認知刺激プログラムが、軽度~中等度認知症患者の認知機能に薬剤の効果を上回る効果をもたらすという一貫したエビデンスが多数の試験から得られた。しかし、試験は質にばらつきがあり、サンプル・サイズも少なく、多くの試験では、ランダム化の詳細が限定的にしか明らかにされなかった。その他のアウトカムはさらに探索する必要があるが、患者からの自己報告によるクオリティオブライフや幸福感の改善は有望であった。今後の研究では、より長期の認知刺激プログラムがもたらす可能性のある効果や、その臨床的意義について検討すべきである。
認知刺激とは、認知症患者に対する介入法の一つで、通常、数人のグループのようなある社会環境のなかで思考、集中力、記憶に対し全般的な刺激を与える様々な楽しめる活動を提供する。そのルーツは、米国内の病棟で高齢患者の錯乱や失見当識への対応として1950年代後半に考案された現実見当識訓練(Reality Orientation, RO)に遡る。ROは、望ましい治療過程において看護助手の関与を強調していたが、認知症患者に対する厳格で対立的なアプローチを連想させるようになったため、次第に使用されなくなってきた。 認知刺激は、しばしば認知症のみならず通常の加齢においても議論される。これには、認知活動の不足が認知機能低下を加速させるという一般的な見解が反映されている。認知症患者に認知刺激を行う際、その刺激が慎重かつ尊厳を保ち、患者本位の方法で実践されるよう留意しつつ、ROの肯定的な面を活用しようと試みる。 認知症介護において、心理療法の適用や有効性について見解の一致が得られていない場合が再三あるため、認知刺激に関して得られたエビデンスのシステマティック・レビューは、その有効性を特定し、信頼できるエビデンスに基づいて実践的な推奨を示すのに重要である。
認知症患者の認知機能改善を目的とする認知刺激介入の有効性と影響を、悪影響も含めて評価する。
試験は、ALOISと呼ばれるCochrane Dementia and Cognitive Improvement Group Specialized Registerを検索して特定した(2011年12月6日更新)。以下の検索語を使用した:cognitive stimulation、reality orientation、memory therapy、memory groups、 memory support、memory stimulation、global stimulation、 cognitive psychostimulation。その検索が最新で、包括的なものになるように、各種主要保健医療データベースおよび試験登録で補足的な検索を行った。
認知症に認知刺激を用い、認知機能変化の指標を組み込んだ、すべてのランダム化比較試験(RCT)を対象とした。
データの抽出は、2名のレビューアが予め検証したデータ抽出形式を使用して個別に行った。論文で提示されていないデータに関しては、著者らにコンタクトを取った。対象とした試験におけるリスクバイアスは、2名のレビューアが個別に評価した。
本レビューでは、15件のRCTを対象とした。そのうち6件は、ROに関する前回レビューの対象でもあった。対象とした試験は、被験者背景が多様で、介入の期間や程度が異なり、実施された国も様々であった。現行の基準からすると、試験の質は概して低かったが、ほとんどの試験で治療割付けについては評価者への盲検化がなされていた。被験者718例(認知刺激群407例、対照群311例)のデータがメタアナリシスに組み込まれていた。一次解析は、治療期間終了直後に明らかになった変化に関するものであった。何らかの効果が以後も維持されたかどうかの評価を可能にするデータを提示した試験がいくつかあった。認知刺激と関連した明らかで一貫性のある効果が認知機能に対して認められた。[標準化平均差(SMD)0.41、95% CI 0.25-0.57]。これは、治療終了1~3ヵ月後のフォローアップ時でも顕著であった。もっと少ない総サンプル・サイズでの二次解析によれば、患者の自己報告されたクオリティオブライフと幸福感[標準化平均差:0.38(95% CI:0.11、0.65)]や、コミュニケーションと社会的交流に関するスタッフの評価にも効果が認められた(SMD 0.44、95% CI 0.17-0.71)。気分(患者からの自己報告またはスタッフの評価による)、日常生活動作、全般的行動機能、問題行動に関して差はなかった。家族介護者のアウトカムを報告したいくつかの試験では(アウトカムに)差は認められなかった。重要なことに、家族介護者に介入の訓練を施したある試験では、家族介護者への負担増大が示唆されなかった。