乳癌に対するビスホスホネート製剤およびデノスマブ

論点

乳癌では、骨転移による再発が認められる場合がある。これによって、骨折、疼痛、高カルシウム血症(合併症として知られる)が起こる可能性がある。

骨粗鬆症に対する薬剤には、こうした合併症を予防する可能性や、骨でのがん増殖を抑制することによってがんの治癒に寄与する可能性がある。このような薬剤は「ビスホスホネート製剤」と呼ばれる。新たなタイプの薬剤は「デノスマブ」と呼ばれる。ビスホスホネート製剤やデノスマブは、他のがん治療薬に追加して投与される。これらは化学療法、内分泌療法、放射線療法と共に用いられることがある。

研究の論点

ビスホスホネート製剤やデノスマブの目標は、患者の乳癌の状態によって異なる。

3つの主な論点を検討した。

1.早期乳癌(EBC)患者(EBC)では、ビスホスホネート製剤やデノスマブはがんが骨に転移するリスクを低下させることができるのか?この薬剤を抗がん治療に追加することによって、患者が長く生きられる(延命できる)のか?

2. 骨転移のない進行乳癌(ABC)患者では、ビスホスホネート製剤によってがんの骨転移を防ぎ、延命できるのか?ビスホスホネート製剤は合併症を抑制し、生活の質(QOL)を改善するのか?

3. 骨転移が認められる乳癌(BCBM)患者では、ビスホスホネート製剤やデノスマブによって合併症リスクを低下させ、QOLを改善して延命できるのか?

試験の結果

37,302例の患者を含む試験44件が見つかった。2016年9月までに発表された試験を選択した。

早期乳癌(EBC)患者についての試験結果

EBC患者については、試験17件(患者数26,129例)を選択した。患者の健康状態は試験開始から少なくとも12ヵ月間、モニタリングされていた。一部の試験では10年間患者をモニタリングしていた。

選択した試験では、さまざまなタイプのビスホスホネート製剤とデノスマブおよび各薬剤のさまざまな用量を検証した。薬剤投与と無治療とを比較した試験もあれば、経口薬剤を用いた試験もあった。また、静脈内注射や皮下注射として薬剤を投与した試験もあった。

ビスホスホネート製剤はおそらくがんの骨転移リスクを低下させた。

ビスホスホネート製剤は生存期間を延長したことがわかったが、患者全体での延命効果は小さかった。閉経後の女性では、ビスホスホネート製剤から延命効果が得られ、がん再発リスクが低下していた。閉経前の女性では、延命効果やがん再発リスクの低下は認められなかった。女性の閉経状態別にビスホスホネート製剤の有効性を検証する新たな研究が待たれる。

デノスマブの試験からの生存データやその他の重要な結果の報告も待たれる。

進行乳癌(ABC)患者についての試験結果

骨転移のないABC患者については、試験3件(患者数330例)を選択した。3件とも内服のビスホスホネート製剤を無治療と比較していた。

ビスホスホネート製剤により、がんの骨転移リスクの低下や生存期間延長は認められなかった。合併症やQOLに関するデータは試験1件のみからごくわずか得られたのみであった。

骨転移が認められる乳癌(BCBM)患者についての試験結果

BCBM患者については、試験24件(患者数10,853例)を選択した。患者の健康状態は少なくとも12ヵ月間モニタリングされていた。一部の患者は24ヵ月間追跡されていた。ほとんどの試験では、ビスホスホネート製剤を薬剤無投与と比較していた。

ビスホスホネート製剤により、合併症(骨折および骨痛)が減少した。ビスホスホネート製剤により、患者の生存期間が延長することはないようであった。ビスホスホネート製剤の投与を受けた患者は、同様の状態の患者でビスホスホネート製剤無投与の場合よりもQOLスコアがわずかに良好であった。

デノスマブはビスホスホネート製剤と比較し、合併症リスクを減少させることが、データを収集した3つの試験において示された。ひとつの試験によると、デノスマブによる延命効果はなかった。

全タイプの乳癌患者の副作用

副作用はまれで軽度であった。顎骨損傷(顎骨壊死)のリスクは非常に低かった。

エビデンスの質

全体として、ほとんどのエビデンスの質は中等度から高いものであった。これは、この知見にかなり確信をもてるという意味である。

著者の結論: 

EBC患者については、ビスホスホネート製剤はプラセボまたはビスホスホネート製剤無投与と比較して骨転移リスクを低下させ、全生存期間を延長させた。閉経後の患者のみにおいて、ビスホスホネート製剤はプラセボまたはビスホスホネート製剤無投与と比較して全生存期間および無病生存期間を延長させることを示唆する予備的なエビデンスはある。これはこうした 初期の試験で最初に計画されたサブグループではないため、閉経後の女性に対する利益を評価する新たな大規模臨床試験の完了が待たれる。BCBM患者については、ビスホスホネート製剤はプラセボまたはビスホスホネート製剤無投与と比較してSREの発現リスクを低下させ、SRE発生までの期間(中央値)を延長し、さらに骨痛を抑制するようである。

アブストラクト全文を読む
背景: 

骨は乳癌(BC)に伴う転移病変が最も多くみられる部位である。ビスホスホネート製剤は破骨細胞による骨吸収を阻害し、またデノスマブ など新たな標的治療薬はその他の重要な骨代謝経路を阻害する。これらの薬剤を、早期乳癌 と進行乳癌の両方において検討した。本稿は、初めに2002年に発表され、その後2005年および2012年に更新されたレビューの最新版である。

目的: 

抗がん治療に追加するビスホスホネート製剤とその他の骨病変治療薬の効果を以下の患者を対象として評価すること。(i)早期乳癌(EBC)の女性、(ii) 骨転移を有さない進行乳癌(ABC)の女性、iii)骨転移を有する乳癌(BCBM)の女性。

検索戦略: 

本レビュー最新版では、Cochrane Breast Cancer's Specialised Register、CENTRAL、MEDLINE、Embase、世界保健機構国際臨床試験登録プラットフォーム(World Health Organization's International Clinical Trials Registry Platform 、WHO ICTRP)、ClinicalTrials.govを2016年9月19日に検索した。

選択基準: 

以下を比較するランダム化比較試験(RCT)を選択した。(a)ある治療にビスホスホネート製剤/骨作用薬を併用する場合と、それと同一治療にビスホスホネート製剤/骨作用薬を併用しない場合との比較、(b)ビスホスホネート製剤1剤による治療とそれとは異なるビスホスホネート製剤による治療との比較、(c)ビスホスホネート製剤による治療と、作用機序が異なる別の骨作用薬(例:デノスマブ)による治療との比較、(d)ビスホスネート製剤/骨作用薬による早期治療とそれと同一のビスホスネート製剤/骨作用薬による遅延治療との比較。

データ収集と分析: 

レビュー著者2名が独立してデータを抽出し、バイアスリスクおよびエビデンスの質を評価した。主要評価項目は、EBCおよびABCにおいては骨転移、BCBMにおいては骨関連イベント(SRE)であった。2値アウトカムについてリスク比(RR)を示し、メタ解析ではランダム効果モデルを用いた。副次評価項目として、EBCでの全生存期間および無病生存期間があった。可能な場合、このようなtime-to-event(何らかのイベント発生までの期間)アウトカムについてはハザード比(HR)を示した。毒性情報およびQOL情報を収集した。各治療での最も重要なアウトカムについてエビデンスの質を評価するためにGRADEシステムを用いた。

主な結果: 

37,302例の患者を含むRCT44件を選択した。

EBC患者において、ビスホスホネート製剤はプラセボまたはビスホスホネート製剤無投与と比較して骨転移のリスクを低下させた[RR 0.86、95%信頼区間(CI)0.75~0.99、P=0.03、11試験、患者数15,005例、エビデンスの質は中等度で有意な異質性はなかった)。ビスホスホネート製剤は、time-to-eventデータにより延命効果を示した(HR 0.91、95%CI 0.83~0.99、P = 0.04、9試験、患者数13,949例、エビデンスの質は高く、異質性のエビデンスが認められた)。閉経状態別のサブグループ解析により、閉経後の患者で延命効果が示された(HR 0.77、95%CI 0.66 ~0.90、P =0.001、4試験、患者数6,048例、エビデンスの質は高く、異質性のエビデンスはなかった)が、閉経前患者では延命効果は示されなかった(HR 1.03、95%CI 0.86~1.22、P=0.78、2試験、患者数3,501例、エビデンスの質は高く、異質性はなかった)。無病生存期間に対するビスホスホネート製剤の効果はないというエビデンスが示された(HR 0.94、95%CI 0.87~1.02、P=0.13、7試験、患者数12,578例、エビデンスの質は高く、有意な異質性が認められた)が、サブグループ解析により、ビスホスホネート製剤の無病生存期間延長が閉経後の患者のみで示された(HR 0.82、95%CI 0.74~0.91、P<0.001、7試験、患者数8,314 例、エビデンスの質は高く、異質性はなかった)。ビスホスホネート製剤は、プラセボまたはビスホスホネート製剤無投与と比較して骨折の発症を有意に抑制しなかった(RR 0.77、95%CI 0.54~1.08、P=0.13、6試験、患者数7,602例、信頼区間の幅が広いため、エビデンスの質は中等度)。デノスマブを用いた試験の全生存期間や無病生存期間の最終結果が待たれる。

臨床的に明らかな骨転移を有さないABC患者において、ビスホスホネート製剤はプラセボまたはビスホスホネート製剤無投与と比較して骨転移に対する効果のエビデンスもなく(RR 0.96、95% CI 0.65~1.43、P=0.86、3試験、患者数330例、エビデンスの質は中等度で異質性はなかった)、全生存期間に対する効果のエビデンスもなかった(RR 0.89、95% CI 0.73~1.09、P=0.28、3試験、患者数330例、エビデンスの質は高く、異質性はなかった)が、信頼区間の幅が広かった。ある試験では、ビスホスホネート製剤によりプラセボと比較してSRE発生までの期間が延長する傾向が報告された(エビデンスの質は低い)。また別の試験では、QOLについての報告があり、ビスホスホネート製剤とプラセボとでスコアには明らかな差はなかった(エビデンスの質は中等度)。

BCBM患者において、ビスホスホネート製剤はプラセボ/ビスホスホネート製剤無投与と比較してSREリスクを14%低下させた(RR 0.86、95%CI 0.78~0.95、P=0.003、9試験、患者数2,810例、エビデンスの質は高く、異質性が明らかに認められた)。ビスホスホネート製剤の静脈内投与または経口投与のいずれにおいても、この利益はプラセボ投与と比較して認められた。ビスホスホネート製剤は、プラセボ/ビスホスホネート製剤無投与と比較してSRE発生までの期間(中央値)を延長させ(中央値1.43倍、95%CI 1.29~1.58、P <0.00001、9試験、患者数2,891例、エビデンスの質は高く、異質性はなかった)、骨痛を抑制した(11試験中6件、エビデンスの質は中等度)。ビスホスホネート製剤による治療はBCBM患者の生存に影響を与えないようであった(RR 1.01、95%CI 0.91~1.11、P=0.85、7試験、患者数1,935例、エビデンスの質は中等度で有意な異質性があった)。ビスホスホネート製剤ではプラセボと比較してQOLスコアはわずかに良好であった(5試験中3件、エビデンスの質は中等度)が、試験期間中にスコアは低下した。デノスマブはビスホスホネート製剤と比較してSREの発現リスクを22%低下させた(RR 0.78、95%CI 0.72~0.85、P<0.001、3試験、患者数2,345例)。ある試験では全生存期間に関するデータが報告されており、デノスマブとビスホスホネート製剤との間に差は認められなかった。

全体として報告された毒性は概して軽度であった。顎骨壊死はまれで、術後療法において発症率は0.5%未満であった(エビデンスの質は高い)。

訳注: 

《実施組織》一般社団法人 日本癌医療翻訳アソシエイツ(JAMT:ジャムティ)『海外癌医療情報リファレンス』(https://www.cancerit.jp/) 鈴木久美子 翻訳、尾崎由記範(虎の門病院、腫瘍内科・乳腺)監訳 [2018.01.19]《注意》この日本語訳は、臨床医、疫学研究者などによる翻訳のチェックを受けて公開していますが、訳語の間違いなどお気づきの点がございましたら、コクラン日本支部までご連絡ください。 なお、2013年6月からコクラン・ライブラリーのNew review、Updated reviewとも日単位で更新されています。最新版の日本語訳を掲載するよう努めておりますが、タイム・ラグが生じている場合もあります。ご利用に際しては、最新版(英語版)の内容をご確認ください。《CD003474》

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