要点:
強力な副腎皮質ステロイド外用薬(以下ステロイド)、JAK(ヤヌスキナーゼ)阻害薬、タクロリムス0.1%(いずれも免疫系を抑制する薬剤)は、アトピー性皮膚炎の徴候や症状を軽減するのに一貫して有効である。
灼熱感(ほてり感)や刺激感(ヒリヒリ感)などの望ましくない効果(副作用)は、タクロリムス、ピメクロリムス、クリサボロールでより起こりやすく、ステロイドでは起こりにくい;皮膚が薄くなるなど、他の副作用は、強力なステロイドを長期使用(長期塗布)した場合にのみ起こりやすい。
アトピー性皮膚炎に対する抗炎症外用薬の長期的な有効性と安全性については不確実であるため、製品の入手可能性、費用面、個人の優先事項など、他の要因も考慮するべきである。
何を調べたかったのか?
アトピー性皮膚炎は、(現在のところ)治らないとされている炎症性の皮膚疾患である。アトピー性皮膚炎の症状を軽減するとされているさまざまな皮膚に直接塗る(外用)抗炎症治療薬(抗炎症外用薬)を比較した。アトピー性皮膚炎がある人に対して最も有効性が高くかつ最も安全な抗炎症外用薬を見つけたかった。
実施したこと
年齢や湿疹の重症度を問わず、アトピー性皮膚炎の人が参加したランダム化試験を対象とした。外用治療(塗り薬)は少なくとも1週間使用する必要があり、他の抗炎症治療または無治療と比較した。接触性皮膚炎または手湿疹の試験は除外し、抗菌薬、補完療法、保湿剤のみ使用、光線療法、ウェットラップ療法(患部に保湿剤を塗り、その上を包帯などで覆うことで、皮膚の潤いを保つ治療法)、錠剤(飲み薬)、シロップ(飲み薬)、注射薬による治療の試験は含まなかった。
有効性のエビデンス(科学的根拠)として、患者評価による湿疹の症状、医師評価による湿疹の徴候、および副作用に注目した。(研究結果の)解析は標準的なコクラン手順に従い、CiNEMA というツールを使用しエビデンスに対する信頼度を評価した。
わかったこと
あらゆる重症度のアトピー性皮膚炎がある 45,846人の参加者を含む 291件の研究を分析した。研究のほとんどは高所得国で実施され、成人を対象としていた。12歳未満の小児を対象とした研究は31件のみであった。これらの研究は、ステロイドクリームやカルシニューリン阻害薬などの治療薬を評価していた。研究期間は7日から5年の範囲であり、ほとんどの研究がアトピー性皮膚炎の抗炎症治療薬を製造している企業から資金提供を受けていた。
強力なステロイド、ルキソリチニブ1.5%などのヤヌスキナーゼ(JAK)阻害薬、およびタクロリムス0.1%は、アトピー性皮膚炎の徴候や症状を軽減するのに一貫して有効であった。クリサボロール2%などのホスホジエステラーゼ-4阻害薬は最も有効性が低かった。灼熱感(ほてり感)や刺激感(ヒリヒリ感)などの副作用は、タクロリムス、ピメクロリムス、クリサボロールでより起こりやすく、ステロイドでは起こりにくかった。強力なステロイドの1日1回または2回使用も含め、どの治療でも短期間(16週間以下)の使用では皮膚が薄くなる症状が増加したというエビデンスはなかった。ステロイドを長期間(16週間以上)使用することにより、皮膚が薄くなる症状が起きることがあることがわかった。弱い、中等度、または強力なステロイドを6ヵ月から5年間塗り続けると、約300人に1人の割合で皮膚が薄くなることがあった。
エビデンスに対する信頼度は、さまざまな種類の評価指標や治療によって異なった。それは、それぞれの治療の試験規模(参加者数)と試験数、試験間の結果の違い、そして結果が公平に報告されていたと判断したかどうか、などによるものであった。
エビデンスの限界は?
抗炎症外用薬の長期的な有効性と安全性に関して十分な情報がなかった。このレビューは、アトピー性皮膚炎を持つほとんどの人を対象に、症状をコントロールするための最も効果的かつ安全な短期治療を示すガイドとして参照されるべきである。製品の入手可能性、費用面、個人の優先事項はさまざまであり、すべての人に最適な唯一の治療法というものはない。
本エビデンスの更新状況
本エビデンスは2023年6月時点のものである。
《実施組織》 バベンコ麻以 翻訳、井上円加 監訳[2025.5.4] 《注意》 この日本語訳は、臨床医、疫学研究者などによる翻訳のチェックを受けて公開していますが、訳語の間違いなどお気づきの点がございましたら、コクランジャパンまでご連絡ください。なお、2013年6月からコクラン・ライブラリーのNew review, Updated reviewとも日単位で更新されています。最新版の日本語訳を掲載するよう努めておりますが、タイム・ラグが生じている場合もあります。ご利用に際しては、最新版(英語版)の内容をご確認ください。 《CD015064.pub2》