人工心肺 (心臓と肺の役割をする機械) の使用にかかわらず、心臓手術を受けた成人に対する硬膜外麻酔

レビューの論点

心臓手術を受けた成人の、心臓手術後の死亡者数および心臓・肺・神経の合併症のリスクに対する硬膜外麻酔の効果を、ランダム化比較試験から明らかにすることを目的とした。

本レビューは2013年に初版を発表し、2019年に今回の更新を行った。

背景

硬膜外麻酔は鎮痛のために局所麻酔薬、オピオイド(訳注:医療用麻薬)、または両者の混合物を、硬膜外腔(神経束を取り囲む膜のすぐ外側の空間)にカテーテルを通して投与する。硬膜外麻酔は、肺炎を含む肺感染症、呼吸困難(呼吸不全)、心筋梗塞、心房細動による不整脈など、手術後の合併症のリスクを軽減する可能性がある。心臓手術においては血液を固まりにくく(さらさらに)しなければならず、脊髄周辺で出血を起こす危険性が高くなる可能性が懸念される。血液の塊は、脊髄を圧迫して永久的な神経障害や障害を引き起こす可能性がある。

研究の特性

我々は、人工心肺の有無にかかわらず、全身麻酔下であらゆるタイプの心臓外科手術を受けている成人を対象としたランダム化比較試験を網羅し、硬膜外麻酔を他の鎮痛法と比較した。手術には冠動脈バイパス手術や弁膜症手術、先天性心疾患の手術が含まれていた。参加者の平均年齢は43~75歳の範囲であった。術後1年までのアウトカムが評価された。

4860例の参加者を対象とした69件の研究を選択した。資金源について述べられていた研究では、政府からが5件、慈善団体からが8件、大学機関からが23件、一部を企業からが2件であった。31件の研究では資金源について言及されていなかった。エビデンスは、2018年11月現在のものである。

主な結果

硬膜外麻酔と全身的な鎮痛(例:鎮痛薬の静脈投与)を比較したところ、手術後最初の30日間の死亡者数に差は認められなかった(38件の研究、3418人の参加者)。心臓発作を経験している人数に差がある可能性があった(26件の研究、2713名の参加者)。これらの知見についてエビデンスの質は低かった。硬膜外麻酔により呼吸抑制のリスクはわずかに低下したが(21試験、1736人)、肺炎のリスクは低下しなかった(10試験、1107人)(低または中等度のエビデンス)。心臓外科手術で人工心肺が必要な場合には、呼吸抑制のリスクの低下がより顕著であった。硬膜外麻酔は、術後0~2週間の回復初期に心房細動または心房粗動のリスクを減少させた(18件の研究、2431人が参加;中等度のエビデンス)。脳血管疾患の数に明確な差はなく(18試験、参加者数2232人)、持続的な神経学的合併症や硬膜外血腫は報告されていない(53試験、参加者数3982人、非常に低度または低度のエビデンス)。硬膜外麻酔が気管挿管の持続時間を短縮した可能性はあるが、これは主に古い研究で指摘された結果であり、その頃から実臨床は変化している(40試験、参加者数3353人、中程度の質のエビデンス)。

硬膜外麻酔と体表への局所麻酔、つまり、末梢神経ブロック、肺の周りの空間への直接的な鎮痛(胸腔内鎮痛)と手術創部への浸潤麻酔を比較した研究は6件のみであった。これらの研究のエビデンスは低度または非常に低度のであり、本レビューのアウトカムの多くは報告されていなかった。心臓発作も硬膜外血腫も報告されていなかった。

エビデンスの質

エビデンスの質は中等度、低度、非常に低度であると評価した。これらのレビューには参加者が少なすぎて、硬膜外麻酔と全身的な鎮痛の間の患者死亡数の違いについても、硬膜外血腫の増加についても確認できなかった。

訳注: 

《実施組織》内藤未帆 翻訳、大須賀明里 監訳[2020.4.21]
《注意》この日本語訳は、臨床医、疫学研究者などによる翻訳のチェックを受けて公開していますが、訳語の間違いなどお気づきの点がございましたら、コクランジャパンまでご連絡ください。なお、2013年6月からコクラン・ライブラリーのNew review, Updated reviewとも日単位で更新されています。最新版の日本語訳を掲載するよう努めておりますが、タイム・ラグが生じている場合もあります。ご利用に際しては、最新版(英語版)の内容をご確認ください。 
《CD006715.pub3》

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