メニエール病に対してゲンタマイシンを耳の中(鼓室)に直接投与することの利点とリスクは何か?

要点

強固なエビデンスが不足していたため、ゲンタマイシンの鼓室内投与がメニエール病の症状の改善に有効であるかどうかは明らかではなかった。また、治療に伴うリスクの可能性についても明らかではなかった。

この治療が有効であるかどうかを明らかにし、有害作用について評価を行うためには、より大規模で適切に実施された研究が必要である。

また、メニエール病患者の症状を評価するための最善の方法を明らかにし、治療が有益であるかどうかを評価するためには、さらなる研究が必要である。これには「コアアウトカムセット」(メニエール病に関するすべての研究で測定すべき項目のリスト)の開発が含まれるべきである。

メニエール病とは何か?

メニエール病は、内耳に起こる疾患であり、浮動性めまい(ふわふわ浮くような感覚)や回転性めまい(ぐるぐる回るような感覚)の発作を繰り返し、聴覚障害、耳鳴り(リンギング:キーンという高音、ハミング:ブンブンという低音、あるいはバジング:ブーンという低音)、耳が詰まった感覚(耳閉感)または圧迫感を伴う。通常は成人の、特に中年期に発症する。

メニエール病はどのように治療されるのか?

メニエール病の治療には、まず内服薬(錠剤)が使用されることが多いが、症状が改善しない場合は、アミノグリコシド系の抗菌薬を耳の中(鼓室)に直接投与することがあり、通常はゲンタマイシンという抗菌薬が使われる。これは一般的には鼓膜から注射される。

何を調べようとしたのか?

以下の項目について調査を行った。

- アミノグリコシド系の抗菌薬(ゲンタマイシンを含む)の鼓室内投与がメニエール病の症状を軽減するのに有効であるというエビデンスがあるかどうか

- この治療が有害作用を引き起こす可能性があるかどうか

何を行ったのか?

アミノグリコシドの鼓室内投与について、治療を行わなかった場合、または偽薬(プラセボ)を使用した場合とを比較した研究について検索を行った。

何が見つかったのか?

合計137人の参加者を対象とした5件の研究が見つかった。研究期間は6か月間から2年間であった。いずれの研究も、ゲンタマイシンについての調査が行われていた。

- ゲンタマイシンの鼓室内投与が行われた場合では、投与が行われなかった場合(またはプラセボ)に比べて、めまいが改善されたと感じた参加者の割合が多かった。しかし、これらの研究は極めて小規模であったため、この治療が症状の改善に有効であるかどうか確信することはできない。

- めまいの症状や頻度について、スコアリングシステムを用いて評価したところ、治療を行わなかった場合(またはプラセボ)と比較して、ゲンタマイシンの鼓室内投与群ではより良好な結果が示された。しかし、これらの研究は非常に小規模であり、この治療法が有効であるかどうかについては非常に不確実である。

- 本レビューに含まれた研究からは、この治療に関連する重大な有害性のリスクに関する情報は得られなかった。他の種類の研究では、この治療が潜在的な副作用(聴覚の完全な喪失など)と関連する可能性が示されている。しかし、本レビューに含まれた研究からは、これらの有害事象の発生頻度についての情報は得られていない。

エビデンスの限界は何か?

研究のほとんどが非常に小規模で、試験の実施に関する問題があったため、研究結果に対する信頼性は低く、エビデンスに対する信頼性は非常に低い。異なる治療法がどの程度効果的であるかについて検証するためには、より大規模かつ適切に実施された研究が必要である。

本エビデンスはいつのものか?

2022年9月時点におけるエビデンスである。

訳注: 

《実施組織》小泉悠、阪野正大 翻訳[2023.07.07]《注意》この日本語訳は、臨床医、疫学研究者などによる翻訳のチェックを受けて公開していますが、訳語の間違いなどお気づきの点がございましたら、コクランジャパンまでご連絡ください。なお、2013年6月からコクラン・ライブラリーのNew review, Updated reviewとも日単位で更新されています。最新版の日本語訳を掲載するよう努めておりますが、タイム・ラグが生じている場合もあります。ご利用に際しては、最新版(英語版)の内容をご確認ください。 《CD015246.pub2》

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