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コカイン依存症治療薬としてのジスルフィラム

要点

- コカイン依存症のある人において、ジスルフィラムはプラセボと比較して、治療終了時に断薬している人の数を増加させる可能性がある。しかし、コカインの使用頻度と使用量、および治療終了時に、断薬を達成し少なくとも3週間維持した人の数にはほとんどあるいは全く影響を及ぼさない可能性がある。ジスルフィラムがコカイン依存症のある人に好ましくない影響を及ぼすかどうかは不明である。

- コカイン依存症のある人では、ジスルフィラムはナルトレキソンと比較してコカインの使用頻度を減少させるが、コカインの使用量にはほとんどあるいは全く影響を及ぼさない可能性がある。

- レビューに含まれた13件の研究のうち、11件は米国で実施されたものであった。さらに、研究に参加した人のほとんどが男性だった。治療効果は社会環境、民族性、性別に強く影響される可能性があるため、今回の結果は他の状況では適用できないかもしれない。

コカイン依存症とは何か?

コカインは世界中で最もよく使われている精神刺激薬の1つである。精神刺激薬とは、神経系を刺激し、気分を高める作用のある薬物や違法薬物のことである。最新の推計では、成人の0.4%以上が過去1年間に少なくとも1回はコカインを使用したことがある。

コカインの使用は、感染症(エイズ、肝炎、結核など)の蔓延、犯罪、暴力、妊娠中の薬物曝露など、医学的、心理学的、社会的問題と関連している。コカインの使用は、リスクの高い注射や性行為を通じてHIV感染のリスクを高める可能性がある。

コカイン依存症は、コカインを使用したいという強い欲求と、コカインの使用をコントロールできないことを特徴とする深刻な精神障害であり、人は意図したよりも大量に使用してしまう。

コカイン依存症の治療法は?

コカイン依存症は通常、心理社会的治療で治療されるが、有効な薬物療法はない。ジスルフィラムという薬がコカイン依存症に効くかどうかを評価した研究があり、ジスルフィラムは現在、アルコール依存症の治療に用いられている。アルコールを飲むと、ジスルフィラムは不快な身体反応を引き起こす。

知りたかったこと

ジスルフィラムがコカイン依存症のある人のコカイン使用を減らしたり、コカインの使用を完全に止めたりするのに役立つかどうかを調べたかった。また、コカイン依存症のある人にとってジスルフィラムによる治療が受け入れられ、安全かどうかも知りたかった。

実施したこと

ジスルフィラムと治療なし、プラセボ(ダミー治療)、他の薬とを比較したランダム化比較試験(2種類以上の治療群のいずれかに無作為に割り付けた)を徹底的に検索した。

結果を比較・要約し、各試験の方法や結果の精度などの要素に基づいて、エビデンスに対する信頼度を評価した。

わかったこと

コカイン依存症のある人1,191人が参加した13件の研究が見つかった。平均治療期間は約3か月であった。12件の研究ではジスルフィラムとプラセボまたは薬物治療なしを比較し、3件の研究ではジスルフィラムとナルトレキソン(アルコール依存症やオピオイド依存症の治療に用いられる薬)を比較した。

主な結果

ジスルフィラムはプラセボと比較して、治療終了時にコカインを使用していない人の数を増加させる可能性があるが、コカインの使用頻度(治療終了時にコカインを使用していた日数または週数)、コカインの使用量(治療終了時に使用していたコカインの重量またはコカインに費やしていた金額)、少なくとも3週間の断薬を達成および維持した人の数、治療を早期に中断した人の数にはほとんど影響を及ぼさない可能性がある。ジスルフィラムがコカイン依存症のある人に好ましくない影響を及ぼすかどうかは不明である。

ジスルフィラムはナルトレキソンと比較して、コカインの使用頻度を減少させるかもしれないが、コカインの使用量や治療を早期に中断する人の数にはほとんどまたは全く影響しないかもしれない。

エビデンスの限界

ほとんどの研究が研究過程を詳細に記述していないため、各研究が人々を適切にグループに割り付けたかどうかは不明である。

研究参加者の特徴は多岐にわたり、他の薬物依存症を併せ持つ人、他の医薬品を使用している人、他の心理社会的治療を受けている人がいた。

さらに、研究に参加した人のほとんどが男性であり、13件の研究のうち11件が米国で行われたものであった。したがって、この結果は女性や他の国に住む人々には当てはまらないかもしれない。

本エビデンスの更新状況

このレビューは前回のレビューを更新したものである。本エビデンスは2022年8月現在のものである。

訳注

《実施組織》 阪野正大、伊東真沙美 翻訳[2024.08.27]《注意》この日本語訳は、臨床医、疫学研究者などによる翻訳のチェックを受けて公開していますが、訳語の間違いなどお気づきの点がございましたら、コクランジャパンまでご連絡ください。なお、2013年6月からコクラン・ライブラリーのNew review, Updated reviewとも日単位で更新されています。最新版の日本語訳を掲載するよう努めておりますが、タイム・ラグが生じている場合もあります。ご利用に際しては、最新版(英語版)の内容をご確認ください。 《CD007024.pub3》

Citation
Traccis F, Minozzi S, Trogu E, Vacca R, Vecchi S, Pani PP, Agabio R. Disulfiram for the treatment of cocaine dependence. Cochrane Database of Systematic Reviews 2024, Issue 1. Art. No.: CD007024. DOI: 10.1002/14651858.CD007024.pub3.