レビューの論点
放射線療法と高圧酸素療法(hyperbaric oxygen :HBO)の併用を、放射線療法単独または死亡率と癌の転移を抑えるための別の治療法と放射線療法の併用と比較したとき、固形癌患者に対して前者によって死亡率と癌の転移が低下するかどうかを論点とした。
背景
浸潤癌(他の部位に広がりやすい癌)は大きな健康問題のひとつであり、それによって毎年、何百万という人が死に至っている。固形癌の多くが酸素濃度の低いもの(低酸素性)である。それは、放射線治療の作用に抵抗性があることを意味する。このため、高圧酸素呼吸療法によって腫瘍内の酸素濃度を上昇させれば、放射線治療の効果を高めることができるのではないかと示唆されてきた。
試験の特性
ランダム化比較試験19件、対象者計2,286例を組み入れた。HBO群では、治療1回あたりの酸素濃度は、3絶対気圧(atmospheres absolute :ATA)下で外放射線療法を実施した1件を除き、いずれの試験でも驚くほど同じであった。一方、治療回数は、3週間の間隔をあけた2回のみから、8週間にわたって最高40回までと幅が広かった。全放射線量は、HBO群では副作用を抑えるために全般的に減量されていた。観察期間は試験によって異なり6カ月から10年であったが、ほとんどの試験が2~5年間、試験参加者を追跡していた。
主な結果
頭頸部癌治療に高圧酸素療法を追加することにより、治療1年後および5年後のいずれでも死亡率が低下した。頭頸部癌では、治療1年後および5年後のいずれでも、高圧酸素療法によって局所腫瘍の再発の可能性が低下した。一方、このような利点には代償としていくつかの有害事象が伴っていた。放射線照射部位での重度の組織損傷発生率および高圧酸素療法中の痙攣発作の発生率が有意に増加した。
エビデンスの質
エビデンスの質は複数の異なる臨床試験間で全般的に高かった。また、高圧酸素療法中は放射線に対する重度の有害反応の発生リスクが高くなるという質の高いエビデンスがあった。一方、高圧酸素療法を使用している場合、治療中の発作の発生リスクが高くなるというエビデンスは中程度の質であった。これは主に組み入れた試験で認められた発作回数が少なかったためであった。
結論
高圧酸素呼吸をすると死亡率と頭頸部癌の腫瘍再増殖が改善する可能性があるが、代償として副作用が増えるというエビデンスがある。
《実施組織》厚生労働省「「統合医療」に係る情報発信等推進事業」(eJIM:http://www.ejim.ncgg.go.jp/)[2018.12.25] 《注意》この日本語訳は、臨床医、疫学研究者などによる翻訳のチェックを受けて公開していますが、訳語の間違いなどお気づきの点がございましたら、eJIM事務局までご連絡ください。なお、2013年6月からコクラン・ライブラリーのNew review, Updated reviewとも日単位で更新されています。eJIMでは最新版の日本語訳を掲載するよう努めておりますが、タイム・ラグが生じている場合もあります。ご利用に際しては、最新版(英語版)の内容をご確認ください。 【CD005007.pub4】