ペストの迅速診断検査

なぜペストの診断の改善は重要なのか?

ペストは高い死亡率を有する重篤な感染症である。肺ペストは主に肺に影響を与えるが、腺ペストは痛みを伴う腫れが見られる。ペストを早期に診断しないと、病気の悪化や死亡につながる診断や治療の遅れ、および感染の広がりが大きくなる可能性がある。迅速診断検査(RDT)は、特に資源が少ない環境において、ペストの迅速な診断に役立つ可能性がある。これは患者のケアの質を向上させ、感染が広がらないための適切な対応を可能にする。

このレビューの目的は何か?

ペストが疑われる人のペスト感染を検出するための、F1RDTの精度を評価すること。

このレビューで何が検討されたか?

F1RDTとは、ペストの病原菌であるYersinia pestisの外表面の一部であるF1抗原を検出する検査である。検査は簡単に行うことができ、15分以内に結果が出る。横痃(腫れ)に含まれる膿や、肺ペストが疑われる人の痰(咳き込むことで気道から排出される粘液)で行うことができる。F1RDTの結果を培養検査、分子学的検査、または血清学的検査と比較して測定した。

主な結果は何か?

7件の研究(8本の論文で報告)が、アフリカ3カ国でペストが疑われる人にF1RDTを使用した結果を提供していた。

どの種類のペストであっても、培養検査と比較した場合、F1RDTはペストに感染していた人の100%で陽性となり(これは疾患にかかっている人を正しく陽性と判定する確率である、感度を意味する)、ペストに感染していなかった人の70%で陰性となった(これは疾患にかかっていない人を正しく陰性と判定する確率である、特異度を意味する)。

肺ペストにおいては、培養検査と比較して感度は100%、特異度は71%であった。

腺ペストにおいては、培養検査と比較して感度は100%、特異度は67%であった。腺ペストの分子学的検査と比較して、感度は95%、特異度は93%であった。

このレビューの結果の信頼性はどの程度か?

総体的にみて、エビデンスの信頼性は非常に低度であった。結果は慎重に解釈するべきである。含んだ研究のすべてで、研究方法の質について懸念があった。また、培養検査は、検体採取を行う前に抗生物質が投与された場合、比較対象とする標準的基準として適さなくなる可能性が考えられる。

結果は何を意味するのか?

仮に1000人の人口を想定した場合:

- 肺ペストの症状があり、そのうち40人が培養検査で感染が確認された場合、F1RDTを利用することで以下の結果が得られる:318人がF1RDT陽性で、そのうち278人は肺ペストに感染していない(偽陽性)。一方、682人がF1RDT陰性で、そのうち肺ペストに感染している人(偽陰性)はいない。

- 腺ペストの症状があり、そのうち40人が培養検査で感染が確認された場合、F1RDTを利用することで以下の結果が得られる:357人がF1RDT陽性で、そのうち317人は腺ペストに感染していない(偽陽性)。643人がF1RDT陰性で、そのうち腺ペストに感染している人(偽陰性)はいない。

- 腺ペストの症状があり、そのうち40人が分子学的検査で感染が確認された場合、F1RDTを利用することで以下の結果が得られる:105人がF1RDT陽性で、そのうち67人は腺ペストに感染していない(偽陽性)。一方、F1RDT陰性の895人のうち、2人が腺ペストに感染している(偽陰性)。

レビューの結果は誰に適用されるのか?

腺ペストまたは肺ペストが疑われる成人および小児。

このレビューは何を示唆するのか?

F1RDTは、肺ペストや腺ペストに対して高感度であるように思われる。F1RDTは、遠隔地や資源の少ない地域で患者のベッドサイドで実施できる簡単な検査として、早期に管理を行うためのペスト診断や、感染拡大を防ぐための適切な予防対策を支援することができる。

偽陽性の結果(F1RDT陽性でペストに感染していない人)の数を考慮すると、ペストの確定診断をするためにはF1RDTと他の検査室で行う検査項目(培養検査または分子学的検査)とを組み合わせる必要性がある。

F1RDTは培養検査に代わるものではない。なぜなら、培養検査は抗生物質に対する耐性や細菌株に関する追加情報を提供するからである。

このレビューの更新状況

レビューの著者らは2019年5月15日までの研究を検索した。

訳注: 

《実施組織》木下恵里 翻訳、杉山伸子 監訳[2020.07.25]《注意》この日本語訳は、臨床医、疫学研究者などによる翻訳のチェックを受けて公開していますが、訳語の間違いなどお気づきの点がございましたら、コクランジャパンまでご連絡ください。なお、2013年6月からコクラン・ライブラリーのNew review, Updated reviewとも日単位で更新されています。最新版の日本語訳を掲載するよう努めておりますが、タイム・ラグが生じている場合もあります。ご利用に際しては、最新版(英語版)の内容をご確認ください。 《CD013459.pub2》

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