筋萎縮性側索硬化症(ALS)の治療における反復経頭蓋磁気刺激法(rTMS)

筋萎縮性側索硬化症(ALS)は運動ニューロン疾患(MND)とも呼ばれる致死的疾患で、運動を制御する脳の神経や脊髄が変性する。この疾患の進行過程に対する治療効果はほとんど認められない。ALS患者では、四肢の筋肉や嚥下・呼吸に関与する筋肉の筋力低下および麻痺が認められる。反復経頭蓋磁気刺激法(rTMS)は、脳の表層の神経細胞を刺激する方法である。rTMSでは、頭皮に装着した電極を介して脳の表層にパルス磁場を発生させる。rTMSがALS患者に有効であるかどうかを検証した試験がある。

このレビューでは、ALS患者を対象としたrTMSに関する臨床試験を幅広く検索し、計50人が参加した3件の研究を発見した。3件の試験はすべてrTMSと偽(不活性)rTMSを比較したものであった。3件のいずれの試験でも、rTMSの有効性の主要評価尺度としてこのレビューで選択した特定のALS評価尺度(ALSFRS-R)によるフォローアップ6カ月目の活動障害および活動制限の評価結果が報告されていなかった。その他のアウトカム指標結果が、質の低い1件の試験から12人の参加者に関してのみ得られたが、rTMSと偽rTMSの間でフォローアップ12カ月目のALSFRS-Rおよび筋力検査の結果に差異は認められなかった。いずれの試験でも、rTMSに関連した有害事象は報告されなかった。このレビューで対象とした試験の参加者数は少なく、試験デザインに問題があったため、ALSに対するrTMSの有効性および安全性を決定するためには、より大規模で適切にデザインされた試験を検討すべきである。ただし、ALS患者に対する潜在的利益と試験参加が及ぼす影響の均衡がとれていなければならない。

著者の結論: 

現時点では、ALSの治療に対するrTMSの有効性および安全性に関する結論を導くためのエビデンスが不十分である。ALS患者に対する潜在的利益をRCTへの参加による影響と比較対象とした場合、研究の継続が有用である可能性がある。

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背景: 

筋萎縮性側索硬化症(ALS)、別名運動ニューロン疾患(MND)は進行性神経変性疾患で、有効な治療法はない。複数の研究から、反復経頭蓋磁気刺激法(rTMS)がALSに対して有益である可能性が示唆された。一方で、本法の有効性および安全性は依然として不明である。本レビューは、2011年に発表されたレビューの初回改訂版である。

目的: 

ALS治療に対するrTMSの臨床的有効性および安全性を決定すること。

検索戦略: 

2012年7月30日に、Cochrane Neuromuscular Disease Group Specialized Register、CENTRAL(2012年第7号 The Cochrane Library)、MEDLINE(1966年〜2012年7月)、EMBASE(1980年〜2012年7月)、CINAHL (1937年〜2012年7月)、Science Citation Index Expanded(1945年1月〜2012年7月)、AMED(1985年1月〜2012年7月)を検索した。Chinese Biomedical Database(1979年〜2012年8月)を検索した。また、clinicaltrials.govの進行中の研究も検索した(2012年8月)。

選択基準: 

ALSの臨床診断を受けた患者に対するrTMSの治療有効性および安全性を評価したランダム化比較試験(RCT)および準ランダム化比較試験。

選択基準を満たす比較は次のとおりである。

1. rTMSと無介入の比較

2. rTMSと偽rTMSの比較

3. rTMSと理学療法の比較

4. rTMSと薬物療法の比較

5. 「rTMS+他の療法または薬物」と「偽rTMS+同一の療法または薬物」の比較

高周波(1Hz超)rTMSと低周波(1Hz未満)rTMSなど異なるrTMS施工法間の比較

データ収集と分析: 

2名の著者が独立して論文を選出し、バイアスのリスクを評価し、データを抽出した。相違点については協議によって解決した。追加情報については、研究著者に問い合わせた。

主な結果: 

本レビューでは、計50例が参加した3件のランダム化プラセボ対照比較試験を対象とした。3件の試験はすべてrTMSと偽rTMSを比較したものであった。いずれの試験も方法論の質は低く、異質性の問題から結果を統合することができなかった。また、症例減少率が高かったため、バイアスのリスクがさらに上昇した。いずれの試験でも、本レビューの主要アウトカムに既定されているフォローアップ6カ月目の改訂版ALS機能評価尺度(ALSFRS-R)スコアに関する詳細データが示されていなかった。1件の試験では、副次的評価項目の定量的分析に適した形式のデータが含まれていた。この試験では、rTMSと偽rTMSの間でフォローアップ12カ月目のALSFRS-Rスコアおよび徒手筋力検査(MMT)スコアに差異は認められなかった。さらに、いずれの試験でもrTMSの使用に起因する有害事象は報告されなかった。一方で、サンプル・サイズが小さいことや方法論的限界、アウトカムデータの不備を考慮すると、rTMSによる治療が安全であるとは断定できない。

訳注: 

《実施組織》厚生労働省「「統合医療」に係る情報発信等推進事業」(eJIM:http://www.ejim.ncgg.go.jp/)[2016.7.11]
《注意》この日本語訳は、臨床医、疫学研究者などによる翻訳のチェックを受けて公開していますが、訳語の間違いなどお気づきの点がございましたら、eJIM事務局までご連絡ください。なお、2013年6月からコクラン・ライブラリーのNew review, Updated reviewとも日単位で更新されています。eJIMでは最新版の日本語訳を掲載するよう努めておりますが、タイム・ラグが生じている場合もあります。ご利用に際しては、最新版(英語版)の内容をご確認ください。

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