もあります。ご利用に際しては、最新版(英語版)の内容をご確認ください。 《CD010136.pub4》

Citation
Cope AL, Francis N, Wood F, Thompson W, Chestnutt IG. Systemic antibiotics for symptomatic apical periodontitis and acute apical abscess in adults. Cochrane Database of Systematic Reviews 2024, Issue 5. Art. No.: CD010136. DOI: 10.1002/14651858.CD010136.pub4.