ルーチンの臨床検査とは何か?
ルーチンの臨床検査とは、患者の健康状態に関する情報を提供する、一般的に行われる一連の血液検査である。これらの検査は、病気の特定や健康状態のモニターに使用することができる。
知りたかったこと
外来や救急外来を受診した患者の中から、重症の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)を発症したり死亡したりするリスクの高い患者を特定することが重要である。それらは、臨床医が患者に入院が必要かどうかを判断する際に役立つ。SARS-CoV-2の感染が確定診断された患者において、ルーチン検査が死亡率や悪化の予測に十分正確かどうかを知りたかった。
実施したこと
SARS-CoV-2が確認された患者において、ルーチンの臨床検査が死亡率や悪化をどの程度予測できるかを評価した研究を検索した。世界中のあらゆる場所で行われた、どのようなデザインの研究も対象とした。年齢、性別は問わない。
わかったこと
53種類の異なるルーチンの臨床検査を対象とした64件の研究が見つかった。これらの研究では、ルーチンの臨床検査が死亡率、悪化、あるいはその両方をどの程度予測できるかを評価していた。合計71,170人の患者が対象となり、そのうち8,169人(11.5%)が死亡し、4,031人(5.7%)が重症/重篤に悪化した。成人患者を対象とした研究は31件、60歳以上の患者を対象とした研究は2件、小児と成人の混合を対象とした研究は2件、小児のみを対象とした研究は1件であった。ほとんどの研究は中国で行われ、スペインとイタリアがそれに続いた。すべての研究は病院で行われた。
「感度」と「特異度」は、検査の成績を報告する際によく使われる。感度とは、結果(=死亡率または悪化)を有する患者のうち、検査によって正しく「結果を有する」と判定された人の割合である。特異度とは、結果を有しない人のうち、検査によって正しく「結果を有しない」と判定された人の割合である。検査の感度と特異度が100%に近ければ近いほど、その検査はより正確である。死亡または悪化しない患者を安全に除外するには、90%以上の高い感度が必要である。4件以上の研究が同じ検査を評価している場合は、データを統合してまとめて分析した。悪化や死亡といった重篤な結果を安全に除外できるほど正確な検査は見つからなかった。感度、特異度ともに50%を超える検査が5種類あった。これらの検査項目のうち4種類は、SARS-CoV-2感染における重要な炎症を示している。この4種類の検査とは、C反応性蛋白(CRP)、好中球対リンパ球比、リンパ球数、乳酸脱水素酵素(LDH)である。5番目の検査であるDダイマーは、SARS-CoV-2感染によって血液凝固が亢進した状態を反映する。
結果の信頼性
このレビューのエビデンスに対する信頼性は低い。というのも、組み入れられた研究間に重大な差があり、比較することが難しかったからである。感度と特異度は、陽性(病気を有する)と陰性(病気を有さない)をどこで分けるかによって決まる。いくつかの研究では、著者はテストを行う前にカットオフ値を決定し(バイアスが生じにくい)、別の研究では、テストの分析後にカットオフ値を選択した(バイアスが生じやすい)。
レビューの結果は誰に適用できるのか?
ルーチンの臨床検査は、医師の診察時または救急部で受けることができる。しかし、対象となった研究は、病院を受診した患者のみを評価したものである。SARS-CoV-2感染が確認された患者を対象とした。ワクチン接種患者について報告した研究は1件のみだった。異なるSARS-CoV-2変異株への影響を評価することはできなかった。したがって、今回の結果は、ワクチン接種を受けた患者や、懸念されるさまざまな変異株について代表的なものではないかもしれない。
結果が意味すること
COVID-19疾患患者の炎症や血液凝固に関連するこれらのルーチン検査は、患者を評価するためのリスク層別化に使用できる。しかし、これらの検査はいずれも、重度あるいは致命的な病気への進行を安全に除外するのに十分なものではなかった。これらの検査は、患者の全体的な健康状態を評価するのに役立つかもしれない。悪化や死亡率を予測するには、臨床症状、X線所見、患者の特徴など、より包括的な評価を考慮する必要がある。
本レビューの更新状況
2022年8月25日までのすべてのCOVID-19研究を検索した。
《実施組織》 阪野正大、杉山伸子 翻訳[2024.10.16]《注意》この日本語訳は、臨床医、疫学研究者などによる翻訳のチェックを受けて公開していますが、訳語の間違いなどお気づきの点がございましたら、コクランジャパンまでご連絡ください。なお、2013年6月からコクラン・ライブラリーのNew review, Updated reviewとも日単位で更新されています。最新版の日本語訳を掲載するよう努めておりますが、タイム・ラグが生じている場合もあります。ご利用に際しては、最新版(英語版)の内容をご確認ください。 《CD015050.pub2》