ダーモスコピーの使用により、肉眼のみの場合と比較して、基底細胞癌または皮膚扁平上皮癌の診断の正確性は向上するか

本レビューの目的

基底細胞癌や皮膚扁平上皮癌の診断には、携帯型光源付拡大鏡(「ダーマトスコープ」または「ダーモスコピー」)を使用するほうが、肉眼で視診するだけの場合よりも優れているかを明らかにすることを目的とした。上記の疑問に答えるために24件の研究をレビューの対象とした。

基底細胞癌や皮膚扁平上皮癌の診断の向上が重要である理由

皮膚癌には多くの種類がある。基底細胞癌と皮膚扁平上皮癌は、通常、増殖が悪性黒色腫(メラノーマ)より遅く、さらに基底細胞癌は他の臓器に転移しないため、メラノーマほど深刻な疾患ではない。とはいえ、基底細胞癌と皮膚扁平上皮癌の治療は異なるため、両者を正しく診断することはやはり重要である。基底細胞癌を見落とすと(偽陰性として知られている)容貌を損ない、さらに大きな手術が必要になる可能性がある。皮膚扁平上皮癌を見落とすと他の部位に転移する可能性がある。一方、実際には腫瘍がないにもかかわらず基底細胞癌や皮膚扁平上皮癌と誤診してしまうと(偽陽性の結果)、外科手術などの不要な治療により容貌を損なう傷跡が残るかもしれない。あるいは、周囲の皮膚と比べて外観が異常なほくろ様の病変が実際は癌ではなく良性である場合も、誤診によって患者の悩みの種になる可能性がある。

本レビューで検討された内容

ダーモスコピーは光源付きの携帯式拡大鏡である。ダーモスコピー検査は皮膚科専門医が皮膚癌診断の一助として使用することが多い。また地域の一般医も多く使用している。

視診に加えてダーモスコピー検査が全体として有益な情報を付加できるかを検討するとともに、ダーモスコピーを対面診療で使う場合とダーモスコピーで撮影した皮膚病変の画像を専門医に送って診断する場合で、診断精度が異なるかを否かも検討した。ダーモスコピーによる診断精度がチェックリストの使用によって向上するか、また皮膚科専門医が使用する場合のほうが非専門医が使用する場合よりも診断精度が優れているかの確認も試みた。

本レビューの主な結果

本レビューは皮膚癌が疑われる病変がある患者の情報を報告した24件の研究を対象とした。

対面診療に基づく基底細胞癌の診断

関連する研究が11件あった。うち8件(皮膚癌疑いの病変は7,017カ所)が視診のみの診断精度を検討しており、7件(皮膚癌疑いの病変は4,683カ所)が視診にダーモスコピー検査を加えた際の診断精度を検討していた(うち4件は視診のみと、視診+ダーモスコピー検査の両者のデータ報告であった)。結果は、基底細胞癌を正確に診断する場合も、基底細胞癌ではないものを除外する場合も、ダーモスコピー検査を併用したほうが視診のみよりも精度が高いことを示唆している。

本レビューの結果は、1,000カ所の病変からなる集団(うち170カ所、つまり17%は基底細胞癌)を例に用いて説明できる。基底細胞癌を正確に診断するという点で、ダーモスコピー検査は視診のみに比べてどの程度優れているかを検討するために、視診にダーモスコピー検査を追加する場合と追加しない場合のいずれも、基底細胞癌として誤診される病変が同数になると仮定する必要がある(基底細胞癌のない病変830カ所のうち166カ所は基底細胞癌と誤診されると仮定した)。この設定では、視診にダーモスコピー検査を追加すると、視診のみでは見落とされてしまっていたであろう24カ所の基底細胞癌が正確に診断できた(視診+ダーモスコピー158カ所に対して視診のみ134カ所)。つまり、より多くの基底細胞癌が正確に診断されることになる。

皮膚病変が基底細胞癌ではないと判断するにあたって、ダーモスコピー検査が視診のみに比べてどの程度優れているかを検討するために、視診にダーモスコピー検査を追加する場合と追加しない場合のいずれも、正しく診断される基底細胞癌が同数になると仮定する必要がある(この場合、基底細胞癌病変170カ所のうち136カ所は正しく診断されると仮定した)。この設定では、視診にダーモスコピー検査を追加すると、基底細胞癌であると誤診される病変数は183カ所減少する(つまり視診群191人からダーモスコピー追加群では8人に減少)ことになる。つまり、より多くの基底細胞癌ではない病変が正確に見分けられ、結果として不必要な手術を受ける患者は少なくなることになる。

画像に基づく基底細胞癌の診断

臨床写真またはダーモスコピーの拡大画像のいずれかを使用した基底細胞癌の診断に関する研究11件を対象とした。4件(皮膚癌疑いの病変は853カ所)では臨床写真による視診、9件(疑いのある皮膚病変は2,271カ所)ではダーモスコピー画像を使用した(2件は臨床写真とダーモスコピー画像の両方を使用した診断のデータ報告であった)。結果は対面診療の研究結果と同様であった。

チェックリストおよびダーモスコピーを使用する医療者の専門知識の意義

視診やダーモスコピーの解釈に役立つチェックリストの使用により診断の正確性が向上するというエビデンスはなかった。医療者の専門知識および訓練の影響を検討できるほどの十分なエビデンスはなかった。

皮膚扁平上皮癌の診断

皮膚扁平上皮癌の検出に関しては、視診、ダーモスコピー検査のいずれの正確性についても確実に評価を行えるほど十分なエビデンスがなかった。

本レビューの対象となった研究結果の信頼性

多くの研究は、病変の生検を実施して皮膚癌でないことを組織検査によって確認し、かつ病変そのものが皮膚癌でないことを長期観察によっても確認(経過観察中に病変が増大しないなど)しており、信頼のおける診断である。一部の研究では専門医の診断により皮膚癌でないことを確認しているが、その場合は信頼性が劣る*。各研究でどのように診断が行われたかに関する内容の報告が不十分であるため、信頼性の評価が困難であった。特定の種類の皮膚病変を除外した研究もあれば、専門医への紹介や治療開始のきっかけとなる陽性の検査結果をどのように定義したか記述していない研究もあった。

本レビューの結果が適用される対象者

11件の研究がヨーロッパで行われ(46%)、他は北アメリカ(3件)、アジア(5件)、オセアニア(2件)、複数国(3件)であった。研究の対象患者は平均して30歳から74歳であった。基底細胞癌患者の割合は対面診療の研究で1%~61%であり、画像使用の研究で2%~63%であった。ほぼすべての研究がプライマリケア(専門ではない総合診療)施設から皮膚科専門クリニックに紹介された患者に関して行われた。半数を超える研究では、メラノーマおよび基底細胞癌を含むあらゆる皮膚癌を診断するためのダーモスコピーおよび視診の能力を検討したが、10件(42%)では基底細胞癌のみに焦点を当てていた。診察を行う医師の専門知識のばらつきおよび検査陽性の判断に用いる定義の違いにより、各研究で認められた正確性を実現するためのダーモスコピー検査の実施方法、および必要とされる訓練の水準は不明である。

レビューからわかったこと

ダーモスコピー検査は視診のみと比較して、専門医が使用すれば基底細胞癌の正確な診断に有用な手段となる可能性がある。専門医の診察を必要とする疑わしい病変がある患者を正確に特定するために、一般医がダーモスコピーを使用するべきかどうかは不明である。ダーモスコピーの解釈に役立つチェックリストは基底細胞癌の診断の正確性の向上に有用であるとは考えられない。ダーモスコピーがプライマリケア(専門ではない総合診療)で有用かどうかを明らかにするにはさらに研究が必要である。

本レビューの更新状況

本レビューの著者らは、2016年8月までに発表された研究を検索した。

*このような研究では、生検、経過観察または専門医による診断が(最終診断を確定する手段となる)基準であった。

訳注: 

《実施組織》一般社団法人 日本癌医療翻訳アソシエイツ(JAMT:ジャムティ)『海外癌医療情報リファレンス』(https://www.cancerit.jp/)坂下美保子 翻訳、中村泰大(埼玉医科大学国際医療センター皮膚腫瘍科・皮膚科)監訳 [2019.6.19] 《注意》この日本語訳は、臨床医、疫学研究者などによる翻訳のチェックを受けて公開していますが、訳語の間違いなどお気づきの点がございましたら、コクラン・ジャパンまでご連絡ください。 なお、2013年6月からコクラン・ライブラリーのNew review、Updated reviewとも日単位で更新されています。最新版の日本語訳を掲載するよう努めておりますが、タイム・ラグが生じている場合もあります。ご利用に際しては、最新版(英語版)の内容をご確認ください。《CD011901》

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