アルツハイマー病の睡眠障害に対する薬

認知症に伴う睡眠障害では、どのような困難さがあるのか?

認知症患者はたびたび睡眠障害を患う。睡眠障害には、夜間の睡眠時間の減少、中途覚醒、夜間徘徊、早期覚醒、日中の過度の睡眠が含まれる。

これらの行動は介護者に多くのストレスを引き起こし、認知症患者に対する介護施設(老人ホーム)への早期入所に関連する可能性がある。これらの行動は、介護職員にとって十分管理することが困難である恐れもある。

薬は役立つのか?

薬による治療は多くの場合、認知症患者の睡眠改善を試みるために使用される。睡眠障害の原因は認知症に起因する脳の変化である可能性もあるため、通常の睡眠薬が認知症患者へ効果があるのかどうかについては明らかではない。更に、薬が顕著な副作用(有害性)を引き起こす懸念がある。

このレビューの目的

この更新されたコクランレビューでは、認知症患者における睡眠障害治療に使用されるあらゆる薬の有益性および高い頻度で認められる有害性の確認を試みた。

このレビューの所見

認知症患者における睡眠障害の治療に用いられたあらゆる薬を偽薬(プラセボ)と比較したすべてのランダム化比較試験について、2016年3月までの医学文献を検索した。3種の薬を検討した6件の試験(参加者326人)を確認した:メラトニン(4件)、トラゾドン(1件)およびラメルテオン(1件)。ラメルテオン試験と1件のメラトニン試験は、企業から資金が提供され、他の試験は企業以外の資金源であった。ラメルテオン試験では限られた情報しか入手できず、それは試験依頼者(スポンサー)からの情報であった。全体的に、エビデンスの質は低度であり、今後の研究が結果に影響を与える可能性が高いと考えられる。

メラトニン試験およびトラゾドンの試験の参加者は中程度から重症の認知症があり、ラメルテオン試験の参加者は軽度から中程度の認知症があった。

4件のメラトニン試験では参加者計222人を対象とした。今回見つかったエビデンスから、アルツハイマー病による認知症患者にメラトニンを投与しても睡眠が改善されなかったことは、中程度の確信を持つことができた。重篤な有害性の報告はなかった。

トラゾドン試験では30人を対象とした。試験はあまりにも小規模であったため、結果に対する確信は限られていた。低用量の抗うつ鎮静剤のトラゾドン50 mgを2週間にわたり夜に投与したところ、毎晩の合計睡眠時間が平均43分増大したことがわかった。この薬は睡眠効率 (ベッドで眠っている時間の割合)を改善したが、睡眠後の覚醒時間、もしくは夜間に起きた回数に対する効果はなかった。重篤な有害性の報告はなかった。

ラメルテオン試験は参加者74人を対象とした。入手可能な限られた情報ではラメルテオンがプラセボより優れているというエビデンスは得られなかった。ラメルテオンにより引き起こされる重篤な有害性はなかった。

これらの試験では、生活の質(クオリティー・オブ・ライフ)および介護者への影響など、私たちが興味を持った幾つかの治療結果(アウトカム)についての報告はなかった。

このレビューの不十分な点

認知症患者に一般的に処方される他の睡眠薬に関する試験を検索したが、確認することができなかった。 睡眠障害は他の認知症でもよく見られるが、参加者全員がアルツハイマー病による認知症であった。

認知症における睡眠障害に対する薬の判断の指針となるエビデンスは非常にわずかであるという結論に達した。使用するすべての薬について、それぞれの患者においてどの程度効果があるか、そして危険性および副作用について注意深い評価とともに慎重に使用されるべきである。臨床の現場で有用な情報を提供するためには更に多くの試験が必要であり、特に認知症における睡眠障害によく用いられる薬について検討した試験が求められている。試験には副作用の注意深い評価を含めることが重要である。

訳注: 

《実施組織》冨成麻帆、木下恵里 翻訳[2020.08.06] 《注意》この日本語訳は、臨床医、疫学研究者などによる翻訳のチェックを受けて公開していますが、訳語の間違いなどお気づきの点がございましたら、コクランジャパンまでご連絡ください。なお、2013年6月からコクラン・ライブラリーのNew review, Updated reviewとも日単位で更新されています。最新版の日本語訳を掲載するよう努めておりますが、タイム・ラグが生じている場合もあります。ご利用に際しては、最新版(英語版)の内容をご確認ください。 《CD009178.pub3》

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