マラリア予防のために殺虫剤処理された蚊帳を使用しているコミュニティに屋内残留噴霧を追加すること

本レビューの目的

屋内残留噴霧(IRS)とは、化学殺虫剤を家の壁に定期的に散布することである。殺虫剤は数ヶ月間持続し、着地した蚊を殺す。殺虫剤処理された蚊帳(ITN)は、蚊が人を刺すのを防ぎ、蚊の数を減らすために殺虫剤で処理されたベッドネットである。いずれの介入も、マラリアに感染した蚊に刺される人の数を減らすことで、マラリアの抑制につながる。ITNを使用しているコミュニティでIRSを実施することは、ITNのみを使用するよりもマラリア対策として優れている可能性がある。これは、介入を2つする方が1つの介入よりも優れているという理由だけでなく、ITNに使用されているピレスロイド系殺虫剤に対して蚊が耐性を持っている地域でのマラリア対策を改善できる可能性があるからである。ピレスロイドは、2018年までITNに使用が認められていた唯一のクラスの殺虫剤であったが、ピレスロイドに対する蚊の耐性が高まっているため、その効果が損なわれている。IRSを追加することで、ITNの効果が低下するのを食い止めることができ、ピレスロイド耐性の出現を遅らせることができるかもしれない。ピレスロイド系とは異なる作用を持つ殺虫剤(「非ピレスロイド系」)によるIRSは、同じ作用を持つ殺虫剤(「ピレスロイド系」)のIRSよりも効果を回復させることができると予想される。このレビューの目的は、ITNを使用しているコミュニティでピレスロイド系または非ピレスロイド系のIRSを実施した場合のマラリアへの影響をまとめることであった。

要点

非ピレスロイド系殺虫剤を用いたIRSの追加は、マラリア有病率の低下と関連していた。マラリア発生率も平均的に減少する可能性があるが、この効果は2件の研究では見られず、結果的にすべての環境で介入が効果的であるかどうかについては不確実性が残っている。

IRSにピレスロイド系の殺虫剤を使用した場合、データは限られているが、追加効果は示されなかった。

レビューでは何を調べたのか?

世界保健機関(WHO)が推奨する量のIRSを、既成のITN製品またはWHOが推奨する量の殺虫剤で処理された標準的な蚊帳を使用していたコミュニティで実施した場合の、マラリア感染への影響を評価した研究を検索した。人間の健康への影響と蚊の個体数への影響の両方を検討した。

本レビューの主な結果は何か?

合計で10件の研究が組み入れ基準に合致し、その中から12件の比較を行った。7件の研究(8件の比較を提供)では、研究期間を通して非ピレスロイド系のIRSを使用していた。いずれも、ピレスロイドに抵抗性または高い耐性を持つとされる蚊が生息する地域で実施された。2件の研究(2件の比較を提供)では、研究期間を通してピレスロイド系のIRSを使用していた。さらに1件の研究では、初年度にピレスロイド系のIRSを使用し、次年度からは非ピレスロイド系のIRSに変更したため、2つの異なる比較が行われた。すべての研究はサハラ以南のアフリカで行われた。

ITNを使用しているコミュニティに非ピレスロイド系のIRSを追加すると、ほとんどの環境でマラリアの予後が改善されるようであった。対象となった8件の研究の結果を総合すると、マラリア原虫の有病率が低下していた。また、マラリアの発生率と貧血の有病率が低下している可能性があることがわかった。一人当たりの年間の感染した蚊に刺された回数への影響はわからない。

ITNを使用しているコミュニティにピレスロイド系IRSを追加した場合、3件の研究のデータによると、マラリアの発生率やマラリア原虫の有病率にはおそらく影響がなく、貧血の有病率にもほとんど影響がないと考えられる。一人当たりの年間の感染した蚊に刺された回数に関するデータは限られており、結論を出すことはできなかった。

本レビューの更新状況

2021年11月8日までの関連研究を検索した。

訳注: 

《実施組織》 阪野正大、杉山伸子 翻訳 [2022.02.08]《注意》この日本語訳は、臨床医、疫学研究者などによる翻訳のチェックを受けて公開していますが、訳語の間違いなどお気づきの点がございましたら、コクランジャパンまでご連絡ください。なお、2013年6月からコクラン・ライブラリーのNew review, Updated reviewとも日単位で更新されています。最新版の日本語訳を掲載するよう努めておりますが、タイム・ラグが生じている場合もあります。ご利用に際しては、最新版(英語版)の内容をご確認ください。 《CD012688.pub3》

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