要点
成人の歯周病患者に対し、抗菌的光線力学療法(aPDT)を標準治療に追加することが、標準治療のみと比較して有意に効果的であるかどうかについては、結論が出なかった。
天然歯やインプラント周囲の歯周病とは何か?
歯周病の症状には、歯肉からの出血、歯肉の腫れ、口臭などがある。感染によって歯の周囲の軟組織が損傷し、場合によっては歯を失うこともある。また、インプラント(顎骨に固定された人工の歯)を入れている場合は、インプラント周囲の炎症を患うことがある。
歯周病はどのように治療されているのか?
1日2回のブラッシングと定期的なデンタルフロスの使用、それに加えて、歯科医師による治療が必要な場合がある。標準的な歯周病治療には、感染部位から手用器具や電動器具を使って細菌を除去することが含まれる。また、抗菌薬を服用しなければならない場合もあるが、抗菌薬に対する耐性菌が増えているため、別の治療法が有効な場合もある。
抗菌的光線力学療法(aPDT)とは、光吸収色素(細菌を除去した後、口腔内の患部に塗布される)と光源(通常は低エネルギーのダイオードレーザーが使用される)を組み合わせたものである。
何を調べようとしたのか?
歯周病患者に対して、標準治療にaPDTを追加することが、標準治療単独よりも効果的であるかどうかを明らかにしたかった。また、aPDTを追加した場合の長期的な効果を検討するため、治療後6か月時点の結果について調査を行った。調査項目は、歯周ポケット(歯の周りの溝(歯肉溝)が歯周病によって深くなったもの)の深さ、歯周ポケット測定後の出血、骨と歯の付着、歯肉退縮、治療後に改善した歯周ポケットの数とした。加えて、aPDTを使用した場合の有害事象についても調査した。
何を行ったのか?
成人の天然歯またはインプラント周囲の歯周病を対象とした研究について検索を行った。標準治療後にaPDTを行った場合と、標準治療のみを行った場合とを比較した研究を検索対象とした。歯周病治療をしていなかった参加者を積極的治療(active treatment)群とし、長期にわたって歯周病治療を受けていた参加者を支持的治療(supportive treatment)群としてそれぞれの結果を比較し、要約を行った。研究方法や研究規模などの要因に基づいてエビデンスに対する信頼性を評価した。
何を見つけたのか?
合計1,407人の成人が参加した50件の研究が見つかった。ほとんどの研究で、aPDTは単回で行われていたが、11件の研究では、複数回(2回、3回および4回)行われていた。また、ほとんどの研究では、非喫煙者が対象となっていた。調査の6か月前までに抗菌薬を服用していた参加者はいなかった。1件の小規模な研究では、インプラント周囲に腫脹が認められた参加者が対象とされていた。その他の研究はすべて、天然歯に歯周病を持つ参加者が対象となっていた。
主な結果
歯周病治療後6か月時点の積極的治療群において、aPDTの追加が標準治療のみと比較して有意に効果があったかどうかは不明であった。評価項目には、歯周ポケットの深さの変化、出血、歯の骨との付着、歯肉退縮が含まれた。
また、歯周病治療後6か月時点の支持的治療群における評価項目に関する知見ついては、非常に不確実であった。
ある研究では、1人の参加者に1か所の膿瘍(歯肉の腫れ)が見られたが、これがaPDTと関係しているかどうかは不明であった。他の研究では、aPDTによる有害事象は認められなかった。治療後6か月の時点において歯周ポケットの改善を報告した研究はなかった。
エビデンスの限界は何か?
いくつかの研究の実施方法は適切ではなかった可能性があり、また、参加者はごく少数であったため、エビデンスの信頼性は低い。また、研究結果の多くに相違が見られたが、これらに対する説明がつかなかった。
本エビデンスはいつのものか?
2024年2月14日時点におけるエビデンスである。
《実施組織》小泉悠、杉山伸子 翻訳[2024.09.10]《注意》この日本語訳は、臨床医、疫学研究者などによる翻訳のチェックを受けて公開していますが、訳語の間違いなどお気づきの点がございましたら、コクランジャパンまでご連絡ください。なお、2013年6月からコクラン・ライブラリーのNew review, Updated reviewとも日単位で更新されています。最新版の日本語訳を掲載するよう努めておりますが、タイム・ラグが生じている場合もあります。ご利用に際しては、最新版(英語版)の内容をご確認ください。 《CD011778.pub2》