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進行腎癌に対する免疫療法

レビューの論点

腎癌は、診断時に他臓器に転移していると、治癒する例はまれである。現在、標的薬は他臓器に転移が認められる進行腎癌の標準治療であるとされている。このレビューでは、免疫療法または併用療法を現行の標準治療と直接比較している臨床試験を検討する。

背景

新規の標的薬剤が使用される前には、特異的ではない方法で免疫応答を強化する(免疫療法)薬剤が、他臓器に転移が認められる進行腎癌患者に対して最も広く用いられる治療法であった。ワクチンやいわゆる「チェックポイント阻害薬」を含む新たな免疫療法剤が開発され、体の免疫系を特異的に標的とし、免疫系がさらに特異的にがん細胞を認識し攻撃できるようになっている。このレビューでは、あらゆるタイプの免疫療法や併用療法を、現行の標準治療と比較することで評価した。

試験の特性

2016年10月までの系統的な検索により、4つの異なるタイプの免疫療法を検討する試験8件(計4,732例)が特定された。患者が本レビューの対象である免疫療法の1つまたは標準的な標的治療に無作為割付けされていた場合のみ、試験をこのレビューの対象とした。そのうち1件は公的機関による資金提供を受け、その他はすべて製薬企業の支援を受けていた。

試験参加者はおおむね典型的な進行腎癌患者であった。大多数の患者は、治療開始前に腎癌の切除術を受けていた。標準的薬剤による治療歴のある患者(821例)と、ない患者(3,911例)の試験とを比較した。本レビューの対象とした主要アウトカムである生存期間改善の確率(1年生存を含む)について、全試験で報告がなされていた。治療による重症の副作用、QOL(生活の質)、疾患増悪までの期間の延長にも焦点をあてた。

主な結果

インターフェロン・アルファは、標的治療時代以前には、最も多く使用された治療選択肢であった。試験2件(1,166例)で、インターフェロン・アルファ単独(単剤療法)と標準的な標的治療とを比較していた。インターフェロン・アルファはおそらく、スニチニブおよびテムシロリムスという試験に使用された標的療法と比べて、劣っている。インターフェロン・アルファ単剤療法を受けた患者ではおそらく、がん増悪までの時間が短い。このような患者では、QOL(生活の質)は同程度であり、治療による副作用の重症度はわずかに高い。

インターフェロン・アルファにテムシロリムスを加えた場合はおそらく、テムシロリムス単独と比べて生存期間の改善はみられないが、主要な副作用は多くなると考えられる(試験1件)。

試験2件で、前治療歴のない患者1,381例を対象に、インターフェロン・アルファ単剤療法とインターフェロン・アルファとベバシズマブの併用とを比較した。インターフェロン・アルファ単剤療法を受けた患者では、死亡率はわずかに高く、主要な副作用はおそらく少なかった。

試験2件でワクチンを評価していた。ワクチンは、進行腎癌患者に同程度の死亡率や副作用をもたらすと考えられる。

既に全身療法を受けている患者に対し、新規チェックポイント阻害薬ニボルマブを用いた試験1件では、標準的な標的薬剤エベロリムスに比べ、平均生存期間が5ヵ月超延長した。その効果にはおそらく、生活の質の改善、副作用の減少が伴っている。

エビデンスの質

患者と治療担当医が治療に対して盲検化されていないことが多く、対象とした患者が比較的少数であったため、解析した試験の結果への信頼度を引き下げた(エビデンスの質:中程度または低)。

背景

2000年代中盤以来、転移性腎細胞癌(mRCC)の分野では、幅広い作用を持つサイトカインを用いた非特異的療法から癌や腫瘍の微小環境、またはその両者を直接に標的とする特異的レジメンへのパラダイムシフトが起きている。

現行ガイドラインでは、スニチニブ、パゾパニブ、テムシロリムス(予後不良の患者に対して)などの標的薬剤をmRCC患者の一次治療の標準治療として推奨し、非特異的サイトカインを限定された患者の代替選択肢としている。

2015年11月に、プログラム細胞死タンパク質1(PD-1)に対するチェックポイント阻害薬ニボルマブが最初の特異的免疫療法薬として承認され、治療歴のあるmRCC患者の二次治療薬となった。

目的

転移性腎細胞癌の治療に関して免疫療法薬の単剤または標準的な標的治療薬との併用の効果を評価し、患者の利益を最大にするその有効性を評価すること。

検索戦略

コクラン・ライブラリ、MEDLINE(Ovid)、Embase(Ovid)、ISI Web of Science、2016年11月に進行中の臨床試験登録を、言語に制約を設けずに検索した。参考文献一覧を調べ、当該分野の専門家に問い合わせてさらに情報を得た。

選択基準

盲検化を伴う、あるいは伴わないmRCC患者を対象としたランダム化比較試験(RCT)、準RCTを含めた。

データ収集と分析

公表されているプロトコールにしたがって試験を収集し解析した。主要評価項目の要約統計量は、リスク比(RR)、平均差(MD)およびその95%信頼区間(CI)であった。GRADEアプローチを用いてエビデンスの質を格付けし、その質と各主要評価項目の比較効果、絶対効果の大きさを「知見のまとめ」表に要約した。

主な結果

適格な参加者4,732例を対象とした試験8件、進行中の試験13件を特定した。試験を比較条件別に分類した。いずれも標準治療を対照とする、mRCCの一次治療としての比較(5件)または二次治療としての比較(1件)であった。

インターフェロン・アルファ単剤療法では、テムシロリムスまたはスニチニブを用いた標準的な標的治療に比べ、1年全死亡率の上昇がおそらく認められ(RR 1.30、95% CI 1.13 ~1.51、2試験、1,166例、エビデンスの質:中等度)、QOL(生活の質)は同程度(例:Functional Assessment of Cancer – General[FACT-G]についてMD -5.58ポイント、95% CI -7.25~-3.91、1試験、730例、エビデンスの質:低)、グレード3以上の有害事象の発現率がわずかに上昇すると考えられる(RR 1.17、95% CI 1.03~1.32、1試験、408例、エビデンスの質:低)。

1年全死亡率について、インターフェロン・アルファとテムシロリムスの併用とテムシロリムス単剤との差はおそらくない(RR 1.13、95% CI 0.95~1.34、1試験、419例、エビデンスの質:中等度)が、グレード3以上の有害事象の発現率に上昇が認められると考えられる(RR 1.30、95% CI 1.17~1.45、1試験、416例、エビデンスの質:低)。QOLに関する情報はなかった。

インターフェロン・アルファ単剤では、インターフェロン・アルファとベバシズマブの併用に比べ1年全死亡率のわずかな上昇が認められると考えられる(RR 1.17、95% CI 1.00~1.36、2試験、1,381例、エビデンスの質:低)。この結果にはおそらく、グレード3以上の有害事象の発現率の低さが伴う(RR 0.77、95% CI 0.71~0.84、2試験、1,350例、エビデンスの質:中)。QOLはデータが不十分であったため、評価できなかった。

インターフェロン・アルファとベバシズマブまたは標準的な標的治療(スニチニブ)の併用では、1年全死亡率は同程度(RR 0.37、95% CI 0.13~1.08、1試験、83例、エビデンスの質:低)、グレード3以上の有害事象は同程度と考えられる(RR 1.18、95% CI 0.85~1.62、1試験、82例、エビデンスの質:低)。QOLはデータが不十分であったため、評価できなかった。

ワクチン(MVA-5T4やIMA901など)による治療または標準治療では、1年全死亡率は同程度(RR 1.10、95% CI 0.91~1.32、エビデンスの質:低)、グレード3以上の有害事象は同程度と考えられる(RR 1.16、95% CI 0.97~1.39、2試験、1,065例、エビデンスの質:低)。QOLはデータが不十分であったため、評価できなかった。

治療歴のある患者において、標的免疫療法(ニボルマブ)では、エベロリムスを用いた標準的な標的療法に比べ、おそらく1年全死亡率には低下が認められ(RR 0.70、95% CI 0.56~0.87、1試験、821例、エビデンスの質:中等度)、おそらくQOLには改善が認められ(例:FACT-Kidney Symptom Index Disease Related Symptoms[FKSI-DRS]の臨床的に有意な改善、RR 1.51、95% CI 1.28~1.78、1試験、704例、エビデンスの質: 中等度)、おそらくグレード3以上の有害事象発現率には低下が認められる(RR 0.51、95% CI 0.40~0.65、1試験、803例、エビデンスの質:中等度)。

著者の結論

インターフェロン・アルファ単剤療法では、標準的な標的療法単独に比べ全死亡率の上昇が認められるが、インターフェロンと標準的な標的療法との併用では差がないというエビデンスの質は中等度である。インターフェロン単独では、QOLが低下し、重度の有害事象はインターフェロン単独または併用で増加するというエビデンスの質は低い。インターフェロン・アルファ単剤では、死亡率の上昇が認められるというエビデンスの質は低いが、インターフェロン・アルファとベバシズマブの併用に比べ有害事象が減少するというエビデンスの質は中等度である。インターフェロン・アルファとベバシズマブの併用では、スニチニブに比べ死亡率と重度の有害事象について差はないというエビデンスの質は低い。ワクチンを用いた治療では、標準的な標的療法と比べ死亡率および有害事象について差はないというエビデンスの質は低いが、標的免疫療法では、死亡率および有害事象に減少が認められ、QOLが改善するというエビデンスの質は中等度である。


訳注

《実施組織》一般社団法人 日本癌医療翻訳アソシエイツ(JAMT:ジャムティ)『海外癌医療情報リファレンス』(https://www.cancerit.jp/) 鈴木久美子 翻訳、榎本裕(三井記念病院、泌尿器科)監訳 [2017.07.17] 《注意》この日本語訳は、臨床医、疫学研究者などによる翻訳のチェックを受けて公開していますが、訳語の間違いなどお気づきの点がございましたら、コクラン日本支部までご連絡ください。 なお、2013年6月からコクラン・ライブラリーのNew review、Updated reviewとも日単位で更新されています。最新版の日本語訳を掲載するよう努めておりますが、タイム・ラグが生じている場合もあります。ご利用に際しては、最新版(英語版)の内容をご確認ください。《CD011673》

Citation
Unverzagt S, Moldenhauer I, Nothacker M, Roßmeißl D, Hadjinicolaou AV, Peinemann F, Greco F, Seliger B. Immunotherapy for metastatic renal cell carcinoma. Cochrane Database of Systematic Reviews 2017, Issue 5. Art. No.: CD011673. DOI: 10.1002/14651858.CD011673.pub2.