PARP阻害薬は卵巣がん患者の生存率を改善するか、またその副作用は何か

要点

化学療法終了後の治療(維持療法)として毎日服用する錠剤のPARP(ポリ(ADPリボース)ポリメラーゼ)阻害薬については、有効成分を含まない「ダミー」の薬(プラセボ)と比較すると、次のことが言える。

- 進行上皮性卵巣がん患者の全生存期間を延長する効果はほとんどないと思われる(ただし、この結果はさらに多くのデータが出てくれば変わる可能性がある)

- 新たに上皮性卵巣がんと診断された患者では、病勢進行を遅らせる可能性が高い

- プラチナ製剤感受性の上皮性卵巣がんの再発患者では、病勢進行を遅らせる可能性が高い

- 重度の副作用のリスクを増加させる可能性が高い

病勢進行を遅らせることでQOLに有益な影響を及ぼすかどうかは、報告されたデータに矛盾がみられるため非常に不確かである。しかし少量のデータから、PARP阻害薬が病勢進行を遅らせることにより病気の症状を改善する可能性があることが示唆される。

上皮性卵巣がんとは何か

上皮性卵巣がんは、卵巣、卵管、腹腔(腹膜)の内膜(上皮)から発生するがんである。がん細胞が腹腔内に入りやすいため、多くの場合、上皮性卵巣がんは進行期で発見される。初期治療は手術(理想的には目に見える病変をすべて切除する)と化学療法の組み合わせである。しかし、ほとんどの患者は再発するため、さらに治療が必要となる。そのため研究者らは、がん細胞の増殖を止める新たな方法を探している。

PARP阻害薬とは何か

細胞の生存にはDNAの修復能力が不可欠であり、正常な細胞には複数のDNA修復経路がある。しかし、がん細胞はDNA修復経路に欠陥があることが多い。BRCA遺伝子はDNAの修復に関与しており、上皮性卵巣がん患者では損傷(変異)しているのが通例である。PARP阻害薬によって別のDNA修復経路を遮断すると、がん細胞のDNA修復が止まり、細胞は死滅する。したがって、PARP阻害薬は従来の化学療法とは異なり、BRCA変異のある細胞に対してより効果的に作用する可能性がある。

知りたかったこと
化学療法と同時に、あるいはその後の維持療法として行われるPARP阻害薬による治療について、以下の点に着目した。

- 死亡を遅らせるか

- 病気の進行を遅らせるか

- QOL(生活の質)を向上させるか

- 好ましくない副作用があるか

本レビューで実施したこと
1990年から2020年10月までのランダム化比較試験(治療やケアを対象者に無作為に割り付ける臨床試験)を検索した。 新規に上皮性卵巣がんと診断された女性患者、およびプラチナ製剤を用いた化学療法を中止してから6カ月以上経過した後(プラチナ製剤感受性再発)またはプラチナ製剤を用いた化学療法から6カ月以内に再発した(プラチナ製剤抵抗性再発)の女性患者を対象に、PARP阻害薬を使用した試験を検索した。データを収集し、結果を集約するとともに、患者や医師がどの治療を受けたかを知っていたか、どのように研究が実施されたか、何人の患者が研究に参加したかなどの要因に基づきエビデンスに対する信頼性を評価した。

本レビューの結果

PARP阻害薬に関するランダム化比較試験15件(参加者数6,109人)(新たに上皮性卵巣がんと診断された患者3,070人(初回治療)を含む4試験と、再発がんの患者3,039人を含む11試験)を特定した。また現在進行中の試験も17件あった。

初回治療

化学療法の実施中にPARP阻害薬を追加

— 卵巣がんが再発するまでの期間(進行・再発)にほとんど差はなかった。

— 化学療法中に経験する重篤な副作用をわずかに増加させた可能性が高い。

しかし、化学療法後に維持療法としてPARP阻害薬を数カ月継続投与したことが、プラセボと比較して、がんの再発あるいは進行を遅らせた可能性が高い。

化学療法終了後のPARP阻害薬による維持療法

— 卵巣がんの再発を遅らせた可能性が高い(12カ月目で病勢進行なしの患者はPARP阻害薬投与群で55%、プラセボ投与群で24%)。

— 再発を遅らせたにもかかわらず、全生存期間にはほとんど差がなかったと思われる。ただし、時間の経過とともにさらに多くの情報が得られれば、この結果は変わる可能性がある。

— PARP阻害薬により重度の副作用のリスクが増加する可能性があるが、エビデンスの確実性は非常に低い。

プラチナ製剤感受性の再発上皮性卵巣がんの治療

従来の化学療法治療薬とPARP阻害薬を比較した。

— 全生存期間、病勢進行の遅延、QOL、重篤な副作用のリスクの点で、ほとんど差がない可能性がある。

レビュー対象とした研究のいずれもBRCA遺伝子変異のある患者のみを対象としているため、その結果がBRCA変異のない患者でも同様かどうかは不明である。

プラチナ製剤感受性卵巣がんに対する化学療法後の維持療法としてのPARP阻害薬

— 再発を遅らせる大きな効果があった(12カ月目で病勢進行がみられなかった患者はPARP阻害薬投与群37%に対しプラセボ投与群5.5%)。

— 治療後の全生存期間にはほとんど差がなかった。

— 重度の副作用のリスクを大幅に増加させる可能性がある。

プラチナ製剤抵抗性再発上皮性卵巣がんの治療

PARP阻害薬と化学療法を比較した。

— エビデンスの質が非常に低いため、治療結果については非常に不確実である。

エビデンスの限界

レビューの対象とした研究の半数はバイアスのリスクが低かったものの、いくつかの研究ではバイアスを招くリスクがある方法を用いており、小規模の研究もあった。 QOLデータの報告が全体的に不十分であったり、異なる方法が用いられていたりしたため、そのような治療結果のデータを組み合わせることに限界があった。

本レビューの更新状況

本レビューのエビデンスは2020年10月現在のものである。

訳注: 

《実施組織》一般社団法人 日本癌医療翻訳アソシエイツ(JAMT:ジャムティ)『海外がん医療情報リファレンス』(https://www.cancerit.jp/)片瀬 ケイ 翻訳、高濱 隆幸(近畿大学病院腫瘍内科ゲノム医療センター) 監訳 [2022.03.30] 《注意》この日本語訳は、臨床医、疫学研究者などによる翻訳のチェックを受けて公開していますが、訳語の間違いなどお気づきの点がございましたら、コクラン・ジャパンまでご連絡ください。 なお、2013年6月からコクラン・ライブラリーのNew review、Updated reviewとも日単位で更新されています。最新版の日本語訳を掲載するよう努めておりますが、タイム・ラグが生じている場合もあります。ご利用に際しては、最新版(英語版)の内容をご確認ください。《CD007929.pub4》

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