BRCA1またはBRCA2遺伝子変異をもつ女性のリスク低減を目的とする卵管・卵巣の外科的切除

背景
乳癌遺伝子1(BRCA1)または乳癌遺伝子2(BRCA2)に変異があると、乳癌、卵巣癌、卵管癌、腹膜癌などの癌発症リスクが高まる。リスク低減卵管卵巣摘出術(RRSO)(卵管および卵巣の両方の切除)は、通常、BRCA1、BRCA2、またはその両方の変異をもつ女性に出産を終えた後で提案される。しかし、乳癌をはじめ、卵管、卵巣、原発性腹膜の高悪性度漿液性癌に対するRRSOによるリスク低減の程度や他の健康アウトカム(生存期間やQOLなど)への影響は依然として不確実であり、変異型によってRRSOの有効性に差があるかどうかも不明である。

レビューの論点
BRCA1またはBRCA2遺伝子変異をもつ女性に対するRRSOは、乳癌および高悪性度漿液性癌の発症リスクを低減させるのか。死亡リスク(全生存期間)および生活の質(QOL)にどのような影響を及ぼすか。

試験の特性
本レビューでは、非ランダム化試験(あらかじめ決められた集団[コホート]を経時的に追跡し、患者が受けたさまざまな治療と治療後の結果との関連を検討した試験)10件のデータを解析した。いずれの試験も、リスク低減乳房切除術(乳房の外科的切除)の有無を問わずRRSOを受けた集団とRRSOを受けていない集団(サーベイランス [調査して監視] )を比較していた。このエビデンスは2017年7月現在のものである。

主な結果
BRCA1変異保有者およびBRCA2変異保有者のデータを含めたところ、本解析では、RRSOによる全生存期間の改善と高悪性度漿液性癌および乳癌による死亡数の減少が認められた。変異遺伝子ごとの解析では、BRCA1変異をもつ女性では高悪性度漿液性癌および乳癌のリスクが低減するというエビデンスが認められたが、BRCA2変異をもつ女性への影響については、試験に参加したBRCA2変異をもつ女性の数が少なかったため、リスクが低減するかどうかは明らかではなかった。いずれの試験も、骨折または重度の副作用についての報告はなかった。RRSOおよびリスク低減乳房切除術のいずれでも全生存期間が延長した可能性があるが、乳癌による死亡数は減少しなかった。BRCA1またはBRCA2の変異保有者のRRSO実施時の年齢別(50歳以下と50歳超の比較)の乳癌死亡率に予防効果および差は認められなかった。RRSOは、卵巣癌のリスク認知についてQOLを改善した可能性があった。

エビデンスの信頼性
エビデンスの信頼性は、レビューの対象とした試験への参加者数が少なく、試験方法の質も低かったため、低い~非常に低いものであった。

結論
BRCA1またはBRCA2遺伝子変異をもつ女性に対するRRSOは、そのいずれかの変異をもつ女性を併わせた場合、全生存期間を延長し、高悪性度漿液性癌および乳癌による死亡数を減少させる可能性がある。RRSOは、BRCA1変異保有者の高悪性度漿液性癌および乳癌による死亡リスクを減少させる可能性があるが、BRCA2変異保有者のリスクを低減させるかどうかは不明である。以上の結果については、試験デザインの質が低く、バイアスのリスク(試験参加患者の選定や欠損値等によるバイアス)も認められたため、解釈には注意を要する。骨折数、全体的なQOL、RRSOによる重度の副作用、リスク低減手術の種類とRRSO実施時の年齢に基づいたRRSOの効果については結論を出せない。とはいえ、エビデンスの信頼性は非常に低いため、BRCA1またはBRCA2保有者を対象に、特に上記の評価項目を検証してRRSO実施有無による差を明らかにすることを目的とした質の高い大規模試験が依然として必要である。

訳注: 

《実施組織》一般社団法人 日本癌医療翻訳アソシエイツ(JAMT:ジャムティ)『海外癌医療情報リファレンス』(https://www.cancerit.jp/)吉田 加奈子 翻訳、原 文堅(がん研有明病院乳腺センター乳腺内科)監訳 [2019.10.16] 《注意》この日本語訳は、臨床医、疫学研究者などによる翻訳のチェックを受けて公開していますが、訳語の間違いなどお気づきの点がございましたら、コクラン・ジャパンまでご連絡ください。 なお、2013年6月からコクラン・ライブラリーのNew review、Updated reviewとも日単位で更新されています。最新版の日本語訳を掲載するよう努めておりますが、タイム・ラグが生じている場合もあります。ご利用に際しては、最新版(英語版)の内容をご確認ください。《CD012464》

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