産後うつを予防するための抗うつ薬治療

レビューの論点

抗うつ薬が、女性が産後にうつ病を発症するのを予防できるかどうかについて、他の治療方法、偽治療 (プラセボ)、または標準的な臨床ケアと比較したエビデンスを調査した。我々が同定した研究には、既に産後うつを経験し、再び産後うつを経験するリスクが高い女性だけが対象として含まれていた。

背景

産後うつは、一般的によく認める状態である。出産後には、100人あたりおよそ10‐15人の女性がうつ状態を経験し、100人中5人はうつ病性障害を患う。うつ病の症状には、気分の落ち込み(抑うつ状態)、喜びの喪失、罪悪感や無価値感がある。産後うつは、母親に対して影響があるだけではなく、その子どもやより広範な家族の健康や幸福に否定的な影響を与えうる。

うつ病の既往がある女性(特に、産後うつを以前に経験している女性)は、産後うつのリスクが高い。産後うつの発症リスクは高いものの、現在うつ状態ではない妊娠女性は、産後うつの発症を予防する方法を模索するかもしれない。

妊娠中または産後に抗うつ薬を服用することで、産後うつの発症を防ぐことができるかどうか検討した。

研究の特性

関連性のある、小規模な試験を2つ同定した。これらの試験に含まれる女性はすべて産後うつの既往があったが、試験開始時にはうつ状態ではなく抗うつ薬も使用してないかった。2つの試験はともに、抗うつ薬とプラセボを比較していた。出産後 1 日目から抗うつ薬またはプラセボを服用し始めた。

より対象者数が多かった試験(56人の女性)では、投与された抗うつ薬は三環系抗うつ薬であるノルトリプチリンだった。もう一方の研究 (対象者は25 人の女性)、使用された抗うつ薬は選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)であるセルトラリンだった。これらの抗うつ薬は、異なる機序で効果を発揮するものである。どちらの試験においても、対象である女性と結果を評価する研究者は共に、女性が服用したものが抗うつ薬かプラセボかは知らされていない。すなわち、これら2つの試験二重盲検で行われた。2つの試験は共に、国立精神衛生研究所 (NIMH)というアメリカ政府の組織から資金が提供されていた。

主要な結果

ノルトリプチリンが産後うつ病を防げるというエビデンスは見いだせなかった。17 週間の治療期間中、ノルトリプチリンを服用している26人の女性のうち6人、プラセボを服用している25人の女性のうち6人が産後うつを発症した。ノルトリプチンを服用していた中で、躁状態(異常な過覚醒や気分の高揚がみられる状態)を来した女性が1人いた。ノルトリプチンを服用している女性の方が便秘になりやすかったが、他に、望ましくない或いは有害な影響はグループ間でが見られなかった。

セルトラリンの研究では、セルトラリンを服用していた14人の女性のうち1人が、プラセボと服用していた8人の女性のうち4人が産後うつを発症した。観察期間は17週間であった。この試験は非常に小規模だったため、セルトラリンとプラセボに認められた違いが偶然生じたものなのか、セルトラリンが産後うつの既往がある女性の産後うつを予防できるかどうか、について確証が持てない。セルトラリンを服用していた女性のうち1人が軽躁状態(躁状態のようだが、そこまで重症でないもの)を経験した。また、セルトラリンを服用している女性の方が、プラセボと比較してめまいや眠気を訴える頻度が高かった。

エビデンスの質

このエビデンスは、2018 年 2 月現在のものである。

我々は関連した試験を2つしか同定しえず、それらは参加者が少数で結果が矛盾しており、かつ同じ研究者グループによって実施されていた。したがって、このレビューのエビデンスの質は非常に低度と考えられる。抗うつ薬が産後うつを予防できるかどうかを判断するためには、もっと大きなサンプル数を有した試験が必要である。

我々がこのエビデンスについて前回検討してから10年が経過するが、その間に新たな試験が実施されていないことは注目に値する。抗うつ薬が産後だけでなく妊娠中のうつ病を予防できるかどうか、妊娠中も抗うつ薬を継続した方が投薬を中止することと比較してうつ病の再燃を減らすことができるかどうか、これらのテーマは将来的に実施される臨床研究にとって有用なものであろう。

同時に、より長期にわたってフォローする、母体だけでなく胎児や母乳哺育されている乳児のアウトカムと副作用も調査する、抗うつ薬と他の予防的介入(心理学的治療など)を比較する、といった試験も必要である。

訳注: 

《実施組織》杉山伸子、井上円加 翻訳[2018.08.19] 《注意》この日本語訳は、臨床医、疫学研究者などによる翻訳のチェックを受けて公開していますが、訳語の間違いなどお気づきの点がございましたら、コクランジャパンまでご連絡ください。なお、2013年6月からコクラン・ライブラリーのNew review, Updated reviewとも日単位で更新されています。最新版の日本語訳を掲載するよう努めておりますが、タイム・ラグが生じている場合もあります。ご利用に際しては、最新版(英語版)の内容をご確認ください。  《CD004363》

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