主な結果
- 静脈血栓塞栓症(VTE;静脈内に血栓ができたりそれが詰まったりする疾患)の一次予防を目的としてスタチンを使用したら、VTEおよび何らかの原因による死亡の発症率をわずかに減少させるかもしれないが、その減少幅は小さすぎて重要ではないかもしれない。
- スタチンは、深部静脈血栓症(DVT:下肢に血栓ができる疾患)、肺塞栓症(PE:肺の血管に血栓が詰まる疾患)、ミオパチー(骨格筋に影響を及ぼす疾患)を起こす可能性に影響を与えないかもしれない。
- 入手可能なエビデンスは限られており、その信頼性については確実ではない。今後の前向き研究は、十分な計画のもとに実施されるべきである。多くの人々が参加し、少なくとも1年以上の妥当な期間にわたって実施されるべきである。
静脈血栓塞栓症(VTE)とは何か?
VTEとは、静脈に血栓ができて血管が詰まる病気である。血栓ができた静脈の血流が減少し、腫れや痛みを引き起こす。VTEは下腿、大腿、骨盤の「深部静脈」で起こることが最も多く、DVTと呼ばれる。血栓が外れて肺に移動した場合は、PEと呼ばれる。世界では、年間10万人あたり、57人がVTE、35人がDVT、21人がPEと診断されている。
スタチン系薬剤には、アトルバスタチン、フルバスタチン、ロバスタチン、ピタバスタチン、プラバスタチン、ロスバスタチン、シンバスタチンなどがあり、最も頻繁に使用されるコレステロール低下薬である。これらのスタチンは、コレステロール値を低下させる効果があり、その結果、VTEの発症率を低下させる可能性がある。
知りたかったこと
VTEの既往歴のない患者における、VTEの一次予防に対するスタチンの有益性とリスクを明らかにすることを目的とした。
実施したこと
スタチンとプラセボ(偽薬)または通常のケア(食生活の改善などの日常的なケア)を比較したランダム化比較試験(RCT)を検索し、スタチンによって初回VTE発症者数や副作用発現者数に差があるかどうかを評価した。
RCTとは、参加者を2種類以上の治療群に無作為に割り付けた実験的研究である。このように無作為にグループに割り当てる方法は、グループが類似していることを保証し、誰がどのグループに属するかを調査者も参加者も知らないようにすることで、バイアスのリスクを減らすのに役立つ。
わかったこと
今回のレビューには、122,601人の成人(18歳以上)を対象とした27件のRCTが含まれている。そのうち2件の研究では、60歳以上を対象としていた。1件の研究は健康な人々を対象としていたが、残りの26件の研究の参加者はさまざまな病気を持っていた。すべての研究は、男女両方の参加者を対象としている。2件の研究はプライマリ・ケアセンターからの参加者を対象としたもので、残りの25件は病院からの参加者を対象としたものであった。
対象となったスタチンは、アトルバスタチン、ロスバスタチン、プラバスタチン、ロバスタチン、フルバスタチン、シンバスタチンである。ほとんどの研究(27件中23件)は、参加者の追跡調査を1年以上継続した。また、ほとんどの研究(27件中24件)が営利企業から資金援助を受けていた。
個々の研究の結果を統合したところ、スタチンはVTE症例数をわずかに減少させる可能性があることがわかった。 スタチンによって予防されたVTE症例の数は少なかった。しかし、スタチンはDVT(下肢の血栓)とPE(肺塞栓)それぞれの症例数を減らすことはできないかもしれない。ミオパチーのような重篤でない副作用の量に差を示すエビデンスは見つからなかった。スタチンは、あらゆる原因による死亡の発症率を減少させるか、重篤な副作用の数を減少させる可能性がある。
エビデンスの限界
いくつかの研究で用いられた方法に懸念があるため、結果にはあまり信頼性がない。血栓が起こった数が少ないため、影響を検出するのが難しい。参加者の全体的な健康状態の差や、スタチンの用量や種類が研究によって異なることが、さらに複雑さをもたらしている。VTEの発症率を公表していない研究を除外したので、関連する研究が見落としてしまっている可能性がある。これが、本レビューの結論に影響を与えているかもしれない。
本レビューの更新状況
エビデンスは2023年3月13日までのものである。
《実施組織》 阪野正大、杉山伸子 翻訳 [2024.11.13] 《注意》この日本語訳は、臨床医、疫学研究者などによる翻訳のチェックを受けて公開していますが、訳語の間違いなどお気づきの点がございましたら、コクランジャパンまでご連絡ください。なお、2013年6月からコクラン・ライブラリーのNew review, Updated reviewとも日単位で更新されています。最新版の日本語訳を掲載するよう努めておりますが、タイム・ラグが生じている場合もあります。ご利用に際しては、最新版(英語版)の内容をご確認ください。 《CD014769.pub2》