小児の急性呼吸器感染症の予防と治療における経口ホメオパシー薬の利点とリスクは何か?

要点

ホメオパシーは、補完代替医療の一種である。これは、健康な人に病気や症状を引き起こす可能性のある物質が、ごく少量であれば、病気や症状を治療できるということ、そして、高度に希釈された物質の分子は、元の物質の記憶を保持しているという2つの主要な考え方に基づいている。明確なエビデンスが存在しないために、小児の急性呼吸器感染症(ARTI)の予防と治療に対する経口ホメオパシー薬の利点とリスクは、未だ不明である。研究デザインや報告の質が低い研究においては、しばしば経口ホメオパシー薬の有益性の可能性が示唆されているが、質の高い研究においては有益性を示す報告はない。

呼吸器感染症とは何か?

風邪やインフルエンザに代表される呼吸器感染症は、一般的にウイルスの感染によって引き起こされるが、肺や耳においては細菌の感染によって引き起こされるものも存在する。これらの感染症は同時に発症することもあり、見分けるのが困難な場合がある。これらの感染症の多くは、治療を行わなくても改善するが、最初の感染が治まった後にも症状が続くことがある。そのため、治療は症状の緩和が目的となる。

なぜ小児における呼吸器感染症が重要なのか?

小児は、年間で平均3回から6回の呼吸器感染症にかかる。ほとんどは軽症で、治療が可能だが、急性(症状が重く、急に、または突然発症する)呼吸器感染症により、病院での治療が必要になる場合もある。ただし、死亡することは非常にまれである。

ARTIはどのように治療されるのか?

ウイルスに効果がないにもかかわらず、ARTIに対してしばしば経口(口で溶かしたり、口から飲み込むこと。錠剤、ピル、トローチ、液体などの形状がある)抗菌剤が処方されている。ホメオパシー薬は、少ない副作用でARTIを治療できる可能性があるが、その有効性と安全性は十分に研究されていない。

何が知りたかったのか?

ホメオパシー薬が小児のARTIに対し有効かどうか知りたいと考えた。そのために、ホメオパシー薬と、プラセボ(薬の成分を含まないが、見た目や味が試験薬と同じ「偽」の薬)、またはARTIに対する通常の治療方法と比較した場合の効果について知りたかった。

また、感染症の重症度や症状の改善、抗菌剤の必要性、罹病期間(小児の休学期間や保護者の休職期間に影響を及ぼす)、あるいは症状の再発に対するホメオパシー薬の効果と、その有害作用についても知りたいと考えた。

何を行ったのか?

16歳までの参加者のARTIの予防や治療において、プラセボや通常のARTIの治療方法と比較し、経口ホメオパシー薬が有効かどうかを調査したランダム化比較試験(参加者を2つ以上の集団の内の1つにランダムに割り当てて行う研究方法)を検索した。研究結果を比較、要約し、研究方法や参加者数などの要因から、エビデンスに対する信頼性を評価した。

何が見つかったのか?

計1,813人の小児を対象とした11件の研究(ARTIの予防に関する研究が5件、ARTIの治療に関する研究が6件)が見つかった。すべての研究で、上気道(鼻から気管まで)における感染が調査されていたが、1件の研究では上気道と下気道(気管から肺、胸膜(肺を覆う膜)まで)における感染が合わせて報告されていたため、上気道、下気道それぞれにおけるARTI患者数は不明であった。

主な結果

小児のARTIの治療または予防において、ホメオパシー薬は、教育を受けたホメオパス(ホメオパシーの専門家)による個別指導が行われた場合、または標準的な商業的ホメオパシー療法が用いられた場合の両者において、ほとんど、または全く有益な効果を示さなかった(計1,813人の参加者を対象とした11件の研究より)。

研究結果を統合して解析した結果からは、短期的な治癒または長期的な治癒については、対象群間でほとんど差がみられなかった(計155人の参加者を対象とした2件の研究より)が、そのエビデンスは非常に不確実である。ARTIの予防効果については、対象群間の差はほとんど、または全くない可能性がある(計735人の参加者を対象とした3件の研究より)。

保護者の休職期間、抗菌剤の使用、または有害事象について、ホメオパシー使用群とプラセボ使用群との間に明確な差は認められなかった。また、有害事象に関するデータが少なかったため、ホメオパシー薬の安全性については不明であった。全体として、本レビューの結果は、小児のARTIに対してホメオパシー薬を使用することを支持するものではない。

エビデンスの限界は何か?

研究対象とされた参加者が少なく、さまざまなARTIに対して異なる種類のホメオパシー薬が使用されており、加えて多くのバイアスが含まれ、重要な転帰に関する情報が報告されていなかったため、得られたエビデンス対する信頼性はほとんどない。さらなる研究により、本レビューの結果とは異なる結果が得られる可能性がある。

このエビデンスはいつのものか?

2022年3月16日時点のエビデンスである。

訳注: 

《実施組織》小泉悠、小林絵里子 翻訳[2023.02.12]《注意》この日本語訳は、臨床医、疫学研究者などによる翻訳のチェックを受けて公開していますが、訳語の間違いなどお気づきの点がございましたら、コクランジャパンまでご連絡ください。なお、2013年6月からコクラン・ライブラリーのNew review, Updated reviewとも日単位で更新されています。最新版の日本語訳を掲載するよう努めておりますが、タイム・ラグが生じている場合もあります。ご利用に際しては、最新版(英語版)の内容をご確認ください。 《CD005974.pub6》

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