早産児の哺乳を促進するためのミルクのにおいや味への曝露

レビューの論点

早く生まれた(早期産)乳児に、鼻や口から胃に入れたチューブを使ってミルクを与える(経管栄養)際に、ミルク(母乳または人工乳)のにおいを嗅がせたり、味を体験させたりすることについて、臨床研究から得られるエビデンスを検討した。経管栄養中に早産児をミルクの匂いや味を体験させない場合と比較して、どちらの方法が児に悪影響を与えずに、口からの哺乳のみとなるまでに必要な時間を短縮できるかを確認した。

背景

早産児では、必要なミルクを全量口から飲めるようになる(完全経口栄養)まで口や鼻から細いチューブを胃の中に挿入して(経口胃管や経鼻胃管)そのチューブからミルクを注入する経管栄養を用いなければならないことがよくある。最初は少量のミルクしか与えられないが、これは消化吸収の状況や児の状態に応じて徐々に増やしていく。チューブでミルクを与えられている乳児は、ミルクを直接胃の中に入れるため、ミルクの匂いや味を感じないかもしれない。匂いや味は、食べ物の消化吸収を助ける重要な役割を持っている。したがって、乳児にミルクの匂いを嗅がせたり、ミルクの味を試したりすることで、乳児がより早く大量のミルクを摂取できるようになる可能性がある。

研究の特性

2018年6月1日までの検索で、三次医療機関の新生児集中治療室(NICU)に入院した161人の早産児を対象とした3件の完了した研究を特定した。ある研究では、51人の早産児が対象であり、それぞれの乳児がどちらの治療を受けるかを選択する確率が等しくなっていた(ランダム化比較試験)。ある研究では、80人の早産児を対照群と治療群に順次割り付けた(準ランダム化試験)。1つの研究は30人の乳児を対象とした前向きのランダム化試験であったが、レビューの分析に含めるには十分な情報が得られない報告方法だった。

主な結果

口または鼻からの経管栄養でのミルク(母乳)の匂いや味への曝露は、完全経口栄養になるまでの時間に明確な影響を与えないことがわかった。1つの研究では曝露による悪影響はなかったと報告された。また、ミルク(母乳)のにおいや味への曝露は、完全経管栄養までの時間、消化吸収、晩期感染や重度の腸管感染の発生率、静脈内栄養の持続期間、および成長にも明確な影響を与えなかった。非常に質の低いエビデンスであるが、2つの研究から、ミルク(母乳)の匂いや味に曝露された場合、曝露されなかった場合と比較して、4日ほどの入院期間の短縮が示唆された。しかし、含まれている研究は小規模であり、その方法についてはいくつかの限界があった。

結論

早産児の入院期間を短縮するためには、口や鼻から経管栄養をしているうちからミルクの匂いや味に触れることが必要である。しかし、この治療法が早産児の哺乳(経口栄養)を促進する効果は、限られた、非常に質の低いエビデンスのために不確実である。今後の研究では、経管栄養でのミルクの匂いや味への曝露が、完全経口栄養までの時間や、有害作用、経管栄養に到達するまでの時間、消化吸収、感染症の発生率、成長などの重要な臨床転帰に及ぼす影響を調べる必要がある。

訳注: 

《実施組織》 小林絵里子、杉山伸子 翻訳[2020.08.25]《注意》この日本語訳は、臨床医、疫学研究者などによる翻訳のチェックを受けて公開していますが、訳語の間違いなどお気づきの点がございましたら、コクランジャパンまでご連絡ください。なお、2013年6月からコクラン・ライブラリーのNew review, Updated reviewとも日単位で更新されています。最新版の日本語訳を掲載するよう努めておりますが、タイム・ラグが生じている場合もあります。ご利用に際しては、最新版(英語版)の内容をご確認ください。 《CD0013038.pub2》

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