主な結果
- 尿漏れがある女性に対する骨盤底筋群(膀胱、腸、子宮を支える筋肉)トレーニングの手法には、他のものより優れているものもあれば、同じくらい優れているものもある。
- 多くの手法について確信が持てなかった。なぜなら、その手法を調べた研究が1件しかなかったり、いくつかの小規模な研究しかなかったりしたからである。
- 骨盤底筋群トレーニングのさまざまな手法を直接比べた、より多くの研究が必要である。特に、どんなトレーニングの量(たとえば、トレーニングの回数など)がよいかについて、調べる必要がある。
尿失禁とは何か
骨盤底筋群は、骨盤の前部にある恥骨から骨盤の後部にある尾骨までの間、股の部分にある。ハンモックのような構造で、膀胱、腸、子宮を支えている。骨盤底筋群が弱くなると、女性は排尿をコントロールできず、尿が漏れてしまうことがある。これを尿失禁という。尿失禁には、次の3つのタイプが多い。運動時におこる尿漏れ(腹圧性性尿失禁)、急に尿意を感じてがまんできずにおこる尿漏れ(切迫性尿失禁)、およびその両方(混合性尿失禁)である。このレビューでは、この3つのタイプすべてを取り上げる。尿失禁は、女性の生活の質に深刻な影響を与える。
骨盤底筋群トレーニングとは?
トレーニングによって骨盤底筋群の筋力、持久力、協調性を向上させれば、尿漏れを減らすことができる。トレーニングには、さまざまな手法、または同じ手法でも回数などの負荷量が異なるものが含まれる。トレーニングの教え方もさまざまである。たとえば、マンツーマンの指導、グループでの指導、あるいはインターネットや携帯電話、リーフレットでトレーニングの内容を伝えるなどがある。
知りたかったこと
以下の点について明らかにすることを試みた。
- どのトレーニングの手法が他の手法より優れているか;
- トレーニングの量は多い方が優れているか;
- より徹底した指導の方が優れているか。
実施したこと
トレーニングの手法どうしの比較、トレーニングの量の比較、指導の徹底度による比較をした研究を探した。レビューに含む研究は、尿失禁の女性を対象としたが、神経系に疾患のある女性や、妊娠中あるいは最近出産した女性は対象からはずした。
研究結果を比較・要約し、研究方法や研究規模などの要因に基づいて、エビデンスに対する信頼性を評価した。最も関心があったのは、治療後の女性の生活の質であった。
わかったこと
4,920人の尿失禁がある女性を対象とした63件の研究が見つかった。最大の研究は362人の女性、最小の研究は11人の女性を対象としていた。これらの研究は世界各国で実施されていたが、そのほとんどは中所得国から高所得国(つまり、女性が適切な医療を受けられる国)のものであった。ほとんどの研究で、継続期間は3か月であった。3件の研究では、営利企業からの資金提供や金銭以外の支援があった。
主な結果
主な関心は、女性の生活の質であった。尿漏れの回数や量、および尿漏れが女性に与える影響や制限について、アンケートを用いて測定した。
1.トレーニングの種類
- 複合トレーニング(たとえば、骨盤底筋群を収縮させるのと同時にブリッジのポーズをとる)は、骨盤底筋群トレーニング単独よりもわずかに優れているかもしれない。
- 骨盤底筋群トレーニングは、間接的なトレーニング(骨盤底筋群の収縮を含まない運動)よりもよいかもしれない。
- 骨盤底筋群トレーニングと間接的なトレーニングを組み合わせても、骨盤底筋群トレーニング単独と比べてほとんど違いがないかもしれない。
2.トレーニングの量
- トレーニングの量については、意見を出すには十分なエビデンスがなかった。
3.指導の徹底度
- マンツーマンの指導とグループでの指導の違いは、おそらくほとんどないだろう。
- インターネットや携帯電話アプリなどの技術を活用した指導は、リーフレットよりも若干優れているかもしれない。
- その他のトレーニングの指導については、意見を出すには十分なエビデンスがなかった。
エビデンスの限界
マンツーマンの指導とグループでの指導では、ほとんど違いがない。一方、骨盤底筋群トレーニング単独と比べて、間接的なトレーニングと骨盤底筋群トレーニングを組み合わせてもほとんど差がないこと、骨盤底筋群トレーニングの指導をテクノロジーで行う方がリーフレットよりも若干優れていること、骨盤底筋群トレーニングの方が間接的なトレーニングよりも優れていることについては、あまり確信がない。
エビデンスに対する信頼性は、ほとんどが低いか、または非常に低い。今後の研究では、このレビューと異なる結果が出る可能性がある。
研究方法が十分に説明されていなかったり、関心のある評価項目についてデータを提供していない研究があったり、レビューに活用できる方法で報告されていなかったり、異なる研究間で結果に一貫性がなかったり、多くの研究が非常に小規模であったりしたため、エビデンスについて確信が持てなかった。
このエビデンスの更新状況
エビデンスは、2023年9月27日までのものである。
《実施組織》杉山伸子、小林絵里子 翻訳 [2025.09.22]《注意》この日本語訳は、臨床医、疫学研究者などによる翻訳のチェックを受けて公開していますが、訳語の間違いなどお気づきの点がございましたら、コクランジャパンまでご連絡ください。なお、2013年6月からコクラン・ライブラリーのNew review, Updated reviewとも日単位で更新されています。最新版の日本語訳を掲載するよう努めておりますが、タイム・ラグが生じている場合もあります。ご利用に際しては、最新版(英語版)の内容をご確認ください。 《CD009508.pub2》