長期または慢性静脈不全に対するセイヨウトチノキ種子エキス

足の静脈の血行不良は慢性静脈不全とも言われ、よくみられる健康問題であり、特に加齢に伴って多くみられる。下肢痛、腫れ(浮腫)、かゆみ(掻痒)、緊張、皮膚の硬化(強皮症)、および疲労を引き起こすことがある。弾性ストッキングやソックスの着用が役立つが、不快感を伴う人もおり、常時着用するとは限らない。セイヨウトチノキ種子エキス(Aesculus hippocastanum L.)は静脈不全に用いるハーブ製剤である。本レビューでは17件のランダム化比較試験(RCT)を選択した。すべての試験で、本エキスは、セイヨウトチノキ種子エキスの主要有効成分であるエスチンに標準化されていた。

全体として、複数の試験で、セイヨウトチノキ種子エキスのカプセルを2~16週間摂取すると、下肢痛、浮腫、掻痒が改善することを示した。6件のプラセボ比較研究(543例)で、セイヨウトチノキ種子エキスとプラセボを比較したところ、下肢痛の明らかな減少を報告した。浮腫、足の体積、足の周囲、掻痒についても同様の結果が報告された。本エキスと、ルチン(4件の試験)、ピクノジェノール(1件)、または弾性ストッキング(2件)を比較した研究では、下肢痛や下肢痛を含む症状スコアに有意差は報告されなかった。その他の症状に対して本エキスは、ルチン、ピクノジェノール、および圧迫と同等であった。ただし、浮腫に対してはピクノジェノールよりも効果が劣っていた。

報告された有害事象(14件の試験)は、軽度かつまれであった。6件の研究で報告された有害事象は、胃腸病、めまい、悪心、頭痛、掻痒などであった。

著者の結論: 

提示したエビデンスでは、HCSEはCVIに対して有効かつ安全な短期治療法であることを示している。しかし、複数の警告もあり、本治療法の有効性を確定するには、大規模かつ決定的なRCTが必要である。

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背景: 

慢性静脈不全(CVI)の保存療法は、大部分が圧迫療法である。しかし、これは不快感を引き起こすことがしばしばあり、コンプライアンスの低下を招く。そのため、経口投与の薬剤療法が望ましい選択肢となる。本コクラン・レビューは2002年に初版が発表され、その後2004年、2006年、2008年、2010年に更新し、さらに今回の更新を行った。

目的: 

CVIの治療において、経口投与のセイヨウトチノキ種子エキス(HCSE)の有効性と安全性を、プラセボ、または対照治療と比較して調べる。

検索戦略: 

今回の更新では、the Cochrane Peripheral Vascular Diseases Review Groupが、当該分野のSpecialised Register(最終検索日:2012年6月)とCENTRAL(2012年5号)を検索した。本レビューの旧版では、CVIに対するHCSEのランダム化比較試験(RCT)について、AMED(開始~2005年7月)、およびPhytobase(開始~2001年1月)をレビューアが検索した。HCSE製剤のメーカーや当該分野の専門家に、発表済みおよび未発表の資料について連絡を取った。言語に関する制限は設定しなかった。

選択基準: 

CVIの人を対象として、経口投与のHCSE単剤とプラセボまたは対照治療を比較したRCT。配合剤に含まれる複数の有効成分のうちの1つとしてHCSEを評価した試験や、併用療法の一部としてHCSEを評価した試験は除外した。

データ収集と分析: 

2名の著者が独立して研究を選択し、標準的な採点システムを用いて方法論的な質を評価し、データを抽出した。個別の試験評価の相違点は議論を通じて解決した。

主な結果: 

全般的に、プラセボと比較して、HCSEではCVIに関連する徴候や症状に改善がみられた。7件のプラセボ比較試験では、下肢痛を評価した。6件の試験では、プラセボ群と比較してHCSE群では下肢痛が有意に減少することを報告した。また、残りの1件の試験ではベースラインと比較して統計学的に有意な改善を報告した。1件の試験では、100 mmの視覚的アナログ尺度で42.4 mm(95%信頼区間(CI)34.9~49.9)の重み付け平均差(WMD)が示された。7件のプラセボ比較試験では、下肢の体積を評価した。6件の試験(n = 502)では、HCSEでプラセボより良好な32.1ml(95%CI 13.49~50.72)のWMDが示された。1件の試験では、HCSEは弾性ストッキングによる治療と同等の効果を有する可能性があることを示唆した。有害事象は概ね軽度で、まれであった。

訳注: 

《実施組織》厚生労働省「「統合医療」に係る情報発信等推進事業」(eJIM:http://www.ejim.ncgg.go.jp/)[2015.12.29]《注意》この日本語訳は、臨床医、疫学研究者などによる翻訳のチェックを受けて公開していますが、訳語の間違いなどお気づきの点がございましたら、eJIM事務局までご連絡ください。なお、2013年6月からコクラン・ライブラリーのNew review, Updated reviewとも日単位で更新されています。eJIMでは最新版の日本語訳を掲載するよう努めておりますが、タイム・ラグが生じている場合もあります。ご利用に際しては、最新版(英語版)の内容をご確認ください。

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