血管手術後の出血を抑える薬剤はあるのか

・要点

血管手術時の出血や輸血を減らすために、どの薬剤が最適なのかについては未だ不明である。

・血管手術とは何か

血管手術とは、血管の破れや弱った部位を修復したり、詰まりを除去したりする手術のことである。本レビューでは、特に重度の出血につながりやすい血管手術に注目した。

・血管手術中の輸血を減らすことがなぜ重要なのか

血管手術中、または手術後に大量に出血した場合、失った血液を補うために輸血が必要になることがある。輸血は害を及ぼす可能性があるため、できれば輸血を避けることが望ましい。これは、血液の供給が少ないときは特に重要である。

・何を知りたかったのか

出血を抑えて輸血の必要性を減らすために役立つ薬物療法を知りたかった。また、そのような処置が血栓など副作用のリスクを高めるかどうかについて明らかにしたいと考えた。

・本レビューで実施したこと

複数の電子ライブラリーを利用して、血管手術後の出血を防ぐ薬剤について、ランダム化比較試験と呼ばれる最も信頼性の高い研究を検索した。

・わかったこと

出血量を減らすために手術前に注射された薬剤に関する研究が7件、薬剤を含んだドレッシング材(包帯材)や接着剤に関する研究が15件見つかった。このような薬剤は、手術中に出血を止めるために使用されるが、手術後も体内に残留する。血管手術中の出血や輸血を減少させるために最適な薬剤を特定するには、見つかった情報は不十分であった。また、手術室を出た後は長期にわたって経過観察しないことが多く、手術後に輸血を必要としたかどうかについては不明であった。

1件の研究では、参加者9,535人を対象に、手術前にトラネキサム酸という薬剤の注射が行われていた。この研究には、血管手術を受けた1,399人の参加者が含まれていたが、この集団のみについて報告された情報は少なかった。特に血管手術について報告されていたのは、トラネキサム酸を投与すると血栓ができるリスクが高まるかどうかという評価項目一つにとどまり、トラネキサム酸とプラセボ(偽薬)では、血栓の発生リスクに差がないと思われることがわかった。

・エビデンスの限界

検索で見つかった研究のほとんどが、参加者数100人未満の小規模なものであったため、治療法のいずれかが役立つかどうかを確かめるには不十分であった。各薬剤が手術からの回復に役立つかどうかを明らかにするには、数百人、数千人規模の参加者を対象とした研究が必要である。

ほとんどの研究では、術後の輸血に関する情報が収集されていなかったが、これにはいくつか異なる理由があると思われる。外科医は、患者に術後の長期的なケアが必要となれば、内科医など他の医療従事者に術後のケアを引き継ぐことがあるが、術後の経過をみるために他の医療従事者と協力する必要がある場合、研究がさらに複雑になってしまう。

また、ほとんどの研究が、使用した治療薬を製造している企業によって実施されていた。企業にとって、特に手術後に起こる事象についての情報がなくても自社の製品を使用してくれるのであれば、手術中に起こる事象のみを観察する方が安価かつ容易である。

・レビューの更新状況

2022年3月31日現在までに、本レビューのテーマについて発表されていた研究をすべて収集した。また、現在開始されているか、まもなく開始される研究もすべて収集した。幸いなことに、手術時の出血を防ぐ薬剤に関する非常に大規模な研究が1件進行中である。それは、手術前にトラネキサム酸の注入を行う研究である。血管の手術をはじめ、さまざまな手術を受ける参加者8,320人を対象とする予定であり、輸血を必要とした参加者数を報告するものである。この研究によって重要な知見が得られ、将来、他の外科医がこの種の研究を行うきっかけになることを願っている。

訳注: 

《実施組織》小泉 悠、ギボンズ 京子 翻訳[2023.05.13]《注意》この日本語訳は、臨床医、疫学研究者などによる翻訳のチェックを受けて公開していますが、訳語の間違いなどお気づきの点がございましたら、コクランジャパンまでご連絡ください。なお、2013年6月からコクラン・ライブラリーのNew review, Updated reviewとも日単位で更新されています。最新版の日本語訳を掲載するよう努めておりますが、タイム・ラグが生じている場合もあります。ご利用に際しては、最新版(英語版)の内容をご確認ください。 《CD013649.pub2》

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