心臓手術患者における血圧目標値について

レビューの論点

心肺バイパス術(CPB)による心臓手術を受ける患者で、高い血圧目標値は、低い血圧目標値と比較してどのような効果をもたらすか?

要点

高い血圧目標値は、低い目標値と比較して、腎障害、認知(学習し理解する能力)障害、および生存においてほとんど差がない結果かも知れない。

血圧目標値を高くした場合、入院期間がわずかに長くなる可能性がある。

心臓手術とは?

心臓手術は、世界中でよく行われている手術である。ほとんどの術式の心臓手術は、CPBを使用して行われる。CPBは、心臓や肺の働きに代わり、血液を循環し、血液に酸素を取り込み、血液から二酸化炭素を排除する医療機器である。心臓手術を受ける患者は血圧が高い(高血圧症と呼ばれる)ことが多い。高血圧症の患者は、脳や腎臓などの重要な臓器への血流を維持するために、より高い血圧を必要とする。しかし、心臓手術時における最適な血圧目標値に関するエビデンスは乏しい。

何を調べたかったのか?

血圧目標値をより高くした場合とより低くした場合における、腎臓、脳、生活の質(QOL)、および入院中に起こる合併症に及ぼす影響を評価したかった。

何を行ったのか?

CPBによる心臓手術において、高い対低い血圧目標値の比較を行った臨床研究を医学データベースで検索した。

何を見つけたか?

心臓手術を受けた737人を対象とした3件の研究が見つかった。研究期間は2年から3年であった。参加者の平均年齢は65.8歳から76歳で、約72%が男性であった。

腎障害、認知障害、あるいは死亡において、高いと低い血圧目標値の間にほとんど、または全く差はなかった。高い血圧目標値は入院期間をやや延長するかも知れないが、入院中のQOLや合併症においてはほとんど、または全く差がないかも知れない。

エビデンスの限界は何か?

腎障害および死亡に関するエビデンスの信頼性は、研究が小規模であったこと、関心を持つすべてのデータが提供されていなかったこと、さらに様々な参加者を含んでいたため、非常に限られていた。また、認知障害に関するエビデンスの信頼も、研究が小規模であり、関心を持つすべてのデータが提供されていなかったため、低い。

このエビデンスはいつまでのアップデートされたものか?

2021年11月までの最新のエビデンスである。

訳注: 

《実施組織》小泉悠 翻訳、星進悦 監訳[2023.01.29]《注意》この日本語訳は、臨床医、疫学研究者などによる翻訳のチェックを受けて公開していますが、訳語の間違いなどお気づきの点がございましたら、コクランジャパンまでご連絡ください。なお、2013年6月からコクラン・ライブラリーのNew review, Updated reviewとも日単位で更新されています。最新版の日本語訳を掲載するよう努めておりますが、タイム・ラグが生じている場合もあります。ご利用に際しては、最新版(英語版)の内容をご確認ください。 《CD013494.pub2》

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