要点
- 出生時に酸素が不足した乳児(低酸素虚血性脳症)に対する鍼治療のベネフィット(有益性)と有害性については、エビデンス(科学的根拠)が不足しているため、結論を出すことができない。
- 将来的には、鍼治療のベネフィット(有益性)と有害性について、薬と比較したり、鍼治療のさまざまな方法を比較したりする研究が必要である。
{1>低酸素性虚血性脳症と鍼治療<1}
低酸素性虚血性脳症は、乳児が出生前後に酸素不足になることで発症し、重篤な疾患や死に至る可能性がある。有用な治療法は限られている。しかし、3日間体温を冷やすことは有益であることが示されている。鍼治療も低酸素性虚血性脳症の乳児に試みられている。鍼治療は中国伝統医学で用いられる治療法である。鍼(またはレーザー)を身体の特定の経穴(ツボ)に使用する。経穴(ツボ)刺激で、体内のエネルギーや生命力の流れを変化させ、予防法を取り戻すことで、病気や疾患を防ぐことができると信じられている。電気刺激を伴う鍼治療、電気刺激を伴わない鍼治療、レーザーによる鍼治療、鍼の代わりに指を使う非貫通型の指圧など、さまざまな種類がある。さらに、鍼治療の期間や頻度はさまざまである。
知りたかったこと
低酸素性虚血性脳症の乳児に対する鍼治療のベネフィット(有益性)と有害性を検証したいと考えた。主要評価項目は、死亡、18~24カ月児と3~5歳児の長期脳発達、望ましくない事象、入院期間であった。
実施したこと
鍼治療を、無治療、プラセボまたは偽治療(科学的研究で参加者に行われる疑似的または偽の治療)、なんらかの薬、または別種の鍼治療(例えば、鍼による鍼治療とレーザーによる鍼治療との比較)と比較した研究を検索した。
わかったこと
低酸素性虚血性脳症の乳児464例を対象とした4件の研究が同定された。研究規模は、乳児60から200例の間であった。3件の研究は中国で、1件はロシアで行われていた。
主要な結果
4件の研究のいずれも、本レビューで対象アウトカムを報告していない。低酸素性虚血性脳症の乳児に対する鍼治療のベネフィット(有益性)と有害性については、エビデンスが不足しているため、結論を出すことができない。現在進行中の研究は確認できなかった。
エビデンスの限界
これらの研究では、本レビューに使用できる情報は報告されていなかった。
本エビデンスの更新状況
本レビューは2013年に発表された以前のレビューを更新したものである。本エビデンスは2023年3月現在のものである。
Read the full abstract
新生児の低酸素性虚血性脳症(HIE)は、高い死亡率および罹病率と関連性がある。有効な選択治療が限られており、したがって鍼治療などの代替治療の利用が増加している。
目的
HIEの新生児の罹病率および死亡率に対する鍼治療の有効性および安全性の確定を試みた。
検索戦略
Cochrane Central Register of Controlled Trials (CENTRAL)(コクラン・ライブラリ)、Cochrane Neonatal Specialized Register、 MEDLINE、 AMED、 EMBASE、 PubMed、 CINAHL、 PsycINFO、 WHO International Clinical Trials Registry Platform、およびさまざまな中医学データベースを2012年11月に検索した。
選択基準
HIEの新生児(生後28日未満)の鍼治療群と、無治療、プラセボまたは偽治療のコントロール群とを比較したランダム化比較試験(RCT)または準RCTの選択を計画した。介入およびコントロール群両群が同じ併用介入を受ける場合に限り、併用介入を許可した。鍼の皮膚穿通を施さない治療を評価した試験または異なる種類の鍼治療を比較しただけの試験は除外した。
データ収集と分析
2名のレビュー著者が独立して選択試験を評価した。試験を同定後、レビュー著者は独立して試験の質を評価しデータを抽出することとした。二値アウトカムに対しては、リスク比(RR)、リスク差 (RD)、治療必要数(NNTB)、有害必要数(NNTH)を 95%信頼区間(CI)で、連続アウトカムに対しては平均差 (MD)を95%CI で用いるよう計画した。
主な結果
所定の選択基準に適合する試験はなかった。既存の試験はHIEがから生存した年長の乳児における鍼治療を評価しているだけであった。新生児のHIE治療における鍼治療の有効性を評価したRCTは現在のところない。HIEの新生児に対する鍼治療の安全性については不明である。
著者の結論
HIEの新生児への鍼治療の論拠は不明確で、RCTのエビデンスは不足している。したがって新生児のHIE治療に対して鍼治療を推奨できない。したがって新生児のHIE治療に対して鍼治療を推奨できない。
《実施組織》厚生労働省「「統合医療」に係る情報発信等推進事業」(eJIM:http://www.ejim.mhlw.go.jp/)[2025.08.04] 《注意》この日本語訳は、臨床医、疫学研究者などによる翻訳のチェックを受けて公開していますが、訳語の間違いなどお気づきの点がございましたら、eJIM事務局までご連絡ください。なお、2013年6月からコクラン・ライブラリーのNew review, Updated reviewとも日単位で更新されています。eJIMでは最新版の日本語訳を掲載するよう努めておりますが、タイム・ラグが生じている場合もあります。ご利用に際しては、最新版(英語版)の内容をご確認ください。 【CD007968.pub3】