急性麦粒腫(ものもらい)に対する鍼治療

本レビューの目的は何ですか。本コクランレビューの目的は、急性麦粒腫(ものもらい)を治療するために用いられる鍼治療の利益と有害性を、従来の治療法と比較することである。

主要なメッセージ鍼治療(単独、または従来の治療との併用のいずれか)は、麦粒腫を軽快させる可能性を高めるかもしれない(確実性の低いエビデンス)。有害な作用に関する情報が不足している。鍼治療が本当に有益な治療であるとするのであれば、長い追跡期間で、より多様な研究集団における研究が必要である。

本レビューで何を研究したか。ものもらいの医学用語である麦粒腫。これは、眼瞼の内側または外側にできる、小さな痛みを伴うしこりまたは膿瘍である。大抵は、麦粒腫は一週間程度で自然に消える。しかし、重篤な麦粒腫は、近くの組織や腺に感染することがある。この感染症は重篤なまぶたの症状を引き起こす可能性がある。

麦粒腫に対する一般的な治療は、自宅での温湿布貼付、利用可能な市販の局所薬および洗浄綿、抗菌薬またはステロイド、瞼マッサージ、他の治療が含まれる。東アジア諸国では、鍼治療は、単独またはこれら従来の治療と併用して、麦粒腫の治療に用いられる。伝統的な中国の鍼治療の哲学によると、エネルギーが体中の「経絡」を循環している。経絡エネルギーの循環が病原性の要因によって阻害されると、痛みや病気が発生する。健康を回復する方法は、体の適切な経穴を刺激するために細い鍼を使用することである。本レビューの目的は、急性麦粒腫に最も適した治療法を明らかにするために鍼治療と無治療、偽鍼治療、または従来の治療とを比較することであった。

本レビューの主な結果は何ですか。私たちは、計531例を含む、中国の6件の研究を見つけた。追跡期間は、治療後7日以内であった。3件の研究は、鍼治療とさまざまな従来の治療とを比較し、3件の研究は、鍼治療+従来の治療と、従来の治療単独とを比較した。

レビューは以下の事を示した。

鍼治療は、抗菌薬や温湿布を使用した場合と比較して、麦粒腫を軽快させる可能性を高めるかもしれない(確実性の低いエビデンス)。鍼治療と抗菌薬や温湿布の併用は、抗菌薬や温湿布と比較して、麦粒腫を軽快させる可能性をわずかに高めるかもしれない(確実性の低いエビデンス)。麦粒腫の鍼治療に有害な作用があるかどうかは不明確である。

本レビューはどれくらい最新のものなのか。コクラン研究者は、2016年6月7日までに発表された研究を検索した。

著者の結論: 

確実性の低いエビデンスは、従来の治療との併用の有無にかかわらず、鍼治療は、従来の治療法単独と比較して、急性麦粒腫の治療に短期的な利益がある可能性を示唆した。主にサンプルサイズが小さい、不適切な割りつけの隠蔽化、アウトカム評価者の盲検化がされない、不十分または不明のランダム化方法、および脱落者が多い、または脱落者の未報告、などの理由で、エビデンスの確実性は、低いまたは非常に低かった。すべてのRCTは中国で行われ、非中国人集団への一般化可能性を制限するであろう。

どのRCTも有効な偽鍼治療の対照群を設定していないため、我々は鍼治療に関連する潜在的な期待効果およびプラセボ効果を排除することができない。軽快は、臨床的観察に基づいているため、アウトカムは割り当てられた治療の観察者の知識によって影響を受ける可能性があった。対象としたRCTにおいて、鍼治療の有害な作用がわずかに報告されていたが、有害な作用はほとんどなかった。より良い方法、長めの追跡期間、また他集団で行われるRCTであれば、急性麦粒腫を治療する鍼治療の利益について、より一般的なエビデンスが保証される。

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背景: 

麦粒腫は通常、眼瞼の脂腺の開口部が閉塞することによって引き起こされる眼瞼縁の急性化膿性炎症である。眼瞼脂腺の内部または外部に病変が発現することが多い。瞼板のマイボーム腺が患部となる場合、内麦粒腫が発生し、一方、睫毛包に関連するツァイス腺またはモル腺が患部となる場合、外麦粒腫またはものもらいが発生する。麦粒腫の発症は通常自己治癒性で、膿瘍が自然と流出し、おそらく一週間程度で軽快する。症状が重篤の場合は、隣接する腺や組織に広がる可能性もある。再発は非常に多い。内麦粒腫が軽快していないままであると、霰粒腫や一般的な眼窩蜂窩織炎を発症する可能性がある。鍼治療は、細い鍼を用いて身体上の特定の経穴を刺激することによって、疾患を治療することを目的とした伝統的な中医学の治療法である。しかし、鍼治療は、急性麦粒腫に対して有効かつ安全な治療法かどうかは不明である。

目的: 

本レビューの目的は、無治療、偽鍼治療、または他の治療と比較して、急性麦粒腫の治療に鍼治療の有効性と安全性を調査することである。我々はまた、鍼治療+他の治療、または他の治療単独の有効性と安全性を比較した。

検索戦略: 

我々は、CENTRAL, Ovid MEDLINE、Ovid MEDLINE In-Process and Other Non-Indexed Citations、Ovid MEDLINE Daily、Ovid OLDMEDLINE、Embase、 PubMed、Latin American and Caribbean Health Sciences Literature Database (LILACS)、中国の三大データベース、臨床試験登録を、すべて2016年6月7日まで検索した。我々は、その後追加されたランダム化臨床試験(RCT)を同定するために、適格な研究から参考文献リストをレビューした。

選択基準: 

我々は、急性の内麦粒腫または外麦粒腫と診断された人のRCTを対象とした。我々は、RCTで鍼治療と、偽鍼治療または無治療、その他の治療を比較した試験、または鍼治療+他の治療と他の治療単独を比較したRCTを対象とした。

データ収集と分析: 

我々は、コクランで用いる標準化された方法論的手順を使用した。

主な結果: 

我々は中国の参加者計531名を含む6件のRCTを対象とした。参加者の平均年齢は18〜28歳の範囲であった。4件のRCTは、初期の急性麦粒腫と診断されて7日未満の期間の参加者を対象とした。1件のRCTは、期間を指定せずに初期の急性麦粒腫と診断された参加者を対象とした。1件のRCTは平均期間24日の再発急性麦粒腫の参加者を対象とした。参加者の約55%(291/531)が女性であった。3件のRCTは、外麦粒腫、内麦粒腫のいずれか麦粒腫の参加者を対象とし、1件のRCTは、外麦粒腫のみの参加者、そして2件のRCTは麦粒腫のタイプを明記していなかった。追跡調査は、対象としたすべてのRCTで、治療後7日以内で、長期アウトカムのデータはなかった。全体的に、すべてのアウトカムにおけるエビデンスの確実性は低いまたは非常に低く、我々はすべてのRCTのバイアスのリスクは高いまたは不明であると判断した。

3件のRCTは、鍼治療と従来の治療とを比較した。従来の治療は試験間で類似していなかったため、我々は、これらのRCTのデータを統合しなかった。2件の試験は、鍼治療群が、局所抗菌薬と比較して(1件のRCT 、参加者32名、リスク比(RR)3.60、95%信頼区間(CI)1.34〜9.70、確実性の低いエビデンス)または経口抗菌薬+温湿布と比較して(1 件のRCT、参加者120名、RR 1.45、95%CI 1.18〜1.78、確実性の低いエビデンス)、急性麦粒腫をより軽快することを示した。3番目の鍼治療は、局所抗菌薬+温湿布と比較して、鍼治療は麦粒腫の軽快にほとんど、または全く差が認められなかった(1件のRCT、参加者109名、RR 1.00、95%CI 0.96〜1.04、確実性の低いエビデンス)。1件のRCTが、鍼治療に関連する有害事象は認められなかったと、有害アウトカムに言及した。

3件のRCTが、鍼治療+従来の治療(2件のRCTが局所抗菌薬および温湿布を使用し、1 件のRCTは、局所抗菌薬のみを使用)と従来の治療単独とを比較した。3件のうち1件のRCTは、非常に確実性の低いエビデンスで、急性麦粒腫の軽快を報告しなかった。しかし、鍼治療と従来の治療法を併用した場合、従来の治療単独群と比較して、急性麦粒腫の軽快率が高い可能性があった。(参加者60名、 RR 1.80、95%CI 1.00〜3.23)。残り2件のRCTのプールされた解析は、確実性の低いエビデンスで、追跡調査7日の時点で、急性麦粒腫の推定される軽快率は、従来の治療単独群と比較して、併用治療群がわずかに高かった(参加者210名、RR 1.12、95%CI 1.03〜1.23、I2 = 0%)。3件のRCTはいずれも有害アウトカムを報告しなかった。対象としたRCTの中で、4名の参加者(鍼治療+従来の治療群の2名、および従来の治療単独群の2名)は、症状が悪化したため中止した。

訳注: 

《実施組織》厚生労働省「「統合医療」に係る情報発信等推進事業」(eJIM:http://www.ejim.ncgg.go.jp/)[2018.3.14]
《注意》この日本語訳は、臨床医、疫学研究者などによる翻訳のチェックを受けて公開していますが、訳語の間違いなどお気づきの点がございましたら、eJIM事務局までご連絡ください。なお、2013年6月からコクラン・ライブラリーのNew review, Updated reviewとも日単位で更新されています。eJIMでは最新版の日本語訳を掲載するよう努めておりますが、タイム・ラグが生じている場合もあります。ご利用に際しては、最新版(英語版)の内容をご確認ください。 
CD011075 Pub2

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