重度精神疾患を持つ人々のための事前治療指示

事前治療指示とは、自身の治療について決めるための精神的能力を失った時のために、治療に対する希望を明記した文書のことである。これは伝統的に終末期医療で治療を指定するために使われてきた。しかし、メンタルヘルスの問題を持つ人々も、治療の意思決定ができない期間を経験する可能性がある。適切な薬を選んだり、誰に子供たちの世話をして欲しいか伝えたり、その他の生活や治療に関する選択をするのに、事前に文書で述べておくことが役に立つかもしれない。

このレビューでは、事前指示が入院(自発および非自発)の減少や、メンタルヘルスサービスとの接触の減少につながるかどうか、また患者の全体的機能を改善させるかどうかについて調べた。合計で321人が参加した2つの研究が見つかった。どちらもイングランドで行われていた。1研究では当事者が精神科医、ケアコーディネーター、プロジェクトワーカーと協力してジョイント・クライシス・プランを作成した(高強度の介入)のに対し、もう1つの研究では、当事者は「ケアの希望」と呼ばれる小冊子の中身を埋めることを求められた(低強度の介入)。どちらの研究も、介入をその地域での通常のケアと比較していた。

2研究の介入はかなり異なっている上、2研究が全く同じアウトカムを測定したわけではなかったため、研究結果を比較することは非常に難しい。小冊子に記入した人々では、入院(自発または非自発)および外来サービスへの接触は通常のケアと比べて減少しなかった。高強度の介入を行った人々では、自発的入院においては通常のケアと差が無かったが、非自発的入院および精神保健法の下での診察は、比較的起こりにくかった。また、暴力的になることも少なかった。精神科外来サービスの利用については差が無かった。これらは小規模な研究であり、さらなる研究が必要であるが、事前治療指示の利用は地域での治療において一つの選択肢となり得ることが示唆された。

(このレビューの平易な要約は Janey Antoniou of RETHINK, UK www.rethink.orgが作成した)

訳注: 

《実施組織》翻訳 五十嵐百花 監訳 佐藤さやか [2020.6.10] 《注意》この日本語訳は、臨床医、疫学研究者などによる翻訳のチェックを受けて公開していますが、訳語の間違いなどお気づきの点がございましたら、国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所地域・司法精神医療研究部(以下、NCNP精研地域部;cochranereview.ncnpcmhl@gmail.com)までご連絡ください。なお、2013年6月からコクラン・ライブラリーのNew review, Updated reviewとも日単位で更新されています。NCNP精研地域部では最新版の日本語訳を掲載するよう努めておりますが、タイム・ラグが生じている場合もあります。ご利用に際しては、最新版(英語版)の内容をご確認ください。 《CD005963.pub2》

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