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認知症患者における抗コリン作用のある薬剤の累積が将来の有害な臨床転帰に及ぼす影響

要点

抗コリン薬は、認知症を持つ高齢者の死亡リスクを高める可能性がある。 しかし、エビデンスの確実性は低く、抗コリン薬が死亡の原因になるのか、それとも単に健康問題が進行しているためにすでに死亡リスクが高まっている人が使用しやすいだけなのか、はっきりしたことは言えない。

抗コリン薬が、記憶や思考のさらなる悪化、行動や心理的な問題など、他の望ましくない臨床結果を引き起こすリスクについては、確固たる結論を出すことができない。 抗コリン薬が認知症の高齢者に意図しない問題を引き起こすかどうかを確立するために、より多くの研究が必要である。

抗コリン薬とは何か?

薬は、コリン作動性システムと呼ばれる体内の化学シグナル伝達システムの作用を阻害する能力によって分類できる。このような作用を持つ薬を抗コリン作用のある薬といい、抗コリン薬と呼ばれている。

何を知りたかったのか

抗コリン薬は、認知症の人が頻繁に経験する多くの病状を治療するために一般的に使用されている。代表的な例としては、尿路感染症や興奮状態の治療に使用される医薬品が挙げられる。しかし、脳内のコリン作動性システムは学習、記憶、感情の調節に重要な役割を果たしているため、抗コリン薬の使用は、この集団における心理的問題を意図せずに悪化させると考える理論的根拠がある。本レビューでは、抗コリン薬と認知症患者における将来の望ましくない臨床転帰の発生との関連について検討した。

何を行ったのか?

認知症患者において抗コリン薬と様々な臨床転帰との関連を調べた研究を検索した。特定した研究の結果を比較・要約し、研究手法や規模などの要因に基づいて、エビデンスに対する信頼度を評価した。

何を発見したのか?

その結果、記憶や思考に問題がある50歳以上の成人102,684人を対象とした計18件の研究が見つかった。抗コリン薬と認知症患者における記憶や思考の問題の増加との関連性については、非常に一貫性のないエビデンスであることがわかった。抗コリン薬と行動障害の頻度との関連性を調査した研究はなかった。したがって、この集団において抗コリン薬が記憶や思考の問題、あるいは行動障害を引き起こすかどうかについては、結論を出すことができなかった。しかし、抗コリン薬と死亡のリスクとの間には、より一貫した関係があることがわかった。抗コリン薬を服用している人は、抗コリン薬を服用していない人に比べて、死亡リスクが15%高かった。

エビデンスの限界

研究結果の一貫性がなく、臨床結果と抗コリン薬の処方の両方に関連する可能性のある健康状態のコントロールができていないため、利用可能なエビデンスの確実性は非常に低い。抗コリン薬は、実際には死亡の原因にはならないかもしれないが、単に、進行中の健康問題によりすでに死亡のリスクが高まっている人に投与されやすいという可能性がある。

本レビューの更新状況

2021年11月29日までに発表された研究に基づくレビューである。

訳注

《実施組織》堺琴美、阪野正大 翻訳[2022.10.25]《注意》この日本語訳は、臨床医、疫学研究者などによる翻訳のチェックを受けて公開していますが、訳語の間違いなどお気づきの点がございましたら、コクランジャパンまでご連絡ください。なお、2013年6月からコクラン・ライブラリーのNew review, Updated reviewとも日単位で更新されています。最新版の日本語訳を掲載するよう努めておりますが、タイム・ラグが生じている場合もあります。ご利用に際しては、最新版(英語版)の内容をご確認ください。 《CD015196.pub2》

Citation
Taylor-Rowan M, Kraia O, Kolliopoulou C, Noel-Storr AH, Alharthi AA., Cross AJ, Stewart C, Myint PK, McCleery J, Quinn TJ. Anticholinergic burden for prediction of cognitive decline or neuropsychiatric symptoms in older adults with mild cognitive impairment or dementia. Cochrane Database of Systematic Reviews 2022, Issue 8. Art. No.: CD015196. DOI: 10.1002/14651858.CD015196.pub2.